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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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普段強気な女の子がにこやかに接客する姿は天使

【あらすじ】雑貨屋の改装が終わり、衣装合わせも終わり、イートインをスピード開店するようです。


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。

・ルルドナ:月の石を材料にしたハニワから生まれた少女。中身はクタニが転生前に契約していたAI彼女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。会計もしている。


・イゴラ:ミニゴーレム。魔法学校学科首席卒業。魔法やモンスターの知識が深い。力はあるが体力は無い。パン作り担当。

・スコリィ:ストーンピクシー。魔法学校実技首席卒業。高身長の推し活女子。目がいい。仕入と店番担当。

・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。


・スラコロウ:四角いスライム。柔らかくなりたい。魔法知識が豊富で、特別な解呪魔法が使える。陶器の型担当。

・ダリ:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句っぽくしゃべる。乾燥魔法が使える。調理(乾物)担当。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。


・信楽:先代勇者パーティのリーダー。90年代オタクの姿をしているタヌキっぽいおっさん。


 夜の空気に、焼きたてのパンの香りが混じる。

 開店初日、しかもオープンが夜だなんて——正直、不安しかなかった。

 客が来なければ、ただの赤字の始まりだ。


 ――だが。

「きっと、心が追いつかないだけさ……」

 自分に言い聞かせながら、雑貨屋の奥からイートインスペースを眺める。


 ……そこで目にしたのは、予想外の光景だった。

 雑貨屋本体よりも、人がいる。いや、比べものにならない。


  イートインはざわめきに包まれ、客の数は雑貨屋の五倍。パンの香り、総菜の湯気、肉を挟んだレンガパンの匂いが立ち上り、コーヒーの湯気に重なる。

「いらっしゃいませ!」


  ダリちゃんが元気いっぱいに声を張り、備前さんがすっと客を席へ案内する。

  奥からはイゴラくんの張りのある声。「お総菜もパンも、注文あればすぐに作ります!」

 ——白いコック帽が妙に板についている。


 ……これじゃもう、軽食屋そのものだ。

 そんな喧噪をよそに、カウンターの奥で小さく丸まっている影。


「で、どうして隠れてるんだ、ルルドナ」

 呼びかけると、彼女はもじもじと答えた。


「わ、私、雑貨屋の店番だから……」

 何を言ってるんだ、この格好で。


 彼女の格好は、備前さんに用意された、赤い着物生地に白いフリルをあしらった和風メイド服。髪もきれいに整えられて、どう見ても店の華じゃないか。


「いつもよりスカートが……1.28センチ短いわ」

「細かいな! いいから行けって!」

 だが、ルルドナは一歩も動かない。


  よく見ると、彼女の靴底が床に沈んでいた。

「……って、重力魔法かよ!」

  背中を押してもびくともしない。


「無理なものは無理よ!」抵抗するルルドナ。

「いつもの強気はどうしたんだよ!」


 そのとき、スコリィがやってきた。

「てんちょー何やってるんすか? ……って、めっちゃ可愛いっすね、ルルドナさん!」

「スコリィ、見ての通り、恥ずかしがってるこいつを押してイートインに立たせるんだよ……!」


「……! これが本当の推し活っすね!」

「うまいこといってるんじゃねー! いいから手伝ってくれ!」


 スコリィと二人で押すが、小さな少女の体はびくともしない。重力魔法、おそるべし。

「私がいなくても回っているでしょ! イートインに店員なんかいるところなんてきいたことないわ!」


「あの広さをみろ、もう単なる軽食屋だよ! 雑貨屋の隣に軽食屋ができたと思え! 道の駅とかにあるだろ! ネットで一緒に見てただろ!」


 そう、彼女は、転生前、俺がサブスク契約していたスマホのAI彼女だったのだ。よく二人で、マップソフトで想像の旅をしていたものだった。

「そんな転生前のニッチな情報で説得しないで! 現地に連れて行ってもくれなかったくせに!」

「うっ……」思わずよろめく。


