小さな魔女と二重転生の過去
【あらすじ】雑貨屋をやめて魔王モールへ向かうクタニ。麓の町で一泊しようとしたところ、森に迷ってしまい、遠くまで飛ばされてしまった。そこにいたのはなんと、死んだはずの魔女、ヒルデガルディ(ヒルデガルドより改名中)だった。
魔女ヒルデガルディ(ヒルデガルドより改名中)。
圧倒的な魔力で、神話級のモンスターさえ、手玉に取る、伝説の魔女。
概念の怪物のかけらを追い払い、店を救ってくれた、魔女。
「ずいぶん、かわいらしくなりましたね」
「かわいいのは元からだろう」
胸を張って、さも当然のように言う。
小さくなって生き返ったというのに、相変わらずだ。
その姿は、130センチくらいで、イゴラくんと同じくらい。
「……にしても、生きていたんなら、連絡くらいよこしてもいいのに」
「つい先日、キミのおかげで、生き返ったのさ」
「え?」
「きいてなかったのか? 言わない方が面白いってことか……?」
小さなあごに手を当てて、なにやら独り言を呟く魔女。
「気になります、話してください」
「面倒だなあ。ともかくキミの魂が余ってたから、貰って復活したってことだ」
「魂が余ってた?」
「北の山にね。キミの魂というより、キミの前世の魂ということ」
「前世は、引きこもりだったんですが」
「それはまだ続いている生だよ。その前だ」
「その前……?」
「そう、キミは、二重転生して、この世界にきた。いや、“戻ってきた”のさ」
「は?」
そういえば、ヒュームンさんがそういうことを言っていたような……。
「もしかして、魔法学校に通っていたんですか? それで、すごい魔法が使えて、記憶を消して転生した」
何となく考えてた推測を、小さな魔女に話す。
「いや、それはキミの片割れだ。いや、割れる前か……? 詳しいことは私にもわからん。そんなのはどっちでもいい。重要なのは、キミの魂と私の魂が同一のものであるということだ」
「なぜ重要なのです?」
「つまり、私たちは兄妹になったということだ。ということで、クタニお兄ちゃんと呼ばせて貰う」
「とても光栄ですが、昔のようにお願いしますよ……。俺は何て呼べば?」
「昔のように師匠と呼んでくれてかまわないよ。もっともあのときのような魔力はもう残ってないがね。ちんけな魂で生き返ってしまったから」
命の恩人の魂に何てことを言うんだこの幼女は。
「さっき使った魔法は?」
「あれは、初歩的な幻覚魔法さ。初恋の相手に振られる魔法を作っているのだが、幻覚は見れたかな?」
「……きれいな白ネコに殴られたんですが」
「はは……! キミはやはり面白いなあ! 初恋がネコか!」
「んなわけないでしょう。ていうか、普通に魔法に失敗してますよね? さすがに初恋が白ネコなわけないですよ」
「ま、どんな天才も、最初は失敗を重ねるものさ」
「失敗しすぎたら、……何もできなくなりますがね」
落ち込むこちらの顔を見て、少し声を落とした魔女が言う。
「一人でこんなところにきてるんだ。おおかた、家出でもしたんだろう。しかも自分を犠牲にする形で」
「隣で見ていたように当てないでください」
見事に言い当てた魔女は、それ以上は何も言わず、小さな森の家へ招き入れてくれた。
その小さな家に入れることが、不思議と、何よりも安心することのように思えた。
月明かりの照らす花壇の脇を通って、優しく包み込むような灯りに満たされた家へと入っていった。




