店を守る者たち
【あらすじ】メンバーが次々と倒れたため、雑貨屋のイートインを臨時休業させたクタニ。その夜、スパイがいるとのルルドナの指摘。クタニは心当たりがあるようだが……。
静かな夜に突如の襲撃。
まさか、みんなが寝込んでしまったその日に、敵襲が来るなんて。
唯一元気なスコリィは夜のシフトに入っていない。
攻撃を放った細身の影が言い放つ。
「我は、魔王モールフランチャイズ契約部門、エムア・ベニュー! ここの店と土地を、無理やり奪おうと思いましてねえ!」
「させるか!」
ポケットの中のハニワを投げつける。
だけど、ハニワは地面に転がり、動かない。
(こいつらも、魔力切れか!?)
「魔力のないあなたたちに何ができますかねぇ!」
敵が高笑いをしそうになったその瞬間。
「私、ちょっと特別なの」
彼の後ろに回ったルルドナが回し蹴りを放つ。
「……さすが。ですが、攻撃にキレがありませんねぇ!」
〈ズゥン!〉
蹴りを止めた闇の塊にはじき飛ばされ、こちらに落ちてくるルルドナ。
「うっ……!」
何とか受け止める。そこで気がつく。驚くほど、――軽い。
「大丈夫か?」
「余裕、よ」
吹き飛ばされた彼女は、どうやら重力魔法がうまく使えないようだ。
何度も魔法の攻撃が飛んでくるが、すべてかろうじて防いでいる様子だ。
こんなに苦戦するルルドナを見るのは、初めてだ。
しかもよく見たら体中にヒビが入っている。
「あなた方のデータはすでに取らせて貰っていますよ! 有能な部下がいましてねえ!」
「……!」
――スパイがいるわよ。
ルルドナの声を思い出す。
「その店は我々が半壊させ、魔王モールフランチャイズ店として生まれ変わらせることにします」
「勝手なことするな!」
「店が壊れても、文句を言えますかね!」
ひときわ大きな闇の塊が襲いかかる。
そのとき。
〈キィン!〉
攻撃がはじかれる。
「いやあ、仮病使ってて正解だったよ」
空に、巨大な、円盤のような物体が僕らを守るように浮いている。
赤い、溶岩のような、異様な、皿。――備前焼の大皿。
「な……!?」異様な物体に目を見開く、敵。
「備前さん!」
「映画みたいに格好良く助けに来たけど、どうだったかな?」
「ばっちりです!」
そういった瞬間、敵の後ろに飛び上がる影。タヌキのような巨体。
両手の指をがっしりと組み合わせている。
「拙者、鍋を焦がしたのは生まれて初めてでござる」
怒りのこもった一撃。闇の防御を突き抜ける。
「信楽さん!」
一撃をもろに食らった敵が地面に激突する。
周囲に土煙が上がる。
だがその中で自分の傷を見ながら高笑いをする敵の影。
「ははは、すばらしい! これが元勇者たちの力ですか!」
(六古窯も、調査済みか)
あまりダメージを食らっていない様子の敵が大きく上空へ飛び上がる。
「……にしても、魔力をほぼ奪ったハズですが。予想外の戦力ですねえ。仕方ない」
彼がポケットから何かを取り出す。彼の周囲にまだらな空間の幕が発生する。
「魔王様直々の新結界です。あなた方、元勇者は、魔王様の魔力には対抗することができない。一魔王一勇者の原則です」
「……なっ! 体が動かない……!」
二人とも攻撃ができない様子だ。
「では、ゆっくりと巨大魔法を練り上げ、確実に壊して差し上げましょうかねえ」
ひときわ大きな闇の塊が上空に出現する。
不協和音を響かせるような、光の届かない、闇。
目前に広がる闇。心までわしづかみにされそうだ。
(くそ……みんな倒れてるのに、俺一人で何ができる)
闇が広がる。
それでも口が勝手に動いた。
――思いがけない言葉が口から出てきた。
「やめろ! わかった! この店は、捨てる! 俺が出て行く! 魔王フランチャイズでいい! だから……!」
「はっはっは、素直でよろしい。では契約書にサインを……」
そのとき、闇の塊が、音もなく崩れ落ちた。
風が、渦を巻く。空に特大の白い魔法陣。
「そがんことせんでよかばい」
――その声を、俺は知っていた。
とても頼もしい、強力な魔法使い。
「ライムチャートちゃん!」
兄のイゴラくんと入れ替わりでしか、存在することのできない、妹。
神とゴーレムの子ども。
頭に巨大なタル状のレンガの帽子、ぼさぼさの髪、細い手足、レンガのブーツ。
「魔王が、そがんせこかことするけん、この世界が息苦しかとよ」
なぜか戦いのときは九州弁になる、博多女子になりきる女の子。
〈パリィン〉
魔王の結界が破られる。
「な……」敵の驚愕した顔。
「ずっと引きこもとったけん、データば取れんかったみたいやね」
隣に立つ、小さな少女。
「ありがとう、ライムチャートちゃん。乾燥に、気をつけて」
そうアドバイスすると、彼女は顔をぽかんとさせ自分の頬を触った。
みなさん、乾燥には本当に気をつけてください。




