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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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変な行為をする最初の一人は、正しいことを始めた最初の一人かもしれない。

【あらすじ】雑貨屋にイートインをつけて、絶好調だったが、魔王キッチン化―にすべて奪われて、さらに店のメンバーから魔力が失われていき……。店長のクタニは、臨時休業を決めた。


【登場キャラ】


・クタニ(主人公):若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。

・ルルドナ:月の石を材料にしたハニワから生まれた少女。中身はクタニが転生前に契約していたAI彼女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。会計もしている。


・スコリィ:ストーンピクシー。魔法学校実技首席卒業。高身長の推し活女子。目がいい。仕入と店番担当。



ドラゴンも、精霊も、元勇者たちも寝込んでしまった。


その日は、イートイン臨時休業のお知らせを各地に触れ回ったり掲示したりで一日が終わった。

ほとんどのメンバーが動けない中、俺とルルドナで臨時休業のビラを配って回った。ルルドナは強制的に昼間寝てしまうから、大半は一人で回った。


スコリィに店番をずっとしてもらったが、客足はほとんどなかったようだった。


――その日没後。


ルルドナに言われて、店の裏手に出た。目の前に広がる湿った森のにおいが、今は安心する。


「クタニ、スパイがいるわよ」

胸ポケットから飛び出して、大きくなったルルドナが目の前に立ち、くぐもった声で言い放つ。

言い放ったものの、眉が下がり、迷うような目。

ほんの一瞬、言うか迷ったようだった。


「まさか……店員の誰かを疑っているんじゃ……」


「私も本調子じゃないから、言葉を選んでいる余裕はないわよ」

 そう言って、息を吸い込んだルルドナが語気を強め、続ける。

「新メニューがすべて真似されて、誰にも気づかれず魔力まで奪うなんて、スパイがいるとしか思えないわ」


強い深紅の視線。出会ったときを思い出す。


そうだ。 こういう時は 必ず、誰かが……。

目をそらし、考えるふりをして地面を見つめる。


目を上げることができずいると、トーンを落としたルルドナの声がかけられる。

「疑いたくないのは……わかっているわよ。だけど、あんたは店長なの。しっかりと判断しないと、全部を失いかねないわよ」

すべてを失う。

(そうだ。いつもそうだった……)


ルルドナの言葉が胸に刺さる。

昔も、そうだった。

どうでもいいものを守って、大事なものを失った。

気づけば、十年の暗闇の中にいた。


「ルルドナは、目星がついているのか?」

「ええ……まあ」


「誰、なんだ」

「わかってるんじゃないの?」

下からじっと覗き込まれる。

勘の鋭そうな、赤い相貌。


「うちには、そんな奴は、……いない」

また、目をそらしてしまう。

「考えたくないだけ、じゃないの?」


「わかってる。だけど、もう、疲れててさ……。考えたくないんだ」

ため息をついて、ルルドナはドアを少しだけ開けて、帰ろうとする。


「……守るものを、間違わないことね」

ドアの前でじっとこちらを見る。視線が、まるでわが子を巣立たせようとする親鳥のようだ。

厳しい言葉とは裏腹に、慈愛に満ちた目が何かを語っている。


「一番、守りたいものは、何?」

ドアが閉まる音が、やけに重く響いた。


だけどドアをちょっとだけ開けて、ルルドナが半分だけ顔を出す。

「……厳しいこと言って、ごめん。だけど……よく考えて」

優しく、ドアが閉まる。


胸の奥がざらつく。

そうだ、守りたいものを――。


「一番、守りたいもの……」


混乱する頭を上げる。


大きな屋敷の影。

転生して間もないころ、看板を掲げたときのことを思い出す。


借金して、騙されて買った、大きな屋敷。

その後ろに広がる大きな森。


――今ではもう、大事な場所だ。


何かを探し求めるように空を見上げても、星は見えない。

(転生して仕入れ先もなく店を始めて、魔王モールや魔法学校に行って……思えば変なことばかりしているな、俺)


だけど、どこかで信じている。


変な行為をする最初の一人は、もしかしたら、正しいことを始めた最初の一人かもしれない。


そう夢見ていた。

だけど、夢ばかりを見てもいられない。


「そうだ。もう、自分一人の店じゃないんだ。この店を、守らないと……!」


決断し、顔を上げた。


――そのとき、夜が、息をひそめた。 風が止み、森が息をするのをためらったようだった。


〈ドォン!〉


次の瞬間、魔法攻撃が飛んできた。

煙が舞い上がる。


だけど……、目の前に飛んできて守ってくれる、小さな赤い影。

手をかざし、小さな赤い魔方の障壁を作っている。

「守るもの、わかってるじゃない」

「ルルドナ!」


彼女はこちらを見て、戦友に向けるような力強い笑顔をする。

それに応えるように不格好な笑顔を返すと、口の端を上げた彼女は上空に視線を向ける。


「さ、敵のお出ましよ」

彼女の視線の先。見上げると、上空に細く大きな影が浮いていた。

「いい決断ですねえ。落ち込んだままなら見逃そうと思いましたが」

その声は、まるで笑っている墓石のように低く重い声だった。


「誰だ!?」


それは、異様なほど手足の長い、細身の影。長い指で夜より暗い闇をつまむ。

握りつぶした闇を周囲にまき散らし、にやりと笑った。


そのときは、思いもしなかった。


――そこから、世界の崩壊がはじまるなんて。


小さな個人店で新サービス始めたのにすぐ辞めたら、ほぼ再起は不可能です。

さて、最後の敵の正体は? スパイは誰なのか?

どんどん進めていきます! たぶん明日も更新します!

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