地上げより先に固定資産税増税のお知らせが来る異世界行政
【あらすじ】雑貨屋に迫る地上げ屋ギガンテス一族。みすぼらしいぼさぼさ頭の少女と、フォレストミニドラゴンのペッカと一緒に眺めるだけのクタニ。雑貨屋の運命やいかに!?
【登場キャラ】
・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。
・ルルドナ:月の石を材料にしたハニワから生まれた少女。中身はクタニが転生前に契約していたAI彼女。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。会計もしている。
・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。
・謎の少女:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句っぽくしゃべる。乾燥魔法が使える。調理(乾物)担当。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。
――倒せても、何にもならない。
そう言われている巨人たちが、目の前に、いる。
ふもとの村、スロウタウンの周囲をハンマーでたたき、地上げをし、こちらに向かってくる。
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
巨人は、6体。
でかい存在が横並びに迫る。それだけでやはり、恐怖心がおさえきれない。
巨人たちはこちらの丘へ向かいつつ、地上げをしていく。
――目の前、ほんの20メートルほどの距離に、来た。
その巨人たちは、緑色の肌に、深緑色のスーツを着ていた。シワ一つない。
……アイロンがけ、大変そうだな。
青色のハンマーは、粗削りで、まるで雷を固めたようだ。
一族は無限に大地より生まれ、世界を値上げしていく。
謎の少女が巨人を見ながら驚きの表情で言う。
「だけど、なんて、パワー……」
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
近づくと、やはり迫力が違う。
強がって彼女を安心させようと声をかける。
「まあ、10センチくらい、この広大な大地では大したことないよ」
この丘から見える丘陵地帯。草原の広がる世界。10センチ程度、地面が上がったところで、この景色は変わらない。
するとペッカが反論してきた。
「大したことない? 世界全体の土地が上がるのだぞ? 俺様たちが使うような、局所的な、目に見える範囲の魔法とは次元が違う」
……そういえば、そうかもしれない。
たとえば近くの山を10センチ持ち上げるだけで、どれほどの力がいるだろう? 考えたこともなかったけど……途方もないエネルギーが必要なのは確かだ。それを世界全体でやっているのだ、この巨人たちは。
ようやくその脅威に気が付いた俺に、語り部っぽくペッカが言う。
「彼らはそもそも、精霊に近い。世界の理に近いのだ。彼らと戦うのは、地面と戦うようなもの」
「じゃあ、どうするんだよ?」
この期におよんで何か策はないか考えるが、……何も思いつかない。
隣にたたずんだ謎の少女がアフロを揺らし、笑みを浮かべて言う。
「あきらめろ。素直に地上げを、受け入れろ」
リズムよく言うんじゃない。
……サラリーマン川柳かよ。
ペッカが首をゆっくりと振りながら、淡々と言う。
「世間はもう受け入れるしかないとわかっている。事情を知らない転生者がたまにあらがうこともあるが、結果はひどいものだ」
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
――もう、5メートル。
「おい、大丈夫なのか? 土地を上げるだけだよな? 店を壊したりしないよな?」
俺の質問に、ペッカは目を泳がせて言う。
「ああ、彼らは基本的に物理的な攻撃をすることはない……はずだ」
不安な余韻を残すな。
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
腹の底まで響く音。
少女が俺の影に隠れる。
……おい、さっきの自信はどうした。
目の前でハンマーを振り上げる巨人たち。
――そのとき、分厚い封筒が彼らの手元から落ちてきた。
〈ドスン!〉
店の目の前に落ちてきた封筒を拾い上げ、おそるおそる少女とペッカとのぞき込む。
その表に書かれた――赤い文字。
「こ、固定資産税増税のお知らせだと……!?」
はやい。早すぎる……!!
「いや、まだ地面上げてねーだろ! 書類が先に届くって、異世界行政の仕事はどうなってるんだ!? ていうかあいつら役人なの!?」
思わずツッコミをいれると、その封筒が炎上した。
〈ボウゥン!〉
「うわっ」
燃え上がった封筒を投げ落とす。
「そんなもの、必要ないわっ!」
聞き覚えのある、若い女性の声。
――瞬間、近づく巨人に立ち向かう、二つの影。
細身で小柄な影と、大柄な狸のような影。
空中を飛び跳ねるように移動し、巨人たちに攻撃を始める。
――そう。
彼らは、世界の運命を変えるほどの、驚異的な力をもった存在だった。
……運命といっても、地価上昇だけど。
二つの影の正体は!?
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