能力のある新しい店員が向こうからやってくるなんて、普通はあり得ない
【あらすじ】ようやく日常の落ち着きが来たと思っていたら、思わぬ来客のよう。売り場には偶然誰もおらず、対応に向かうが……。
【登場キャラ】
・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はハニワオタク。陶器とハニワ制作でスローライフ経営を目指している。屋敷と山を10億で購入し、借金生活。
・謎の少女:腹を空かせてやってきた、謎の半アフロ少女。たまに俳句のリズムでしゃべる。乾燥魔法が使える。調理(乾物)担当。魔王モールの占いを信じてやってきたらしい。
「ごめんくださーい!」
必要以上に大きな声。店の方から声がする。
……こういうときは、だいたい良くないフラグだ。
おおかた、クレームだろう。
(さあ、今日はどうやって頭を下げようか)
とぼんやりと思いつつ、対応に向かう。
偶然にも店番は、誰もいなかったようだ。この時間帯なら仕方ない。
「はい、いらっしゃいませー」
――やってきたのは、みすぼらしい格好の、まるで家無き子のような少女だった。
焦げ茶色のローブに、ぼさぼさの茶色の半アフロ髪の女の子だ。
顔は不自然なほどすすだらけで、手足は細い。
明らかに栄養が足りていない感じだ。
「ここに来れば、働けるって、きいた……!」
「え、誰に?」
「占い師の、丹波さんに」
……丹波さん?
一瞬、誰だか思い出せない。だけどすぐに魔王モールでの占いを思い出す。
「ああ、魔王モール3号店の……」
懐かしくつぶやいた、そのとき。
――ぐぅぅぅぅ。
勢いよく、名所の少女の腹の虫が鳴った。
「あ、このパターンね。……ちょっとまってて」
奥に戻ってレンガパンの売れ残りをもってきた。
「ほら、ゆっくり食えよ」
謎の少女はレンガパンをむさぼるように食べ出した。
「ありがとう! おじちゃん!」
「不合格」
「え」
「パンを食ったら下の村にいって仕事をさがしな。世の中は厳しい。特に俺は、……おじちゃんだからなぁ!」
冷たく下の村を指さす。
少女はうつむいて、上目遣いに言い直す。
「ごめんなさい、イケメンのお兄ちゃん」
「……話だけは聞きましょう」
口の端を上げ、そっとミルク入ったコップを渡す。ついでにレンガパンをもう一つ渡す。
「あ、ありがとう」
こちらの豹変ぶりに戸惑いながらもお礼を言う少女。
「丹波さんに占ってもらったのか?」
「うん、わたし、料理だけは、できるから」
パンとミルクを交互に口に入れながらしゃべる少女。
「料理? うち、雑貨屋なんだけど……」
「ここ、丘の上の軽食屋にしたがいいって、丹波さんが占ってた」
なめとるんかい、あの占い師。
「人の経営方針に口を出さないでほしいなぁ」
「でも、あの占い、当たるって評判。5万ゲル出して、占ってもらった」
「その5万ゲルで身なりを整えて大きな町で働いたほうがいいと思うけど……」
「でも、ここがベストだって、言ってた」
「うーん」
……丹波さんのいたずらのような気がする。
でも確かに、朝の総菜は俺が早起きして作っていたし、料理ができる子がやってくれたらうれしいと言えばうれしい。
2億ほど臨時収入があったわけだし、試しに雇ってみてもいいかもしれない。
謎の少女が食事を終える。
「で、使える魔法は? 趣味は?」
「……ナンパか?」
腹が膨れたのか、余裕ができた少女が、身を半歩退いて言う。
「いや、面接だろ」
「ということは、雇って、くれる……んですか!?」
……頭は、あまりよくないらしい。急に敬語になるし。
「面接次第……だね」
と、店長らしく格好良く言った、――そのとき。
〈ドォン! ドォン!〉
地の底から突き上げるような、地響きが起こったのだった。
(またやっかいごとか……)
アクシデントに慣れきっていた俺は、どこか悠長にその音を聞いていた。
それこそ、――この世界を崩壊させる、始まりの合図だとも知らずに。
地響きの正体は?
感想・コメントお待ちしております!