「てんちょー! 応酬がマニアックすぎてついて行けないっす!」


 二人でルルドナの背中を押していると、いつの間にか、目の前にダリちゃんがきていた。半アフロが風に揺れる。


「私、ちょっと疲れました。ルルドナさん、イートイン、代わってくれますか?」

 ……結局、店に出る勇気の無いルルドナの背中を押したのは、小さな少女の声だった。


***

「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ!」

 元気よく接客するルルドナ。現場に立ってしまえば、できるタイプだ。

 ……それにしても。

 赤い着物生地に白いフリルのついたメイド服。どこにあったんだよ、あれ。めちゃくちゃかわいいじゃねーか。


「いらっしゃいませ! レンガパン、焼き立てですよ!」

 フリルのついた衣装をなびかせて客に呼びかけるルルドナ。


 ……もうここ、和風メイド喫茶じゃん。


 そこに、不穏な影が二つ。

 ――雑貨店舗スペースからイートインスペースをのぞき込む男二匹。


 ルルドナのにこやかな接客。普段強気な女の子のにこやかな接客の笑顔。もはや天使。

 ……これだよ、これが見たかったんだ。


「最高ですね……!」

「おおお、いいでござるな……!」

 思わず人差し指と親指で長方形の構図を取る俺と信楽さん。


 ――完全にデバガメである。


 後ろのカウンターからあきれ顔で注意してくるスラコロウ。あきれ顔、よくわからないけど。

「おまえら……それはさすがにやめたがいいぞ」


「お前は単性生殖だからわからねえんだよ」

 これって生物差別にならないよな?


「好みは自由でござる!」

 信楽さんが腹を揺らして声を上げる。実に頼もしいオタクの鏡。


「そもそもおまえら、外見はともかく、中身はもう青春する年齢越えてるだろ」

 スラコロウの声に、数秒固まる二人。

「……それを言うな!」

「……生きてる限り青春でござる!」

 何とか力の限り抗議すると、さっとカウンターの影に隠れるスラコロウ。


「……増える気も無いくせに」ぼそりととどめの一声。


「リアルなことをいうな!」

「そうでござる! 転生したからってモテると思うなでござる!」

 肩を組んでカウンターに身を乗り出しスラコロウに抗議する。


 カウンターの足下に隠れて、無視を決め込むスラコロウ。


 ――にしても、雑貨屋店舗。人がいない。


 イートインでは接客する女子メンバーの笑顔と、パンを頬張る客の笑顔。

 胸の奥で小さな悔しさを覚える。


 そうだ、雑貨屋にもテコ入れをしなければ。

「雑貨屋には、芸術性を足そう!」


「芸術性?」

 ほんの少しだけ体をずらしたスラコロウが呟く。


 ***

「雑貨販売業も、負けるワケにはいかないんだ!」

 雑貨屋店舗とイートイン、完全に分離する必要なんて無い。


 ――客足が落ち着いたイートインスペース。夜10時。備前さんとダリちゃんは二階の空き部屋で寝てしまった。


「おい、ペッカ。イートインで俺たちの作品を並べようぜ。気合い入れて高いの売ろう」

 明るい部屋で木彫りを作っていたペッカに声をかける。


「作品に気合いを入れると客の心が逃げていくのは、いつでも共通の事項だ。落ち着いて納得いく作品を作ればいい」

 というペッカは、立ち上がってイートインの壁に備え付けた棚に、自慢の作品を並べて始めた。あまりに高くて誰も手にとっていない作品。


「おい」ペッカの肩に手を置いてツッコミの声をあげる。

「いや、期待しているわけではない……! 期待など……!」

 目を固く閉じてペッカがゆっくり頭を振る。


「……わかるぞ。俺のハニワもおいてくれ」

「やめろ、不気味すぎる。趣向が変わってしまう」

 相変わらずハニワに厳しい店員たち。


「確かに雰囲気は壊れる。だが、……店長命令だ」

「こういうのはコンサルタントにきくべきではないのか」


「コンサル、寝ちゃったけど……」

 そう、信楽さんは夜の九時にさっさと寝てしまった。小学生かよ。


「ふ、勝負は明日に持ち越しだな」


 ……勝負、だったんだ。

 とにかく、この盛況ぶりは高級作品を売るチャンス。

 雑貨屋として気合いの入れどころだ、と判断していたが、その思いは実現することはなかった。


***

 次の日の朝、芸術どころではなくなってしまっていた。

 イートインの運営が、いきなり窮地に立たされたのだ。


 突如現れた“強制大食い大会開催モンスター”によって……。


ルルドナがうまく接客しているようです。ちなみにみんな和風メイドかお茶屋の娘の姿をしています。

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