大食い大会の行方と貴重なアイテム
【あらすじ】雑貨屋で、大食いサンショウウオたちと大食い競争をすることになったクタニ、スコリィ、信楽。最後はクタニの一口にかかってしまう。勝負の行方はいかに……？
【登場キャラ】
・クタニ（主人公）：転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。
・スコリィ：ストーンピクシー。魔法学校実技首席卒業。高身長の推し活女子。目がいい。仕入と店番担当。
・ガディ：デビルウンディーネ。黒い角がある水の精霊。神秘的な美しさだが、戦いになると口調が荒れる。社会勉強のため雑貨屋で働いている。掃除と店番担当。
・スラコロウ：四角いスライム。柔らかくなりたい。魔法知識が豊富で、特別な解呪魔法が使える。陶器の型担当。
・信楽：先代勇者パーティのリーダー。黄色いチェックのシャツにバンダナという90年代オタクの姿をしているタヌキっぽいおっさん。
・備前：先代勇者パーティの一人。近くで信楽とお茶屋を経営していたが、破綻して主人公の店で働くことに。映画好きでノリがいい。お茶屋の娘の姿。
「んんー！」
体を大きく伸ばして、頭をのけぞらせ、前に揺らす。
……そうして、最後の一口を飲み込んだ。
飲み込んだことを示すように、口を開け、備前さんに向ける。
「０！ クタニ選手、いったー！ 勝ったのは雑貨屋チーム！」
「おおー！」
ナレーションの声を聞き届け、イスから崩れ落ちる。
右腕を振り上げる。
「やったー！」
「おつかれー！」
「店長さん、ステキです！」
皆の声援がどこか遠くに聞こえる。
〈ゴロン〉
草原に寝転がる。
――もう当分は、パンも肉も食べたくない。
胃が、パンパンに膨らんでる。呼吸するたび、腹が重い。
風が吹き抜け、頬を撫でる。
ふと我に帰る。
……ていうか、俺、何やってるんだ。
せっかく転生して、新しい人生を始めているのに、大食い競争なんてやって。
ほんとに、何やってるんだ。
などと、満腹に耐えつつ考えていたら、隣に狸のような巨体が横たわる。
「ナイスガッツでござる」
こぶしを差し出す、先代勇者リーダー。
「信楽さん……」
拳をコツンと合わせる。
先代勇者と肩を並べて、共に健闘を称えあう。
悪い光景じゃない。
……大食い大会だけど。
そのとき直感が舞い降りる。
――いけない。……このままじゃ信楽さんと妙な空気になりそうだ。
慌ててスコリィの元へ向かう。
「スコリィ、やっぱりすごいな」
さすがにきつそうだが、そのおなかはやはり膨れていない。ストーンピクシー特有の石質の肌だ。
「いやあ、朝食のあとじゃなかったら、もっといけたっす。ビーフジャーキーもなかなか手ごわかったっす」
「朝食のあとだったのか……」
青く澄んだ空を見上げる。
……もう、考えるのやめよう。
そのとき、机の上に、大きな革袋がおかれる。
〈ドスン〉
「敵ながら、あっぱれ」
そう言って満足げに立ち去っていく大食いサンショウウオ。
すかさずお礼をいう備前さん。
「ありがとうございます！ またのご来店をお待ちしています！」
ナレーションの鏡である。店員の鏡か。
残されたのは、大きな革袋。スイカが入るくらいの大きさ。
……貴重な、アイテムが入っているらしい。
スコリィがこわごわと袋を開ける。
「なんすか、これ」
中には白っぽい粉。
イゴラくんも興味津々だ。
「何か、粉っぽい物が入っているようですね。でも小麦じゃなさそうですね」
スラコロウがさっと取り出してひとなめする。
「おいっ！ なめて大丈夫か？」
すっかり保護者キャラが板についたペッカがスラコロウに声をかける。
そんなの気にもしない様子でスラコロウが答える。
「お、やっぱりな。……たしかに貴重品だ」
思わず身を乗り出して尋ねる。
「何が入ってたんだ！？」
もしかして、かなり貴重なパワーアップの薬とか魔力増強剤とかそういうの！？
薬系は雑貨屋収入では大きいぞ！
ワクワクしながらスラコロウの返事を待つ。
「期待しているところ悪いけど、入ってたの、消化剤だぞ。ま、結構な貴重品だな」
「……」思わず皆が黙る。
「これが賞品かよ！」思わず皮袋にツッコミをいれる。
「……店長さん、どうぞ」
ガディが持ってきてくれた水で、消化剤を一口、流し込んだ。
「ありがとう……」
〈ゴロン〉
再び寝転がる。
「開店準備、よろしく」
過去一番のやる気のない声で、店をほかのメンバーに任せる。
意識がぼんやりして、そのままウトウトとしてしまう。
……寝転がって見上げた空は、不自然なほど澄み渡っていて、風が心地よかったことだけは覚えていた。
しばらく勝利の余韻を味わうことにした。
その勝利が、さらなる大事件を呼び込むことも知らずに。
よい子は質のいい消化剤があるからといって大食いなどしないように。
