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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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強がり

【あらすじ】襲撃され、謎の少女ダリちゃんの暗躍でメンバーの魔力のほとんどを奪われてしまった雑貨屋。クタニは魔力がもともとなかったので平気なようですが。

襲撃の夜。

雲に隠れた月の光。

一応の、平穏が戻った。


ただ、相変わらず、皆の魔力は戻らないようだった。

ガディは水の里とうちの風呂をリンクさせたらしく、そのおかげで早く回復したという。


元勇者たちは、寝れば回復するとかいって早々に寝てしまった。器がでかい。

カウンターから空を見上げる。


――思えば、この店もいろいろあった。


イゴラくんがきて、スコリィがバイトして、ペッカと契約して、ガディが社会勉強で働いて、固いスライムまで働くようになって。

神様や魔女だって現れる、変な雑貨屋。

ついには元勇者や異国のアフロ少女まで来て、見事に裏切られて。


店長だから、転生者だからと調子に乗って、ハニワ作ったり、変なことばかりする俺。


……この店で一番いらないのって、俺なんだよな。


その夜はついに、雲の影から月が顔をのぞかせることは、なかった。


***

次の日の朝、大きな箱が届いた。

商品として売ってくれと言われてたハチミツキャンディーが山のように入っていた。

スコリィが喜んで飛びつく。

「これはおばちゃんのアメっす!」

さっそく一つ袋から取り出して、満面の笑みでこちらに親指を立てる。


同封の手紙に、魔王モール危険ペットショップについて書かれていた。

『彼らは、どうも強力な魔物を集め、高値で取引をしているようです。それも、概念の怪物まで扱おうとしてるので危険極まりです。十分に気をつけてください』


これって、もしかして、概念の怪物を手なずけようとしている……?


直感する――無理だ。


あれはもう、台風や地震みたいな天災だ。


魔王といえども、そんなことができるわけが。

気分が悪くなり、水をのみに厨房へ行く。


「スコリィ。ハチミツキャンディーカウンター横に並べておいてくれ。食うなよ」

「ういーっす」

頼りにならない返事をしたスコリィに雑貨屋を任せ、席を立った。


***

厨房に行くと、机の上にはアツミさんからの手紙。

『昨夜は皆無事で何よりでした。まだ人前で力を使わないことにしているんです。あと、イートイン、あまり力になれなくてごめんなさい。でも、私が今回の旅を終えたら、きっとまた力になれるはずです。アツミ』


(やっぱり彼女もタヌキ寝入りか。力のある人って、自分一人でなんでも背負い込んでしまうんだよな)


厨房の隅に彼女の得意料理のコロッケが山のように積まれていた。


コップに水を入れて、一気に飲み干す。


……とにかく落ち込んでばかりもいられない。


窓の外から、朝日がぼんやりと顔をのぞかせる。


(彼女がまた立ち寄ってくれたとき、平和になっているのが一番なんだけどな)

