その日、世界は10センチ上がった
【あらすじ】雑貨屋にやってきた腹をすかせた少女にパンをあげたら、地響きが聞こえてきたが……!?
【登場キャラ】
・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。
・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。
・謎の少女:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句のリズムでしゃべる。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。
――その日、世界が……10センチ、上がった。
〈ドォン! ドォン!〉
「な、何の音だ!?」
アクシデントに慣れきっていたが、一応、驚いたふりをする。
「やはり、……きたか」
謎の少女がミルクをすすりながら言う。
「おい、何か知っているのか?」
「知らないの? あれは、地上げ屋」
「地上げ屋?」
遠くに巨人たちが見えた。巨大な青白いハンマーらしきものを持っている。緑の肌に、岩のような茶色い下半身、宝石でできたような青白い輝くハンマー。
〈ドォン! ドォン!〉
地面に振り下ろしては進んでいく。
「ああやって、地面を数センチあげていく」
……リアルに地面上げるんかい。
結局、俺は眺めるだけだった。
ぼんやりとその後の一部始終を眺めているにすぎなかった。
だけど、あまりに弱い、弱すぎる自分を、何もできない自分を自覚せざるを得なかった。
***
地上げ。それはおそろしい世界の始まり。
世界は、なんでできてるか?
愛と希望とか言う奴は絶対に信じてはならない。
答えは単純だ。
――土だろ、土。
世界にはまず大地がなければならない。
そしてやってきたのが、大地の支配者。ギガンテス。
時代が重なれば、世界は複雑になり、やがて崩壊する。
土地の値段もそうだ。
ついにこの土地にも、値上げの時期がやってきたのだ……!
***
「何事だ!?」
店の奥の工房からペッカが飛び出してきた。
木彫り細工を熱心にしている、フォレストミニドラゴンのペッカ。
遠くの巨人を見て目を見開く。
「あれは幻の地上げ屋一族グループ、ギガンテス一族!」
「グループ?」
――その集団は、巨人の地上げ屋グループだった。
10メートはあろうかという巨人たちは、地面にハンマーを打ち下ろし、地面をあげ、地価を上げるという。
確実にこちらのほうに近寄ってくる……。
あんな無理矢理な方法で、地上げをするとは。
近寄る巨人を見ながら、ペッカが説明をする。
「……言っておくが、あれには一切手出しはできないぞ。基本的に土地の値段とは操作可能だ。ほんの少し、土地に手を入れただけで地価が跳ね上がることはよくある。しかしその予想を正確にすることは難しい。だが、確実に値上げをする恐ろしい集団がいる。それがギガンテス一族」
「かっこよくいってるところ悪いけど、間抜けな設定だぞ、それ」
……にしても、さすが異世界。
ビジュアルで値上げを知らせるとは。
――いや、異世界なら地価とかやめてくれないかな!?
***
「で、あれは、どうしてこっちに向かってるんだ?」巨人を見つめながら質問する。
ペッカが首をひねる。
「わからん。地上げを行うのは、数百年に一度のはずだが」
――少女がつぶやく。
「わたし、来たから。あいつらの上げている土地、私の、歩いてきた土地」
俺とペッカの視線が集まる。
「きみ、いったい……何をしたんだ?」
少女に向かって恐る恐る尋ねる。
「わたしの、灼熱の情熱。その価値に、やつらが、気が付いた」
「あ、中二病は間に合ってるから」
瞬間的にツッコミを返す。
ていうかそもそも、働くところなくて占いに5万ゲルも支払ってここに来たんだよな……!?
なんでこんなに偉そうなんだ!?
こちらの葛藤にとは裏腹に、冷静な表情で少女が続ける。
「ひれふせ、愚民ども」
少女が仁王立ちで巨人たちを見渡す。
……いや、上げてんだよ。
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
巨人たちはどんどん近づいてくる。青いハンマーが一気に振り下ろされる様子はむしろ壮観だ。
「止める方法はないのか!? こっちは借金が残ってるんだぞ!」
「無駄だ。あれはもう、世界のルールだ。水が低いところに流れるように、彼らは地上げをするだけだ」
ペッカがこちらを憐れむような目で見て言う。
……給料減らすぞ。
「大丈夫、わたし、かせぐ」
にやりと笑う少女。
最後のレンガパンを口に放り込む。
おなかいっぱいになったら自信あふれるタイプらしい。
「地上げってどのくらい上がるんだよ」
「あの青いハンマーだと1割アップだ」
1割アップって大きいぞ。わかってんのかこいつ。
〈ドォン! ドォン! ドォン!〉
……にしても、また外れの時期に転生したってことか。
ていうか、リアルに土地を上げてるんじゃねぇよ。
見た目にも財布にもこえーよ。
地上げって本当はもっと恐ろしいことですが、ここはコメディ風に。
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