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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第21章 雑貨屋増設編
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その日、世界は10センチ上がった

【あらすじ】雑貨屋にやってきた腹をすかせた少女にパンをあげたら、地響きが聞こえてきたが……!?


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。


・ペッカ:フォレストミニドラゴン。子犬サイズ。経営知識を自慢したがる。暗いのが恐い。木彫り細工と配達担当。


・謎の少女:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句のリズムでしゃべる。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。

 ――その日、世界が……10センチ、上がった。


〈ドォン! ドォン!〉


「な、何の音だ!?」

 アクシデントに慣れきっていたが、一応、驚いたふりをする。


「やはり、……きたか」

 謎の少女がミルクをすすりながら言う。


「おい、何か知っているのか?」

「知らないの? あれは、地上げ屋」


「地上げ屋?」

 遠くに巨人たちが見えた。巨大な青白いハンマーらしきものを持っている。緑の肌に、岩のような茶色い下半身、宝石でできたような青白い輝くハンマー。


 〈ドォン! ドォン!〉

 地面に振り下ろしては進んでいく。


「ああやって、地面を数センチあげていく」

 ……リアルに地面上げるんかい。


 結局、俺は眺めるだけだった。

 ぼんやりとその後の一部始終を眺めているにすぎなかった。


 だけど、あまりに弱い、弱すぎる自分を、何もできない自分を自覚せざるを得なかった。


***

 地上げ。それはおそろしい世界の始まり。


 世界は、なんでできてるか?


 愛と希望とか言う奴は絶対に信じてはならない。


 答えは単純だ。


 ――土だろ、土。


 世界にはまず大地がなければならない。


 そしてやってきたのが、大地の支配者。ギガンテス。


 時代が重なれば、世界は複雑になり、やがて崩壊する。


 土地の値段もそうだ。


 ついにこの土地にも、値上げの時期がやってきたのだ……!


 ***


「何事だ!?」


 店の奥の工房からペッカが飛び出してきた。

 木彫り細工を熱心にしている、フォレストミニドラゴンのペッカ。


 遠くの巨人を見て目を見開く。

「あれは幻の地上げ屋一族グループ、ギガンテス一族!」

「グループ?」


 ――その集団は、巨人の地上げ屋グループだった。


 10メートはあろうかという巨人たちは、地面にハンマーを打ち下ろし、地面をあげ、地価を上げるという。


 確実にこちらのほうに近寄ってくる……。


 あんな無理矢理な方法で、地上げをするとは。


 近寄る巨人を見ながら、ペッカが説明をする。

「……言っておくが、あれには一切手出しはできないぞ。基本的に土地の値段とは操作可能だ。ほんの少し、土地に手を入れただけで地価が跳ね上がることはよくある。しかしその予想を正確にすることは難しい。だが、確実に値上げをする恐ろしい集団がいる。それがギガンテス一族」


「かっこよくいってるところ悪いけど、間抜けな設定だぞ、それ」


 ……にしても、さすが異世界。

 ビジュアルで値上げを知らせるとは。

 ――いや、異世界なら地価とかやめてくれないかな!?


***

「で、あれは、どうしてこっちに向かってるんだ?」巨人を見つめながら質問する。


 ペッカが首をひねる。

「わからん。地上げを行うのは、数百年に一度のはずだが」


 ――少女がつぶやく。

「わたし、来たから。あいつらの上げている土地、私の、歩いてきた土地」


 俺とペッカの視線が集まる。


「きみ、いったい……何をしたんだ?」

 少女に向かって恐る恐る尋ねる。


「わたしの、灼熱の情熱。その価値に、やつらが、気が付いた」


「あ、中二病は間に合ってるから」

 瞬間的にツッコミを返す。

 ていうかそもそも、働くところなくて占いに5万ゲルも支払ってここに来たんだよな……!? 

 なんでこんなに偉そうなんだ!?


 こちらの葛藤にとは裏腹に、冷静な表情で少女が続ける。


「ひれふせ、愚民ども」

 少女が仁王立ちで巨人たちを見渡す。


 ……いや、上げてんだよ。


〈ドォン! ドォン! ドォン!〉

 巨人たちはどんどん近づいてくる。青いハンマーが一気に振り下ろされる様子はむしろ壮観だ。


「止める方法はないのか!? こっちは借金が残ってるんだぞ!」


「無駄だ。あれはもう、世界のルールだ。水が低いところに流れるように、彼らは地上げをするだけだ」

 ペッカがこちらを憐れむような目で見て言う。

 ……給料減らすぞ。


「大丈夫、わたし、かせぐ」

 にやりと笑う少女。

 最後のレンガパンを口に放り込む。

 おなかいっぱいになったら自信あふれるタイプらしい。


「地上げってどのくらい上がるんだよ」

「あの青いハンマーだと1割アップだ」


 1割アップって大きいぞ。わかってんのかこいつ。


〈ドォン! ドォン! ドォン!〉

 ……にしても、また外れの時期に転生したってことか。


 ていうか、リアルに土地を上げてるんじゃねぇよ。

 見た目にも財布にもこえーよ。


地上げって本当はもっと恐ろしいことですが、ここはコメディ風に。


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