コロッケを一口かじる。


「うまい」

薄雲のかかった朝の空は、とても静かだった。


***

「というわけで、この店を出て行きます」

会議室でテーブルの前に立って言う。


「は?」

「何を言ってるんだ?」

動揺するメンバー。


皆を集めて、朝会議。

テーブルには朝食代わりのコロッケの山。


それを囲んでいるのは、スコリィ、ライムチャートちゃん、ペッカ、ガディ、スラコロウ。全員、魔力吸収されて、調子が悪そうだ。


「何を、言っているんだ?」

一番調子が悪そうなペッカ。魔力をほとんど持っていかれたようだ。


「雑貨屋のことは、スコリィに任せる。イートインは閉めたままでいいから、雑貨屋を頼む。今日からお前が店長だ」

スコリィが目を丸くする。

「は?」

固まった彼女にかまわずに続ける。

「どんなに低空飛行でもいい。ちょっとくらい赤字でもいい。続けてくれ。経営ルールはこっちのノートに書いてるから、それに従えば大丈夫だ」


「は? え? ……って、けっこうマメっすね、店長」

受け取ったノートをぱらぱらと繰りながら、スコリィが感心する。


何かに気がついた様子のガディが質問する。

「まさか、一人で魔王モールに行く気ですか?」

昨夜、大活躍した彼女は、風呂上がり直後しか調子がよくないらしく、30分おきに水風呂にいっている。水につかれば回復するとはいえ、調子が悪いのは事実だ。


「ああ……。でも安心してくれ。この店を魔王モールに渡す気は無い」

「と言われましても……」

ガディはあたふたとするばかり。

「大丈夫だ、まだ打つ手はある」

……実は何もないけど。

できる上司のように彼女の肩に手を置く。

「大丈夫だって。今までもどうにかなっていただろ?」

「そうですけど……」

彼女はそのまま黙ってしまった。


にしてもまさか、こんな辺境の個人店にまでフランチャイズ契約を迫ってくるなんて。

考えが甘かった。

だけど。


ライムチャートちゃんが珍しく提案する。

「お、脅されて、つい契約してしまわないですか? ついて行ってあげましょうか?」

「いや、力で挑めば、より強い力で返される。魔王モール全体を一人で相手にするつもりか?」

「べ、別にかまいませんけど」

……この子なら、それでもいけそうだな。残ってる半分の力が神の力だし。


いや、ダメだ。

「いつ兄のイゴラくんと交代するかわからないんだ。危険なことはさせられない」

「そ、そうでした」


しょぼんとするライムチャートちゃん。

「気持ちはありがたく受け取っておくよ」

彼女の頭をガシガシとなでる。タルのようなレンガ帽子があるから、なでにくい。


〈パタン〉

スコリィがノートを閉じていう。

「ルルドナさんは?」

部屋の空気が固まる。

「……、ルルドナは、おいていく。あの調子だし」


そう、彼女は、動けなくなっていた。魔力を奪われている上に、乾燥魔法でひび割れたところに苦手な水までもらってしまった。一番ダメージをくらっているのは、彼女だ。

今は、応急措置をして、ベッドに休ませている。


「……今はたしかに、安静にしていた方ががいいっすね」


「そういうこと。夜はもう閉めてていいから、店を頼む」

「やるとしても店長代理っすね。永久店長なんてアタシはそんなの向いてないっす。早く帰ってきてほしいっす」

永久店長ってなんだ。

「ま、ひとまずそれでいいよ。早く帰るように善処するさ」

……帰ってこれる保証、ないけど。


スラコロウは、ことの深刻さをまったく気にしない様子で発言する。

「オイラは、この魔力吸収の呪いを解析しておく。未知の魔法だけど、何とかなるかもしれねぇ。お土産、よろしくな」


淡々と言葉を並べるスラコロウ。そうか、こいつは解呪魔法を使えるんだった。

「ああ。……お前、なかなか頼りになるな」

「やれることをやるだけだ。田舎者をなめるな」

「なめたことなんてないよ。頼りにさせてもらう」


スラコロウの頭をポンポンと叩く。いつもより、固い気がする。

こいつも、無理をしているのかもしれない。


そのとき、コロッケを丸呑みしたペッカ。

皆、話題にしてなかったけど、ずばりと言う。


「あの小娘はどうする? スパイはあいつだったんだろう?」

「ダリちゃんは、きっと理由があるんだよ。じっくりと話してみる」

――あのときの表情を思い出す。強くかみしめた下唇。


「あいつの未知の魔法がなければ、俺様たちが遅れを取ることはなかった。……間違っても、もう一度仲間に入れようなんて思うなよ」


「それは、話してから考えるよ」

「人が良すぎると、いいように扱われるだけだぞ。特にガキは」

……お前もガキだろ。ミニドラゴンめ。

だけど、一番心配してくれているのかもしれない。


「大丈夫、案外、すぐに帰って来るさ」

安心させるように、ゆっくりと一人一人の目を見て、頷く動作をする。


異世界に来て得意になったことを一つあげるとすれば、――強がりだ。


おっさんの99%は強がりでできています。

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