自分の店をクビになる
【あらすじ】雑貨屋を守るため、皆の魔力を取り返すため、魔王モール2号店へ向かう主人公ですが……。特別更新です。
「話、まとまったみたいね」
備前さんと信楽さんが入り口に立っていた。
「私たちも、ここを出るわ。もともと北の町に行こうとしてたの」
赤いポニーテールをなびかせて備前さんが言う。
「拙者も、なんと土鍋魔法はばっちり使えるでござる」
土鍋魔法ってどれだけ強いんだよ。
でも、二人とも仕事がなくてこっちにきてたような。心配になって尋ねる。
「お二人は、どこか仕事の当てがあるんですか?」
備前さんがあごに人差し指を当てて空を眺める。
「うーん、実は魔王モールと団子と皿のセットを専売契約して貯金はまだ残ってるんだ」
……魔王に目をつけられた理由って、あんたらのせいじゃないよな。
「貯金を切り崩してまで、なぜ北の町に?」
彼らは残ってくれると思っていたけど、よく考えたらイートインあってこその彼らだった。
閉めてしまった今、引き留める理由もない。
だけど、理由くらい知っておきたい。
「えっと、それはぁ……」
言いよどむ備前さんに、信楽さんがお腹をポンと叩いて言う。
「ありったけの夢をかき集め、探し物を、探しに行くのさ」
「ひとつなぎの大秘宝!?」
「さすがクタニ殿! ナイスツッコミでござる! ……ま、野暮用でござるよ」
親指を立てて、信楽さんが満面の笑みになる。
さすが先代勇者パーティーのリーダー。空気が和やかになる。
備前さんが笑顔で続ける。
「ま、私たちも、野暮用済ませたら魔王モールに立ち寄ってみるわ。大丈夫。買収されたら買収し返せばいいのよ!」
買収じゃなくてフランチャイズ契約なんだけど、あまりわかってなさそうだ。
……どちらにしても、買収し返す、という発想はありかもしれない。
この人ならやりかねない、と思いながら、笑顔を返す。
「あいかわらず、破天荒ですね、おかげで目の前がちょっと明るくなりましたよ」
「でしょ-。取り返しのつかないことなんて、滅多にないのよ。それじゃ!」
満面の笑みで、二人は去って行った。
***
その日の夕方、調子の悪いメンバーに囲まれて、店の入り口に立っていた。
「そんな大げさに見送らなくても」
明るく言って大きなリュックを持ち上げる。
みんな暗い面持ちだ。
スコリィが心配そうに口を開く。
「てんちょー、本当に一人で行くんすか?」
「ああ。大切なのは、この店なんだ。……俺じゃない」
ペッカが顔を上げずに言う。
「だが、……お前の店だ」
「もう、みんなの店だ」
「店長さんも、みんなの一人ですよ」今にも泣きそうなガディ。
「気を遣わなくて大丈夫だ。こういうの慣れてるから。二人一組になるとき、余る奴がいるだろ? だいたい俺だ」
誰も笑わない。
ライムチャートちゃんが顔を歪ませる。
「ね、ネタが相変わらず、ニッチですね……」
「とにかく、みんなの魔力を取り戻してくるよ。俺みたいな無力な奴が一人で行けば、戦いにはならないだろうし」
転がってきたスラコロウ。
「その前にオイラが取戻すかもしれないがな」
「それもいい話のネタになるさ」
薄く笑って、店を見上げ、――はっきりと、言う。
「俺は今日で、クビだ」
そう宣言し、夕日を浴びながら、30センチも上がった丘をゆっくりと下っていった。
――たぶんもう、戻ってくることはないだろうと思いながら。
夜にもう一話更新するかもしれません。




