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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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伝説の勇者のろくでもないバイト面接

【あらすじ】雑貨屋に来た地上げ巨人を倒したら1割アップのところが3割アップに……。


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。

・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。

・ガディ:デビルウンディーネ。黒い角がある水の精霊。神秘的な美しさだが、戦いになると口調が荒れる。社会勉強のため雑貨屋で働いている。掃除と店番担当。


・謎の少女:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句のリズムでしゃべる。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。


・備前:先代勇者パーティ【六古窯】の一人。近くで信楽とお茶屋を経営していたが、破綻して主人公の店で働くことに。映画好きでノリがいい。外見は、十代後半のお茶屋の娘。

・信楽:先代勇者パーティ【六古窯】のリーダー。外見は、90年代オタクの姿をしているタヌキっぽいおっさん。


「あなたたちが、見事に巨人を倒したせいで、地価が3割上がったんですが」

空から落ちてきた更新書類を叩きながら言う。


――雑貨屋の奥の休憩室。


正座している二人。

対するは僕とペッカ、謎の少女。

伝説の六古窯、備前さんと狸っぽいおっさん。見た目は90年代オタク。


怒っている俺に備前さんが手を振り

「まあまあ、落ち着きなさいって。どうせこんな辺鄙な土地、大した地価じゃないよ」

「10億」

ボソリと口から金額を言ってしまう。しまった、言わなきゃよかった。

「え?」備前さんが目を丸くする。

「ここ、10億で買いました」この際だ。もう一度、はっきりと言う。

「は? ここを……、でござるか?」狸っぽいおっさんも口を半開きにする。


やっぱり、10億の価値なんてなかったのか……。


ひとまず解決したい疑問を狸っぽいおっさんに投げかける。

「まあ、その話はおいおいするとして……。お茶屋の店長さん、信楽さんですよね? その狸っぽい姿。信楽焼の狸そっくりじゃないですか」

「いや、半分そうでござるが……。今は変化をしていて……」

「半分は?」

中身は違うのか? そういえば、以前は備前さんがかたくなに否定していたけど、何か関係があるのか?


備前さんが口をはさんでくる。

「ふっふっふ。信楽ちゃんは、今はこの格好で実験的な魔法を作っているのよ!」

「ちょ、備前殿!」

慌てて止めようとする信楽さん。だが、足がしびれて立てないようだ。プルプル震えて膝立ちしている。

「魔法を……作る?」

引退した勇者が、魔法を作るって……?


「そうよっ! この姿に変化し続けることで、狸魔法を開発しようとしているのよ!」

詳しいことはわからないが、ろくな魔法じゃないのは確かだ。


「む、謀反の意思などないでござる! われわれはただ好奇心に突き動かされて……。決して魔王ショッピングモールに謀反を起こそうなどと考えておりませぬ!」


「謀反っていつの時代ですか。しかも使い方間違ってますよ」

丁寧にツッコミをすると、親指を上げてオタクスマイルを向ける信楽さん。

……仲間認定された?


あきれてペッカが口をはさむ。

「おい、魔法の話はいいだろう。固定資産税が3割も上がったんだ。その対策を考えねば」

「そうだ、状況をよく見ろ、雇用主」

もじゃもじゃ頭の茶髪少女が偉そうに言う。


「ぐっ、出会ったばかりの少女に正論を言われてしまった。しかもまだ雇用するって決めてないのに雇用主って……」


「あきらめろ、お前はすでに、雇ってる」

リズムよく言うな。実はサラリーマン川柳に毎年応募してるんじゃないか!?


頭を落ち着かせるため、窓の外を眺める。


――今は、ちょうど昼時。

本来は軽い運動ついでにお年寄りがランチにくることが多いのだが、最近は暑すぎて誰も来てない。


ということで、売り上げも落ちている。


改めて、巨人を倒しこの土地の価値を無駄に上げた二人に向き合う。

「ともかく、どうしてくれるんですか。ほかのところは1割アップなのに、ここだけ3割アップですよ」


「いやあ、だってあの巨人、明らかに悪者じゃん」備前さんが悪びれもなく言う。

「外見で判断しちゃいけないって学校で教わったでしょ!?」教師っぽくツッコミをしてしまう。

すると備前さんは拳を突き上げて語りだす。


「いやでも映画的にはありでしょ! ここから逆転経営だよ! ~巨人を倒して大注目! あの雑貨屋の逆転経営!~ みたいな?」

……映画好きだったな、この人。


「そんな映画ねえよ! どちらかというと、プロフェッショナルな人たちのドキュメント番組だろ!」

「それは、まだ時代が追いついてないだけだよっ!」

「うっせぇ! こちとら映画なんて見に行けないくらい引きこもってたんだよ!」

盛り上がってツッコミの応酬をしてしまう。

……くそ、備前さんはツッコミを引き出す才能が強すぎる。


迷走しそうな会話を、ペッカが軌道修正してくれる。

「おい、幼子もいるんだ。あまり大声を出すな。昼時はともかく、全体の売り上げを考慮すれば、経営はそこまで悪くないのだぞ……」

「それは、そうだけど、自分たちだけ税率3割アップは絶対にきついと思うぞ。経営破綻レベルだ」

つい弱気なことを言ってしまう。


備前さんは正座したまま、こちらをキリっとした目で見つめる。

「新人君、経営破綻するときって、どんなときだと思う?」

「……考えたことないですけど。資金繰りがうまくいかないときですか?」


「違うわ。経営を、諦めたときよっ!」

頼もしく、勇ましく、拳を振り上げる。

その姿はまるで、勝利の女神。


「格好良く言ってますけど……、諦めさせる要因を作ってたのは、あなたたちですよ」


「……だから、私がバイトしてあげるっ」

おもむろに立ち上がり、頭をかわいらしく傾げ、彼女は言う。だけど、ちょっと足がしびれているようだ。膝の角度が不自然になったまま震えている。

「こんな偉そうなバイトきいたことねぇよ! だいたい自分の店はどうするんですか!?」


「峠の茶屋は……潰れたでござる」信楽さんが膝の上でこぶしを握り締め、吐き捨てるように言う。


……え?


備前さんが両手を広げて嘆くように言う。

「1割アップするから潰れたのよ! ギリギリで経営してたの! 後輩くんも、格安でお世話してあげたでしょ!」


「う……、そうでした」

ちょっと前にスラコロウと世話になった峠の茶屋。あのとき、助けてもらってなかったら、今ここに立っていなかったかもしれない。


――そうか、あの店はもう……、ないのか。


感慨にふけっていると、信楽さんが土下座をして頼み込んできた。

「バイトでも雇ってくれると助かるでござる! 巨人を倒せば恩を売れると思ったでござる! 武士の情けでござる!」

……中途半端な知識でしゃべってるのが、楽しくなってるタイプだな。

にしても、伝説の勇者がバイト面接に来るなよ。


「助けてあげたいのは山々ですが、この店、そんなにすること無いんですよ。見ての通り、昼時すら人が来てないですし」


そう言うと、か細い声が、部屋の隅に座っていた少女から発せられた。

「すること、……無い?」

さっきの強気はどこに行ったんだ。


――さて、どうしよう。店としての分岐点だ。


考え込んでいると、台所のほうから悲鳴が上がった。


「店長さん、何ですか!? これ!?」

さて、また事件です。ある意味、最大の事件かもしれません。



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