雑貨屋と先代勇者とピクシーで大食い大会に参戦!
【あらすじ】雑貨屋にイートインスペースができ、大食いサンショウウオが来店、大食い大会が始まる……!
【登場キャラ】
・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。
・ルルドナ:月の石を材料にしたハニワから生まれた少女。中身はクタニが転生前に契約していたAI彼女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。会計もしている。
・イゴラ:ミニゴーレム。魔法学校学科首席卒業。魔法やモンスターの知識が深い。力はあるが体力は無い。パン作り担当。
・スコリィ:ストーンピクシー。魔法学校実技首席卒業。高身長の推し活女子。目がいい。仕入と店番担当。
・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。
・ガディ:デビルウンディーネ。黒い角がある水の精霊。神秘的な美しさだが、戦いになると口調が荒れる。社会勉強のため雑貨屋で働いている。掃除と店番担当。
・スラコロウ:四角いスライム。柔らかくなりたい。魔法知識が豊富で、特別な解呪魔法が使える。陶器の型担当。
・ダリ:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句っぽくしゃべる。乾燥魔法が使える。調理(乾物)担当。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。
【六古窯】
・備前:先代勇者パーティ【六古窯】の一人。近くで信楽とお茶屋を経営していたが、破綻して主人公の店で働くことに。映画好きでノリがいい。
・信楽:先代勇者パーティのリーダー。90年代オタクの姿をしているタヌキっぽいおっさん。
レンガパン。レンガのような形をしたパン。シナモンの香りに柑橘系の味が加わったパンだ。美味しいはずの名物パンだ。……だが、今となっては見たくもない。
大食い競争。その品目に選ばれたから。強制的に大食い競争を始めてしまうモンスターが来店し、大会が始まってしまった。
敵は大食いサンショウウオ三匹。雑貨屋チームは、俺、スコリィ、信楽さん。ナレーションはマイクを持った備前さん。
観客は、ペッカにダリちゃん、ガディにスラコロウもいる。あとは常連のご老人たちが応援してくれる。
ルルドナは、……昨日の接客がきつかったのか、すでに寝ていた。
一皿に一つのレンガパンが乗せられ、運ばれてくる。
「さあ、両チーム順調だが、雑貨屋チームのペースがやや落ちてきたか!?」
先代勇者の備前さんがポニーテールを揺らしながら楽しそうに実況をする。……他人事だと思いやがって。
「みなさん! 頑張って!」ガディが黄色い声援を飛ばす。
「頑張るのじゃ! 雇用主」
ダリちゃんはアフロを揺らしながら応援してくれる。
三匹の大食いサンショウウオが、順調に空になった皿を重ねていく。
一方の俺は、5つ目に口をつけることができずに固まっている。
「クタニ選手、情けない! 店長の意地をみせてやれ!」昨日雇われたとは思えないアルバイトの備前さんはナレーションを続ける。
「信楽ちゃんは8つ! さすが狸っ腹! さすが先代勇者パーティーのリーダー!」リーダーに狸っ腹とか言っていいのかよ。
隣の信楽さんは「うまうまでござる」とリズムよく水と交互に腹に詰め込んでいる。大食いチャンピオンの食べ方じゃねえか。
「驚くべきは、スコリィ選手! もう20個を越えている! その細い体にどれだけ詰め込めるのか!?」
「レンガパンならいくらでも入るっす!」
そう、ストーンピクシーの彼女は、かなりの大食いだ。特にレンガパンならいくらでも食べることができるらしい。理由は、レンガパンの作り手、ミニゴーレムのイゴラくんを推し活しているから。
レンガパン一つはボリュームとしてはパン1斤より少ないくらいだが、一度に3つくらいでもう無理である。4つ食べた自分をほめてやりたい。
〈カチャカチャカチャ〉
大食いサンショウウオのチームが一斉に皿を置く。
「サンショウウオチームはさすが、ペースを乱さず食べていく! プロだ-!」
大食いのプロのモンスターって……。
「対する雑貨屋チームはいい感じだが、ペースが明らかに落ちてきている!」
震える手で、パンを口へ押し込む。
「……う」
「クタニ選手、5つ目を何とか詰め込んだ!」
パンそのものを見たくなくなりそうだが、やるからには全力だ。
そう決意した瞬間。
パン焼き担当のイゴラくんが司会の備前さんに耳打ちする。
「え、パンの材料の柑橘類がもうない? 代わりにビーフジャーキーはさんでいいか? もちろんです! では、今からパンはビーフジャーキーサンドになります!」
おい。
「今から肉なんて入るわけないだろ!」
思わず叫ぶと、ビーフジャーキーを作ったダリちゃんが悲しそうにこちらを見つめる。
「わたしのつくった料理、そんなに食べたくないか……?」
うるんだ瞳、ゆれる半アフロ。……わかって言ってるな、この小娘。
そのとき、イートインスペースのメニューが目に入る。そうだ。
