表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
161/198

魔法学校に現れた概念の怪物

【あらすじ】魔法学校夏至祭の後夜祭。クタニは騒がしいところから抜け出し、たき火を見つめていたところ、いきなり、幻の優等生ヒュームンと名乗る狐面の少女。そのとき空から概念の怪物の欠片がふってきた。


お月様


友達ができたの

だけど、その友達は

月に帰っていちゃった


でもね、居場所は見つけたわ

すごく楽しくて

バカみたいで

でもどこか懐かしい


そうだ

私、あの丘にいかなきゃ

きっと、みんなが私を待ってるわ

***


〈グオォォォーーーー!!〉


脳髄を揺さぶる咆哮。

空気が爆ぜ、肺の中の酸素が押し出される。

背骨が鉛に変わったように動けない。

――いや、自ら地面に伏せたくなるような、抗えぬ圧。


「こんなに早く、ここにも来たか……!」

少女が、狐面を押さえつけて口元をゆがませる。


俺と狐面の少女の前に降り立ったのは、――概念の怪物。

伝説の魔女ヒルデが命をかけて時空魔法で追い払った、怪物。


「やはり……、この姿だと動けるようだな」

少女が無詠唱で魔法を展開する。


周囲の数百人の生徒たちに白銀の魔法結界が張り付けられる。

もちろん、俺にも。

「どういうことです? 欠片は、魔女ヒルデが追い払ったんじゃ」

「こいつは……別の欠片だ」

「そんな……彼女はもう、いないのに……!」

俺の様子をみて、少女が言い放つ。

「魔女ヒルデのことがまだ忘れられないか。過去にとらわれるな。自分の命に集中しろ」

その声は、低く悲しく、どこか……自分に言い聞かせているようでもあった。


彼女は、俺に背中を向け、概念の怪物に向かって走り出した。


魔力の塊を直接ぶつける。

しかし、ぶつける瞬間。霞のように消える。


波動の衝撃を受けはじき飛ばされる彼女の小さな体。

〈ズザァァーー!!〉


地面を滑って、こちらに飛ばされる。

「くっ! やはり……!」


倒れた彼女の横から、ハニワを概念の怪物へ投げつける。

……だけど、やはり何も反応しない。

「くそ、なんで肝心なときに……!」


少女が立ち上がりながら、口元をぬぐう。

「ふふっ。やはり面白い。まあいい。時間を稼げ。その白銀結界があれば数回はもつ」


彼女はそういうと姿を消した。


「え、ちょ……!?」

概念の怪物がまるで様子を見る。


〈グォォォーー!! オマエ、リカイ、デキナイ〉


(なんだ? 前回の欠片と同じことを言っているぞ?)

俺は体への重圧を耐えつつ、口を動かす。


「理解するなんてそもそも錯覚だ!」


「それに理解したと思った瞬間! 人は離れていくんだよ!」

われながら何を言っているんだろう。


〈ナゼ……タテル〉

「わからなくても、とりあえず立つ! それが転生者なんだよ!」

もう自分でもわからない。


〈ソノタマシイ、ナンナノダ……!〉

――直後。


〈ズン!〉

俺の体は圧力と同時に力が抜ける。

幸い魔法がきいているのか、痛みは感じない。


「うっ」

激痛――、すらも感じずに、俺は沈む。

〈……スベテ、シズメ〉


ほとんど時間稼ぎにもならず、怪物の姿をにらむ。

〈グオオオォォォーーーー!!!!〉

広場中に響く咆哮。


〈パリンッ! パリンッ!〉

白銀の防御魔法がすべて破壊される。

それどころか、……魔法学校を覆う結界が崩壊していく。


まずい。早くしないと、全員……!

不吉な考えがよぎった瞬間。


「さすがに、食事の邪魔、しすぎじゃないかしら?」


〈ザンッ!!〉

化け物を切り裂くように飛んできたのは、大きな鍋。

(え!? 鍋!?)


