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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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優勝発表の夜、たき火と狐面の少女の秘密

【あらすじ】魔法学校夏至祭の後夜祭。いよいよ総合優勝寮の発表です。

『まず、ファッションショーですが……、ドレスをはためかせ、魔物の群れを踊るように撃退したスコリィ選手が文句なしの優勝! ネコさん寮に100ポイント!』


〈オオオォォーーー!!〉

生徒たちの歓声が上がる。


撃退で評価されてるじゃないか。

「敵が出てきてよかったな! おかげで優勝だ!」

「てんちょー、見とれてたっす」


……余計なこと言うな。


ジョッキの縁を軽く打ち合わせ、泡立つビールを喉に流し込む。


「スコリィ先輩、おめでとうございます!」

「サインください!」


スコリィが群がられている間にも、放送の点数発表は続く。

『さて、出店部門はトリさん寮、魔法造形部門はイヌさん寮! 合唱部門はカエルさん寮! ……』


……次々と発表が続き、ついに、最後の得点が発表される。


『最後……、召喚物競争は、ご存じスコリィチームの優勝で、敵も撃退しましたので北のネコさん寮に200ポイント!』


『しかし、ペッカ選手のエントリー遅れ、エントリーしていない不気味な呪具”ハニワ”を使ったことにより、減点マイナス80!』


『得点はなんと、全寮300点の、横並び!? この場合どうなるんですか!?』

いや、発表前に決めておけよ。


『えーっと……。あれ? 理事長?』

放送室に理事長が入ってきたようだ。


『おほん、諸君。理事長のアダムンじゃ。まずは謝罪からじゃ。今回はワシの結界が甘いせいで、魔王の手先の侵入を許してしまった。申し訳ない。改めて強力な呪具を使って結界を張り直したからもう安心じゃ』

呪具ってハニワのことだよな。


『で、横並びになったようじゃが。実は朝早、食堂のハーブ洗いを手伝った者がおる。それはOBのスコリィくんの召喚獣、……クタニくんじゃ。これで特別ポイントを入れてはくれんかな』


一瞬静まりかえる、学生たち。

視線が、痛い。

スコリィのやつ、口の端が吊り上がってやがる。


『ふぉっふぉっふぉ。いいようですな。それでは、北のネコさん寮に5ポイント追加!』


〈オオォォォーーー!!〉


学生たちが歓声を上げる。

俺の背中や頭を軽くたたいて祝福する生徒たち。


スコリィが肩を組んでくる。ルルドナが頭をなでる。ガディは肩をたたく、ペッカは俺の膝に乗る。

ライムチャートちゃんとペルセポネーちゃんは脇腹をつついてくる。

デメテル様はビールをかけてくる。

みんな笑顔だ。


何だよ。

何でこんなにノリがいいんだよ。

誰か反対しろよ。


……恥ずかしいだろ。


『さすがアダムン理事長! 道徳的な行為に対してのセンサーがすごい! みなさんも普段からお手伝いをしましょう! ともかく、ネコさん寮、総合優勝です!』


その後小一時間、俺はみんなにもみくちゃにされ続けた。

夏至祭で一番体力を使ったのは後夜祭、というオチになった。


***

しばらくして、後夜祭の熱気からそっと抜け出した。

褒められ続けるのは慣れていない。


まだ明るさの残る時間帯。逢魔が時。


キャンプファイヤーを囲む席でボーッとする。

〈パチッ……パチパチッ……〉


火のよく見える位置、周囲に誰もいない、端っこの席を陣取る。


(今日は本当にいろいろあったなぁ)

しみじみと火を見つめる。


〈パチッ……パチパチッ……〉


引きこもっていたときの一年分くらいの密度があった。

「こういうのを充実してる、っていうのかな」


ぼそりとつぶやいたそのとき。


「見事だった。クタニ」


狐面の少女が俺の隣にふわりと座る。

「見てたんですか」

「ああ。落ちても助ける気は無かったがな」


「そりゃきびしい。次から空を飛ぶ魔法でも覚えてから挑戦しますよ」

「魔力を捨てて転生したくせに」

「転生前から魔力なんてありませんよ」


「転生前の、前だ」

目元と鼻を隠す狐面。その下の小さな口元が笑う。


「前の、前?」

オウム返しをしてしまう。


だけど少女は突然、笑い出す。

「ふっ、ふふふ、……ははははっ! しかし、思うと今のお前は傑作だ」

「今の、って。いったいさっきから何を?」


「ははははっ! その顔……! ははは! いや……すまない」

俺の顔に視線を向けるたびに腹を抱えて笑う少女。


「慣れているからいいですけど……。それで、全力で優勝しろって、何が目的だったんです?」

「簡単さ。お前の自信をとり戻したかったのだ」


「こんな大人に、自信……ですか?」

「大人だからだ。……いや、二重転生をした大人だから、と言うべきか」


――二重転生。その響きで胸の奥が激しくはねる。


「……ま、待ってください。俺の何を知っているんです?」


「お前の過去は、いや過去の過去は、すべて知っている。こちらの世界で生まれ、絶望し、破壊し、逃げ出した、……幻の優等生」

炎に照らされた少女の影が大きく揺らめく。

その存在が揺らめき……。


なんだこれは。俺は何としゃべっているんだ?

肌が粟立つ。

夜気が、肌に貼り付くように重くなる。


「は? 幻の優等生はヒュームンさんでしょ?」

「何を言っている? ヒュームンは100年も留年しているんだぞ。優等生なわけないだろう」


「……自分の師匠に向かってなんてことを……」

やっとの力で軽口をたたく。


「師匠か。そんな設定だったか。いや、先ほどは見事だったし、秘密を1つ教えてあげよう……」


少女はスッと顔を近づけ、狐の面をゆっくりと……外す。

〈パチッ……パチパチッ……パチッ!!〉

火がひときわ大きくはぜる。


たき火の明かりに照らされたその顔。

……不気味なほどきれいに整い、まるで深い森から出てきた神の使いのようだった。


ただ、その黒い瞳には複雑な魔法陣が浮かび上がり、その奥で光がうごめいていた。

「ヒュームンは、――私だ」


〈パチッ……パチパチッ……〉

火が静かにはぜる。


――その瞬間、風が止まり、空の色が変わった。

雲が沈むように膨らみ、焚き火の光を呑み込んでいく。


〈グオォォォーーーー!!〉

天のかなたから響くような咆哮が、祭りの音を引き裂いた。


闇の中に新たな闇が生まれる。

それは、闇のその極限まで固めた闇。


「そんな……ヒルデ師匠が追い払ったはず……」

目の前に降り立ったのは。


――概念の怪物、その欠片だ。

意外と秘密が詰まった回になってしまいました。


さて、またしても概念の怪物がやってきました。どうやって撃退するのか?




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