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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
175/199

異世界で飲食店を開くとだいたい大食いモンスターが寄ってくる

【あらすじ】雑貨屋にイートインをオープンしたが……。


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。

・イゴラ:ミニゴーレム。魔法学校学科首席卒業。魔法やモンスターの知識が深い。力はあるが体力は無い。パン作り担当。

・スコリィ:ストーンピクシー。魔法学校実技首席卒業。高身長の推し活女子。目がいい。いくら食べても太らない。仕入と店番担当。


・ダリ:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句っぽくしゃべる。乾燥魔法が使える。調理(乾物)担当。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。

・備前:先代勇者パーティの一人。近くで信楽とお茶屋を経営していたが、破綻して主人公の店で働くことに。映画好きでノリがいい。

・信楽:先代勇者パーティのリーダー。90年代オタクの姿をしているタヌキっぽいおっさん。

――次の日の朝。晴れ渡った空に、柔らかな風。

草原の朝の香りが心地よい。


だけど、そんな異世界の心地よい朝を楽しむ暇は、当然のごとく、ここにはなかった。

「さあ、イベントよっ!」

朝から元気がいい先代勇者の備前さん。

赤銅色の髪を高い位置に一つ結びして、お茶屋の娘の服装で笑顔を抑えきれない様子。


朝の総菜を作っていた俺とダリちゃん、イゴラくんはキッチンスペースから窓の外を見る。

「イベントとは……?」

備前さんが窓の外を指さす。

「坂の下を見てみなさい」

――視線をうつすと、オオサンショウウオの顔にオークの下半身を混ぜ合わせたようなモンスターがのそりのそりとこちらへ向かってきていた。

……しかも3体。


「あれは、大食いサンショウウオ! 特別天然モンスターですよ!」とイゴラくんが息を荒げて説明してくれる。

……こっちの世界でも特別なんだ。ネーミングも何かかぶっているし。


「もしかして、捕まえたら賞金が出るとか……?」少しだけ期待して質問する。

「いえ、逆です。傷つけたら罰金です。捕まえたりしたらそれこそ数百万の罰金ですよ」

イゴラくんが恐れ多いという感じで息を荒げる。


「おいおい、そんなのが、何でこっちにむかっているんだ?」

のそりのそりとこちらに歩を進める大食いサンショウウオたち。


「ごくまれに、郊外飲食店にあらわれては……大食い大会をしかけるようです」


「大食い大会?」


「ええ、そうです。飲食店の店員に大食いをしかけてきて、それに負けてしまうと、1000万もの高額請求がくるらしいです」


店員に大食いを仕掛けるって、基本的に間違っている気がするが……。


「そんなの断るに決まっているだろ」

正直に口にする。


だけどそれはあっさり否定される。イゴラくんが説明する。

「断ったら500万の慰謝料がかかります。相手は特別天然モンスターですよ。ただ、勝てば……特別で貴重なアイテムをくれると伝えられています」

慰謝料とは理不尽だが、特別で貴重なアイテムという響きに少し心が動かされる。


「雇用主、勝つのじゃ」

甲高い声で半アフロのダリちゃんが言う。


「何で爺さん言葉になってるんだよ」

「ワシはテンションが上がってくると祖国のじいさんと同じしゃべり方になるのじゃ」

自慢気に半アフロを揺らす。


「あ、そう……」

そうこうしているうちに、モンスター集団は目の前に迫っていた。


「さあ、気合れていくわよ」

さすがというべきか、こちらにモンスターの襲来を伝えた備前さんは、いつの間にか大きなテーブルとイスを出して、テーブルクロスをかけていた。


***

「オレタチ……オオグイ大会、開キタイ」

――店の前のオープンスペース。イートインの入り口の目の前。


意外と控えめな感じに大食い大会を申請してくる大食いサンショウウオ。

目の前に立たれるとでかい。

2メートルほどの大きさで、ナマズのようなしっぽがついている。もちろんその肌は黒光りしている。


「はいはい、拒否権はないんですね。大食いサンショウウオさん」

半ばやけ気味に受け入れる。


すると、イゴラくんに台所のほうに引っ張っていかれる。

「クタニさん、あまり刺激しないほうがいいですよ。罰金が増えるかもです」


「ふっ、勝てばいいんだよ、勝てば。貴重なお宝をもらって、一儲けするぞ」


「意気込みがあるのはいいですけど、誰が出るんですか?」


「順当に、信楽さん、スコリィは出そうと思っているけど……」

「え、女の子を出すんですか!?」


「バカめ、スコリィの胃袋をなめるな」


「でも……」

言い淀んでいると、スコリィがイゴラくんの近くにひょっこりと立つ。

彼女はイゴラくんをひっそり推し活している。


「さすが、イゴラくん、やさしいっす!」


「おい、この店の命運がかかっているんだぞ。スコリィが出なくてどうするんだ」

前回、魔法学校で55個ものレンガパンを食べたことを忘れない。


「大げさっす。どうせ何億円も借金があるんすから、負けても誤差っす」


……そんなことをしていたら、この先ずっと勝てない。負け癖がついてしまう。


「……スコリィ、ちょっと来い」

珍しく真剣な目をして、スコリィを裏へ連れていく。


「……なんすか」

少し体を固くしてスコリィがついてくる。

裏口から出てイゴラ君が来てないことを確認して、スコリィの耳元でささやく。

「ここで、何でもない感じで勝って、さわやかな笑顔を向けてみろ。惚れない男はいないぞ」

内容が大食いでなければ、という言葉は飲み込んだ。


「……やるっす!」

……よし! 単純でよかった。


高身長のストーンピクシーは、こうして出場が決まった。

このとき、俺は策士としても才能があるかも、とうぬぼれていた。

数分後、後悔するとも知らずに。


***

「えー、では、大食い大会を始めたいと思います!」


数分後。

――そう、俺も出場することになってしまった。


「あの、俺、大食いじゃないんですけど……」

席について視線を司会の備前さんに向けるが、笑顔で無視される。


「拙者、昨日から始めたバイトなんでござるが」

信楽さんは状況を飲み込めていないようだ。こちらも備前さんの笑顔が向けられるだけ。


「やるからには……勝っす」

一人だけ落ち着いているスコリィ。


まあ、ほかのメンバーと比べたら、食べられる方か。

「ちなみに吐いたら即負けです」


出てきたのは、大量のレンガパン。

柑橘系とシナモンの絶妙なバランスをもったパン。


――この勝負、勝ったな。


スコリィはイゴラくんを推し活しており、彼の得意料理のレンガパンは、何十個食べてもへっちゃらだ。


「それでは、よーい……はじめ!」


ひときわ大きい備前さんの声。

少しだけ涼しくなってきた風を頬に受けながら、そのさわやかな雰囲気をかき消すような大会が、今始まった。

大食い大会が始まりました。

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