表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
189/196

店を守る者たち

【あらすじ】メンバーが次々と倒れたため、雑貨屋のイートインを臨時休業させたクタニ。その夜、スパイがいるとのルルドナの指摘。クタニは心当たりがあるようだが……。

 静かな夜に突如の襲撃。


 まさか、みんなが寝込んでしまったその日に、敵襲が来るなんて。

 唯一元気なスコリィは夜のシフトに入っていない。


 攻撃を放った細身の影が言い放つ。

「我は、魔王モールフランチャイズ契約部門、エムア・ベニュー! ここの店と土地を、無理やり奪おうと思いましてねえ!」


「させるか!」

 ポケットの中のハニワを投げつける。

 だけど、ハニワは地面に転がり、動かない。

(こいつらも、魔力切れか!?)


「魔力のないあなたたちに何ができますかねぇ!」

 敵が高笑いをしそうになったその瞬間。


「私、ちょっと特別なの」


 彼の後ろに回ったルルドナが回し蹴りを放つ。

「……さすが。ですが、攻撃にキレがありませんねぇ!」


 〈ズゥン!〉

 蹴りを止めた闇の塊にはじき飛ばされ、こちらに落ちてくるルルドナ。

「うっ……!」


 何とか受け止める。そこで気がつく。驚くほど、――軽い。


「大丈夫か?」

「余裕、よ」


 吹き飛ばされた彼女は、どうやら重力魔法がうまく使えないようだ。

 何度も魔法の攻撃が飛んでくるが、すべてかろうじて防いでいる様子だ。


 こんなに苦戦するルルドナを見るのは、初めてだ。

 しかもよく見たら体中にヒビが入っている。


「あなた方のデータはすでに取らせて貰っていますよ! 有能な部下がいましてねえ!」


「……!」


 ――スパイがいるわよ。

 ルルドナの声を思い出す。


「その店は我々が半壊させ、魔王モールフランチャイズ店として生まれ変わらせることにします」

「勝手なことするな!」

「店が壊れても、文句を言えますかね!」


 ひときわ大きな闇の塊が襲いかかる。

 そのとき。


 〈キィン!〉

 攻撃がはじかれる。


「いやあ、仮病使ってて正解だったよ」

 空に、巨大な、円盤のような物体が僕らを守るように浮いている。

 赤い、溶岩のような、異様な、皿。――備前焼の大皿。


「な……!?」異様な物体に目を見開く、敵。

「備前さん!」


「映画みたいに格好良く助けに来たけど、どうだったかな?」

「ばっちりです!」


 そういった瞬間、敵の後ろに飛び上がる影。タヌキのような巨体。

 両手の指をがっしりと組み合わせている。


「拙者、鍋を焦がしたのは生まれて初めてでござる」

 怒りのこもった一撃。闇の防御を突き抜ける。

「信楽さん!」


 一撃をもろに食らった敵が地面に激突する。


 周囲に土煙が上がる。


 だがその中で自分の傷を見ながら高笑いをする敵の影。

「ははは、すばらしい! これが元勇者たちの力ですか!」


(六古窯も、調査済みか)

 

 あまりダメージを食らっていない様子の敵が大きく上空へ飛び上がる。


「……にしても、魔力をほぼ奪ったハズですが。予想外の戦力ですねえ。仕方ない」

 彼がポケットから何かを取り出す。彼の周囲にまだらな空間の幕が発生する。


「魔王様直々の新結界です。あなた方、元勇者は、魔王様の魔力には対抗することができない。一魔王一勇者の原則です」


「……なっ! 体が動かない……!」

 二人とも攻撃ができない様子だ。


「では、ゆっくりと巨大魔法を練り上げ、確実に壊して差し上げましょうかねえ」


 ひときわ大きな闇の塊が上空に出現する。

 不協和音を響かせるような、光の届かない、闇。


 目前に広がる闇。心までわしづかみにされそうだ。

(くそ……みんな倒れてるのに、俺一人で何ができる)

 闇が広がる。

 それでも口が勝手に動いた。


 ――思いがけない言葉が口から出てきた。

「やめろ! わかった! この店は、捨てる! 俺が出て行く! 魔王フランチャイズでいい! だから……!」


「はっはっは、素直でよろしい。では契約書にサインを……」


 そのとき、闇の塊が、音もなく崩れ落ちた。

 風が、渦を巻く。空に特大の白い魔法陣。


「そがんことせんでよかばい」

 ――その声を、俺は知っていた。


 とても頼もしい、強力な魔法使い。

「ライムチャートちゃん!」


 兄のイゴラくんと入れ替わりでしか、存在することのできない、妹。

 神とゴーレムの子ども。

 頭に巨大なタル状のレンガの帽子、ぼさぼさの髪、細い手足、レンガのブーツ。


「魔王が、そがんせこかことするけん、この世界が息苦しかとよ」

 なぜか戦いのときは九州弁になる、博多女子になりきる女の子。


 〈パリィン〉

 魔王の結界が破られる。


「な……」敵の驚愕した顔。


「ずっと引きこもとったけん、データば取れんかったみたいやね」

 隣に立つ、小さな少女。


「ありがとう、ライムチャートちゃん。乾燥に、気をつけて」

 そうアドバイスすると、彼女は顔をぽかんとさせ自分の頬を触った。


みなさん、乾燥には本当に気をつけてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