「コーヒー! コーヒーを所望します! あれを飲めばビーフジャーキーサンドもいけます!」
「なるほど、ルール上は水かミルクでしたが、コーヒーもいいでしょう! ただし、自腹ですよ!」
……コーヒーの力、なめているな。口の端を上げ、ビーフジャーキーを作ったダリちゃんを見つめる。
「そんなんで、わたしの作ったビーフジャーキーをかみ切れるかな」
不敵な微笑みを返すダリちゃん。かめるようにして出せよ。
大食いサンショウウオチームが39皿、雑貨屋チーム38皿ぶん食べたとき、メニューはビーフジャーキーサンドになった。
***
「お、……重い」
ビーフジャーキーは、たしかに固かった。だけどかみ切れない堅さではない。
――ただ、口が重い。
本能が、その肉をかみ切るのを拒否している。コーヒーで何とか胃袋をごまかそうとしたが、口が言うことをきかない。
「どうした雇用主。ほれほれ」
腹をつつくダリちゃん。どっちの味方だよ。中身ぶちまけるぞ。
ただ、不利は敵も同じようだった。ナレーションの備前さんの声が響く。
「なんとオオサンショウウオチーム、ビーフジャーキーを噛むのが苦手のようだ! ペースが明らかに落ちた! 残り時間はあと10分! さあ、どうなる!?」
「ぐぐ……、さすがにきついでござる」机にもたれかかる信楽さん。頭の黄色いバンダナを締め直すも弱々しい。
「信楽ちゃんもペースダウン! さすがの先代勇者も、10個以上はきついか!? 先代魔王を倒したときの威勢はどうした!?」
お前もどっちの味方だよ。ていうか、魔王討伐をネタにするな。
にしても、重い。ビーフジャーキーは噛む回数が増えるため、満腹感につながりやすい。腹が、いや、体全体が悲鳴を上げている。
ただ、苦戦していない存在が。「ビーフジャーキーだけ先に食べればいけるっす!」ストーンピクシーのスコリィ。本来は可憐なピクシー。その中でも高身長の彼女は、たくさん食べる方だと言っていたが。
「す、すごい! スコリィ選手、すでに30個! どんな胃袋をしているんだ! しかもストーンピクシーは食べても食べても太らない! スタイルを維持したまま食べ続ける! うらやましい!」
もう、彼女にかけるしかない。
――いや、そんな弱音はダメだ。
目の前に積まれた皿の数を数える。敵、48皿。味方は47皿。
「一枚、足りない」どこかの幽霊のようなことを言いながら、目の前のパンに視線を戻す。
「店長をやっているんだ。最後の最後まであきらめちゃいけないよな……!」「あまり無茶をするな。ていうか踏ん張るところ、間違っていると思うぞ」観客のペッカがツッコミをする。
〈カチャリ〉そのとき、スコリィが皿を置き、ナレーションが響く。「おおっと! スコリィ選手、ラスト6分でペースを上げてきた! これで両者48皿! 並んだ-!!」
「せめて……あと一個」このペースでいけば、スコリィがあと2つ。信楽さんがあと1つ。敵はあと三つ。「俺が、1個食べれば勝てるんだ……!」眉間にしわを寄せ、声を絞り出す。
「普段からそのやる気があればなぁ」スラコロウもツッコミをしてくる。……お前も滅多にやる気出さないだろ。
「店長さん、おなかを膨らませながら頑張る姿、ステキです!」ガディが褒めてくる。店一番の看板娘に褒められたが、今は全然心に響かない。
はち切れそうな胃袋と、目の前のパンのことしか考えられない。
「……これが、ゾーン!」
「それはたぶん、違うと思うぞ、雇用主」
冷静にリズムよくツッコミをするダリちゃん。
「やるしか……ないな!」
***
「さあ、ラスト1分! 大食いサンショウウオチームはもう食べ終えて51皿! 対する雑貨屋チームは49皿!」さすがに腹を膨らませて体をきつそうにする大食いサンショウウオたち。
「いま、信楽ちゃん! 食べ終えました! 雑貨屋チーム50皿枚! ラスト30秒!」
「魔王との対決以来のきつさでござった」信楽さんが遠い目をする。魔王討伐ってマジでネタにしていいの?
「ここで! スコリィ選手も食べ終えた! 雑貨屋チーム、51枚いったー! というか、スコリィ選手は単独で圧倒的1位! 残り20秒!」
「いやあ、ビーフジャーキーはきつかったっす!」満足げに腹を叩くスコリィ。
「さあ、勝負の行方はクタニ選手が食べきるかどうかだー!」
……やっぱり、僕が食べきるかどうかが勝負の境目。
「クタニ選手、あと一口がきついか! 手も口も震えている! あと10秒!」
ふと、この店の思い出がよみがえる。看板が壊され、神様が来て、魔女が守って。
「……こんなところで、負けてたまるか!」「いや、こんなところって、お前の店の前だぞ」
スラコロウの実に冷静なツッコミをスルー。
最後の一口を無理矢理に押し込む。
……だけど、飲み込めない。なんだ、この圧迫感は。
「口に入れた! だけど飲み込まなければ食べたことにはならない! できるか!? あと5秒! 4!」
他のメンバーも声を上げて俺ののど元に注目する。「3!」「2!」
転生してから一番ともいえる盛り上がり。いいのか、こんなんで。「1!」
――最後の一口、果たして、飲み込めるのか!?
さあ、飲み込むことができるのか!?




