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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
199/209

異世界の夜の城下町を踊り子フェズと

 その日の夜。

 10時間以上乗った馬車を降りて、目を見張った。

「ここが、セントラルライフシティ……! でかい……!」

 ――すっかり暗くなってから、馬車は大きな街の大きな馬車駅に着いた。


 魔法灯がたくさん設置してある城壁の元、深夜近くだというのに、多くの人々が行き交っていた。


 異世界に来たからには、一度、大きな街を巡ってみたいと思っていた。

(雑貨屋のみんなと見て回りたかったけど……)

 しっかりとしていれば、社員旅行と称して、そんなこともできただろうに。


 しんみりと眺めていると、馬車の同乗者だった踊り子、フェズがにこりと笑って踊るように腕を広げて言う。


「人口はこの大陸で一番多いかもです! 偉い人が定期的に集まるから、その人達に売りつけて儲かってる人がたくさん住んでます! わたしは踊りを見せつけて儲かるつもりです!」


「え、じゃあ、あの城って本当に城として機能しているの?」

「もちろんですよ! ま、王様はもういないですけど。世界政府の偉い人が夜なべして会議しているらしいですよ!」

 ……それ、夜なべって言うの?


 どちらにしろ、偉い人の会議なんて興味がない。

「テキトーにご飯食べて、安い宿に泊まろう」


「何言ってるんですか! 長旅で疲れてるんだから、たくさん食べないと! おいしい店に案内しますよ! あと、安い宿も!」


「マジで言ってるの……? 若いっていいねえ」

 何なら、何も食べないで横になりたいくらいなのに。


「そんなに年じゃないでしょ! 行きますよ!」

 その声は、夜の街灯の光と混じって、やけに綺麗に響いた。


 大通りの喧噪を楽しみながら、フェズの後ろ姿についていく。

 今のフェズは馬車に乗っていた水着っぽい衣装ではなく、グレーの布を器用に巻き付けてコートのようにして身につけいている。


(それにしても何て人の数だ)


 もう夜10時は過ぎているはずなのに、人でごった返していた。

 いや、人だけではない。耳のとがったエルフっぽいお姉さんや、横にやたらでかいドワーフ、ワイバーンみたいなのもいる。

 とにかくみんな、角が生えていたり、毛むくじゃらだったり、羽が生えていたり。

 シルクハットを身につけたネコまでいる。


 ただ、共通しているのは全員が陽気に顔を赤らめているところだ。


(田舎では居酒屋の周りにぽつぽつと人がいる程度なのに)


 まさに、異世界。

(こういうところで店をやれば、いくらでも儲かっただろうなあ……)

 隣の芝生は青いと言うから、本当のところはわからないけど。


「さ、ここです!」


 彼女が案内したのは、細い路地に入ってすぐの、黄色いイメージカラーの店だった。

『卵料理専門店』

 黄色イメージに無骨な茶色の看板が不釣り合いだったが、卵料理なら食べられるな、と妙に安心して店へと入っていった。


 ***


「ここなら、弱った胃袋でも大丈夫でしょ!」

 テーブルに座ったフェズがやたらと明るく言う。


 店内はそれなりに広く、カウンターに、4人掛けのテーブルが8台もあった。

 客はおとなしそうなローブをかぶった人が静かに食べているだけだった。


「そうだな。じゃあ、オムライスで」


「わたしも! おじちゃん、オムライス2つとおすすめのお酒! ボトルで!」


 あいよー、と威勢のいい声が厨房の方から返ってくる。


「おい」


「二人なんだから、ボトルで空けた方が安いですよ」


「いや、酒を楽しむ体力なんて残ってないぞ」

 馬車に10時間以上も乗ると、座っているだけなのに妙な疲れがある。今にも寝てしまいたいほどなのに。


「呑めばきっと呑めますよ!」

 この子、もしかしてお酒好き……?


「その理屈はおかしい」

 踊り子なんて職業やってるから、お酒が好きなのはわかるけど。

 いやそれは職業差別になるんだろうか?


「お酒に理屈なんて、野暮ですよ……!」


 気がつくと、もうグラスに入った赤いワインを呑んでいた。

(速い……!)


「いまの、魔法?」


「何言ってるんですか! 踊り子たるもの、呑めるときに呑むんです! コルク抜いて注ぐまで1秒です!」


 自慢げに俺の前のグラスに注ぐ彼女。


「ああ、そう」


 諦めて彼女の注いだグラスを持ち上げて口にする。


「あ、乾杯忘れてました! かんぱーい!」

「はいはい、乾杯」


 独特のペースに巻き込まれてしまう。

(今夜くらい、いいか)


 と油断したとき、大通りのほうから、ひときわ大きな声が上がった。

「食い逃げだーー!」


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