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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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自分の店をクビになる

【あらすじ】雑貨屋を守るため、皆の魔力を取り返すため、魔王モール2号店へ向かう主人公ですが……。特別更新です。

「話、まとまったみたいね」

 備前さんと信楽さんが入り口に立っていた。

「私たちも、ここを出るわ。もともと北の町に行こうとしてたの」

 赤いポニーテールをなびかせて備前さんが言う。


「拙者も、なんと土鍋魔法はばっちり使えるでござる」

 土鍋魔法ってどれだけ強いんだよ。


 でも、二人とも仕事がなくてこっちにきてたような。心配になって尋ねる。

「お二人は、どこか仕事の当てがあるんですか?」


 備前さんがあごに人差し指を当てて空を眺める。


「うーん、実は魔王モールと団子と皿のセットを専売契約して貯金はまだ残ってるんだ」


 ……魔王に目をつけられた理由って、あんたらのせいじゃないよな。


「貯金を切り崩してまで、なぜ北の町に?」


 彼らは残ってくれると思っていたけど、よく考えたらイートインあってこその彼らだった。

 閉めてしまった今、引き留める理由もない。

 だけど、理由くらい知っておきたい。


「えっと、それはぁ……」


 言いよどむ備前さんに、信楽さんがお腹をポンと叩いて言う。


「ありったけの夢をかき集め、探し物を、探しに行くのさ」

「ひとつなぎの大秘宝!?」


「さすがクタニ殿! ナイスツッコミでござる! ……ま、野暮用でござるよ」

 親指を立てて、信楽さんが満面の笑みになる。

 さすが先代勇者パーティーのリーダー。空気が和やかになる。

 備前さんが笑顔で続ける。

「ま、私たちも、野暮用済ませたら魔王モールに立ち寄ってみるわ。大丈夫。買収されたら買収し返せばいいのよ!」


 買収じゃなくてフランチャイズ契約なんだけど、あまりわかってなさそうだ。

 ……どちらにしても、買収し返す、という発想はありかもしれない。


 この人ならやりかねない、と思いながら、笑顔を返す。

「あいかわらず、破天荒ですね、おかげで目の前がちょっと明るくなりましたよ」


「でしょ-。取り返しのつかないことなんて、滅多にないのよ。それじゃ!」

 満面の笑みで、二人は去って行った。


 ***

 その日の夕方、調子の悪いメンバーに囲まれて、店の入り口に立っていた。

「そんな大げさに見送らなくても」

 明るく言って大きなリュックを持ち上げる。

 みんな暗い面持ちだ。


 スコリィが心配そうに口を開く。

「てんちょー、本当に一人で行くんすか?」


「ああ。大切なのは、この店なんだ。……俺じゃない」


 ペッカが顔を上げずに言う。

「だが、……お前の店だ」

「もう、みんなの店だ」


「店長さんも、みんなの一人ですよ」今にも泣きそうなガディ。

「気を遣わなくて大丈夫だ。こういうの慣れてるから。二人一組になるとき、余る奴がいるだろ? だいたい俺だ」

 誰も笑わない。

 ライムチャートちゃんが顔を歪ませる。

「ね、ネタが相変わらず、ニッチですね……」

「とにかく、みんなの魔力を取り戻してくるよ。俺みたいな無力な奴が一人で行けば、戦いにはならないだろうし」


 転がってきたスラコロウ。

「その前にオイラが取戻すかもしれないがな」

「それもいい話のネタになるさ」


 薄く笑って、店を見上げ、――はっきりと、言う。


「俺は今日で、クビだ」


 そう宣言し、夕日を浴びながら、30センチも上がった丘をゆっくりと下っていった。

 ――たぶんもう、戻ってくることはないだろうと思いながら。


夜にもう一話更新するかもしれません。

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