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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
178/199

強力な助っ人が来るとたいていピンチもやってくる

【あらすじ】大食い大会で見事勝利したクタニ(主人公)。雑貨屋のイートイン増設はうまくいくのか?


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。

・ルルドナ:月の石を材料にしたハニワから生まれた少女。中身はクタニが転生前に契約していたAI彼女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。会計もしている。

・丹波:魔王モール3号店にいた凄腕の占い師。

・アツミ:魔法学校の食堂のおばちゃん。見た目は割烹着の似合う若女将。

 大食いサンショウウオがくれた消化剤は、結構売れた。

 小瓶に入れて売っていると、お年寄りの間で評判になった。


 ――奥の店員休憩室。


 大食い大会勝利後の夜。

 外はすっかり暗くなり、イートインの営業が終わり、客足も落ち着いた時間帯。

 売上金を数えつつ、うなるように頭を捻る。


 一日の売り上げ、50万ゲル(1ゲル=約1円)。

 なかなか立派な売り上げである。


「イートイン増設とほぼ同時に消化剤を売り出す雑貨屋、か……」

 商魂たくましいのか、本末転倒なのか。


 売り上げが伸びているのがどうにも複雑な気分だ。


「で、どうするのよ。軽食屋にするの?」

 たった一日で衣装を着こなしてしまったルルドナが隣に座って尋ねる。


「だよなあ。これだけ売り上げが立派でも、土地代3割アップを補うほどじゃないし、増設にかかった費用と人件費を考えると、大した利益にはならないなあ」


「マイナスになるって思ってから、立派なほうよ」


 そう、普通は、飲食業はマイナスの滑り出しだ。と転生前にネットで見た。つまり、好調なのだ。

 ――『この店は軽食屋の方が向いている』

 魔王モール3号店にいた謎の占い師、丹波さんが言っていたらしい。

 店に来たこともないくせに、ずばり当てやがって……。


 ともかく、イートインはずいぶんと調子のいい滑り出し。


「慣れないことをこれ以上するのはよくないから、このペースを維持するよ」


「ダメよ。何かしないと」


「なんだよ、珍しくやる気だな」


「このままじゃ、2トンのビーフジャーキーが余ってしまうわ。誰かさんが間違って注文したせいで」

 ジロリとにらまれる。すかさず頭を下げる。


「……その節は大変ご迷惑を」

 ……あれ? 売上伸びてるとか言ってたけど、誤発注のせいで赤字じゃん。


 誰だよ調子のいい滑り出しって言ったの。


「ビーフジャーキーの新メニューを考えないとダメよ。ビーフジャーキーサンドはお年寄りに全然売れてないし」


 ビーフジャーキーの新メニュー、それがこの店の急務のようだった。

 いくら日持ちがいいとはいえ、あの量をのんびり売っていたらいずれカビが生えたりするだろう。


「そういうことなら、私の出番ね」

 聞き慣れない、落ち着いた声。

 声のした入り口に視線をやる。


 そこでは鉄鍋を下げた割烹着姿の女性が、こちらを見ていた――それは魔法学校の食堂の女将、アツミさんだった。


 ***


「夏休み休暇なんですよ」

 割烹着姿のアツミさんは、凜とした立ち振るまいで、こちらに笑顔を向ける。足下には大きなスーツケース。


 イスを出して座ってもらう。

「どうしてここに?」


「北に行く途中だったんですけど、この雑貨屋のこと、気になってしまって、立ち寄ってしまったの」


「まさか、ハニワが気に入ったとか……」


「ええ、それも気になってます。でもそれ以上に、このお店のことが気になって。そしたら料理の話をしているみたいだから」


「もしかして、ここで新メニューを考えてくれるとか!?」


「ええ、ビーフジャーキーを使ったメニューも考えますよ。迷惑でなければ少しの間やっかいになってもいいかしら?」


「迷惑なんて! いいよな? ルルドナ!?」


「も、もちろんよ。だけど、アツミさん、あなた……、ものすごい力をもっている?」

 珍しく、ルルドナは目を見開いて動揺している。

 ――まるで、竜の巣に入ってしまった小鳥のように。


「あら、わかるのね。魔法学校でも誰も気がついていないのに……。まあでも、この話は今回はやめましょ。休暇中だし、ね」

 その笑顔にはどこか逆らえない圧力があった。


「そ、そうね。今は新メニューを考えることね」

 圧に押されたルルドナは、アツミさんの言葉を肯定するしかできないようだった。


「安心したわ。短い間かもしれないけど、よろしくお願いね、ルルドナさん」


 まるで、すべてをひれ伏させるような、荘厳な雰囲気を出しつつ、アツミさんはルルドナに手を差し出して握手を求める。

 ルルドナはただ差し出された手をおそるおそる握るしかないようだった。


 ***

 だけど次の日、ゆっくりと新メニューの開発をする暇なんてなかった。


 目の前に、魔王モールの巨大キッチンカーが来たのだ。引いているのは巨大な馬だけど。


『魔王モールミニバーガー』

 ……そう書かれた看板が見える。


 アツミさんという強力な助っ人が来た直後に、雑貨屋最大のピンチがやってきてしまったのだ。


 ……あまりにも都合のいい話だ。だが、都合の悪いことはたいてい同時にやってくる。

 ま、異世界ってのはたいていこんな感じだけどな。


魔王モールが経営バトルを仕掛けてきた……?

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