概念の怪物の足下に大鍋が突き刺さり、その動きが止まる。


目の前に立っていたのは、予想外すぎる人物。

「クタニくん、今朝は手伝ってくれて、ありがとね」


この学校で初めて会った、どんなに忙しくても笑顔を絶やさない、食堂の美人女将、アツミさんだった。


***

「なかなか、……きついわね」

体を重そうに運ぶ、食堂の女将。


〈オマエ、ナゼ、ウゴケル……?〉


「さあ? 動けるから、動くの、よ!」

そう叫んだ瞬間、巨大な魔法の鍋が周囲を覆い尽くす。


広場全体に鉄色の光が走る。光が線のように繋がり、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

見上げるほどの大鍋が空を覆い、圧力を押し返していく――はずだった。


〈シュン……!〉

――次の瞬間。魔法の光がなくなっていった。


「魔法が……消えた!?」

アツミさんの眉が、わずかに動く。

「あらら……いったん引くわよ!」


そのとき。


「いや、――必要ない」

空から降り立ったのは狐面の少女。


隣に降り立つ小さな影。獣の面。その下から白いヒゲ。

(あのヒゲ、……アダムン理事長?)


その周囲には宇宙の銀河を思わせる暗黒の魔力の波動。


「よく時間を稼いだ」

少女が言う。


隣の、獣の仮面の人物が続ける。

「怪物よ、魔法学校に出現したのが運の尽きだったな」


その手には、まがまがしいほどの魔力が凝結しているのが見える。


二人が同時に魔法を唱える。

「時空への疑い――空の三日月船クロノス・エッジ

「神の見えざる手――犠牲の小指リトル・デッド


多重の、巨大な魔法陣、凝縮、――合わさる。


合成魔法。


魔法陣は幾重にも展開し、複雑な螺旋を描く。


出現した銀の螺旋と黒金の手が絡み合う。

それは夜空を裂く刃。

銀の螺旋を巻き付けた小指が夜空を撫でる。


小指で撫でられた空間が、三日月のように切り裂かれる。


〈グアアアァァァーー!!〉

怪物の悲鳴。


三日月型の空間。その裂け目へ闇の塊を、……消し去った。


――辺りに静寂が訪れる。


こうして、後夜祭に突如として現れた脅威は、退けられた。


ようやく空気が動き出し、夜空からのそよ風が流れていった。


***

体がふっと軽くなる。脅威が去ったのを理解する。


怪物に立ち向かったアツミさんは、「わたしのことは秘密にしててね」と言い残しすぐに去って行った。


「もう大丈夫だ。自分で立て、クタニ」

狐面の少女が穏やかに言う。

その背後には真っ黒な夜空が広がる。


「ぎりぎり間に合ったのう。魔法学校の蓄積魔力をすべて使わせてもらった」

獣の面の下に出てきたのアダムン理事長の笑顔。


しかしその手は。

――小指がなくなっていた。


「その手……」

「ああ、この怪我か。気にせんでいい。皆を守ったのだ。名誉の傷じゃ」


彼の手から血がしたたり落ちる。


「なに、心配はいらん。命に別状はない。ただ、私たちの魔力は空っぽになってしまった」

「早く止血しろ」狐面の少女が手際よく包帯を巻き始める。

「なめときゃ治るわい」

「アホか」

二人はまるで親友のように接している。


アダムン理事長は笑顔を作っているがその顔は青ざめている。

(そうだ、奇跡魔法の使えるデメテル様なら)


「デメテル様を呼んできます!」

慌てて走り出した、――そのとき。


〈ドォンッ!〉

――腹に響く衝撃音。


霧散したはずの立体的な雲が、渦を巻く。

雷鳴がとどろき、塊が一本の角を持つ獣になっていく。


――あれは。前回も発生した……。


「またか……! 欠片の……残留物キメラ!」

叫んだ瞬間、竜巻のように荒れ狂った化け物が俺に襲いかかってきた。

僕→俺に変更中


概念の怪物、その欠片の残留物の名称は「残留物キメラ」に統一します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