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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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褐色の踊り子

【あらすじ】雑貨屋メンバーの魔力を取り戻すため、単身、魔王モールに向かうクタニ。魔女ヒルデに激励され、魔王モールへ向かうが。

 次の日の朝、目が覚めると、宿のベッドにいた。


「昨日のことは、まさか、夢……?」

 考えている暇はない。

 朝一の馬車に乗るため、ぼんやりして荷をまとめていると、リュックのポケットに筒状のものが見えた。


「いや、夢じゃなかったんだ。夢のような時間ではあったけど……」

(夢だけど、夢じゃなかった!)

 ネタを頭の中に展開している場合ではない。


 朝の空気が、迫っている。


「まずい! 乗り遅れる!」

 慌てて身支度をし、朝日より早く宿を飛び出す。


 その日は、朝一の馬車に乗って夜までかけて、次の街に行く予定だった。

 馬車の中でゆっくり寝ていよう、と思っていた。


 ただ、相乗りの人間に、――とても変わった者が乗っていたため、それはかなわなかった。


 ***

 馬車に乗っていたのは、見るからに踊り子だった。

 黒と青の混ざったような長い髪、褐色の肌。

 水着のような露出の高い衣装。


 体つきは、見事なプロポーション。

(歩くグラビアアイドルかよ)


 ただ、ひらひらの薄い羽衣のようなものを纏っていて、エキゾチックな異世界の雰囲気を醸し出している。


 ただ、その顔はベールのようなものがかかっていてよく見えない。美人なのはよくわかる。


 しかも二人きり。


 馬車はもう出発している。


 露出の高い女性が側にいるせいで、眠気が吹き飛んでしまった。黙っているのも不自然なのでひとまず話しかける。

「あの、踊り、なさるんですか?」


「はい! よくわかりましたね!」


 見た目の割に、幼い子どものような元気な返事が返ってくる。話しかけられてうれしいようだ。

 ベールのついた帽子を取って、にっこりと笑顔になる。

 その目の色は、吸い込まれるような黒だった。


「まあ、これでも店長やってましたからね」

 意味もなく肩書きを言ってしまう。


「へぇ、すごい! 何の店長ですか?」


「雑貨屋と飲食店、ふたつの掛け持ち、かな」


 つい見栄を張った感じで答えてしまう。イートインなのに。

 男って悲しい生き物である。


「二つも! やり手ですね! 踊りに行っていいですか!? あ、わたし、踊りで稼ぎながら旅しているんです!」


「そりゃすごい。でも、一人で? 危なくない?」


「大丈夫です! 私、強いんで!」

 白い歯を見せて力こぶを作る踊り子。

 その笑顔を見ていると、暗くなっていた気持ちもちょっと晴れてくる。


「そりゃ頼もしいね。踊りもうまくて強くて、しかもそんなに美人だったら、男が黙ってないだろう?」

「え!? そんなことないですよ~」


 〈バンッ!〉

 軽く叩かれただけだが、ものすごい衝撃が全身を駆け巡る。思わず息が詰まる。


 踊り子が両手を合わせて謝る。

「あ~! すみません! いつの間にか魔法をまとっていました!」


「これ、何の魔法? 後遺症とか残らないよね?」


「それは大丈夫です! ただの振動魔法が漏れ出てるだけなんで……」


「振動魔法が、漏れ出てる?」

「いやあ。わたし、魔法を無意識に使っちゃうんですよね。漏れ出るって表現が一番しっくりきて」


「それはうらやましい。俺なんて一切使えないからなぁ」


「へえ、使えない人も珍しいですね。でもこの時代、魔法の強さなんてほとんど必要ないですよ。魔王だってお金を取ることしか考えてませんし」


「お嬢さん、お金は命より重いんだよ……」


「意味深!」


「経験が違うのさ……。ともかく、キミは今どこに向かっているんだい? 俺は魔王モール2号店だけど」

 この馬車の到着地はセントラルライフシティだ。そこからすぐのところに、魔王モール2号店があるらしい。


「わたしもです! 次の町で一泊して、そこから魔王モールに向かう予定です!」

「じゃあ、目的地も、予定も一緒だ」


「ですね! よかったら、一緒に行動しましょ! 二人だと、面倒ごとに巻き込まれにくいし! セントラルライフシティは詳しいからあんないします!」


「それは心強いけど、キミ、そんなに無警戒でいいの? 出会ったばかりの男に」


「旅慣れているんで、人を見る目はあるんですよ! お兄さんは大丈夫です!」


「それはそれは。光栄です。じゃあ、案内をお願いしようかな。ところでキミ、名前は? 俺はクタニ」


「わたしは、フェズ。よろしくね、クタニさん」


 そう言って、黒い瞳でにっこりと笑うフェズは、まるで古いおとぎの国から飛び出してきたような美しさを纏っていた。


 ――このとき、俺は何も知らなかった。

 この出会いが、魔王モールその存在そのものを震撼させることになるなんて。



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