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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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迷いの夜と月照の奇跡

【あらすじ】雑貨屋メンバーの魔力が奪われたため、魔王モール2号店に、一人で交渉に向かうクタニ。麓の町で一泊することにしたのだが……。ハロウィンの夜、何も起らないわけがなく……。

 その深夜、俺は……道に迷っていた。

 比喩ではなく、物理的に迷っていた。


 町の近くの森に、月の光を反射するいい感じの湖がある、と宿の人にきいたので、一杯引っかけて帰ろうと考えていたのだ。

 だけど、迷ってしまった。

「くそ、慣れないことするからこうなるんだ」


 宿の人に借りた魔法灯の灯りは十分だけど、初めての森だ。歩くのが自然と遅くなる。


 歩いても歩いても同じような暗い道。宿の人が言っていた「歩いてすぐ」を信じたのが、間違いだった。


 酒瓶が妙に重い。だけど今呑んでしまうと、さらに状況が悪くなるのは明白だ。


 ずっと続く暗い道。いくら目をこらしても先が見えない。

 まるでこれからのことを、暗示しているような暗さだった。


 そのとき、木の上に黒い小さな影が見えた。


「……っ!」


 思わず大きく後ずさる。


 そこには、……ネコがいた。

「……ニャー」

 弱々しく震えており、こちらに向かって悲しげな目を向ける。


「なんだお前、降りられなくなったのか。まったく、俺の人生と同じだな」


 同類だし、助けてやるか、と木によじ登って手を伸ばしたとき。


 木が、浮いた。

 風も起こさず――浮いた。


「ちょ……」


 空に浮かんでいって、上空をどこかに向かって浮遊する。

 木にしがみつき、魔法灯を落としてしまう。


 しばらく暗闇を浮遊し、森の開けた場所にたどりついた。

 音もなく着陸する木。


 地面に足を下ろし、息を吐く。


 木の上で震えていたネコはいつの間にか消えていた。


 すると、いきなりネットのようなものに絡み取られた。

 ぐるぐると蜘蛛の糸のようなものを巻き付けられ、木にぶら下げられる。


「おい、本当に人間がかかったぞ」

「ご主人様に伝えなくては」

「でも、お休みでは」

「今日はいいんだ。こいつお菓子も持ってるし」


 周りで騒いでいるのは、小さなぬいぐるみだった。


 モチを引き延ばしたような白い体に、丸い手足。ぷるん、と震えるたび、淡く光った。

(ちょっとハニワに似たデザインだな……悪くない)


 冷静に見ていると、奥にある小さな家から、叫び声が聞こえた。

「まずい、ご主人様がご機嫌斜めだ!」

「こいつはここに放置して、逃げよう!」


 一目散に逃げ出す、白いぬいぐるみたち。

「おい、ちょっとまて!」

 叫んでも無駄だった。


 真っ暗になる。灯りはない。月明かりも雲に阻まれて届かない。

 ぽつんと一人になる。


 まるで木にぶら下がっている蓑虫だ。

 家の方から誰かが出てくる。


(こうなったら、酒を献上して、逃れよう……)

 腰にぶら下がった酒瓶とつまみに賭けることにした。


 だけど、その人物は消えてしまった。


 いや、違う。その人物を中心に、空間がねじ曲がる。

(まずい、幻覚魔法か……!?)


 〈シャラン〉


 俺は、綺麗に整えられた、英国風の庭にきていた。奥には立派な白い屋敷が見える。


 目の前には……白ネコ。

 とても美しい白色の毛並み。

 さらに美しいのは左右の目。色が違う。右が青で、左が黄色。

 そのネコがこちらにそっと近づき、――ネコパンチをした。

 〈バシュ!〉


「っ!?」

(なんでいきなりネコに殴られるんだ!?)


 白ネコはふいっと立ち去っていき、植木の影に見えなくなってしまった。

 状況が見えないまま、空間がまたねじ曲がる。

「……ん?」


 〈シャラン〉


 直後、魔法は解け、また木にぶら下がっていた。


 暗闇に、わずかな光。

 これは本物の火だ。ランプの光。


「どこのジャックかと思いきや、大馬鹿者がつれたようだ」


 真っ黒のローブの小さな女の子が、年代物のランプをかざしていた。

 つばの広い魔女の帽子、銀色の髪。

 その目は、綺麗なエメラルドグリーン。


(……!)

 のぞき込んできた目を見て、確信する。


「ジャック・オー・ランタンは生前に悪さをした奴ですよ。俺は引きこもっていただけです」


「何も決めきれなかったという点では、共通しているな」


「……相変わらず、手厳しいですね」


「ではその腰の酒で、優しくしてみたらどうかね、不肖の弟子よ」


「お菓子で我慢してください、――師匠」


 そう言った瞬間。

 雲間が開け、世界が息を吹き返すように、月光が降り注ぐ。


 月明かりをスポットライトのように浴び、ふざけたように口元を歪ませたのは、――伝説の魔女だった。


もともと復活予定でした。長引かせてすみません。

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