異世界でも相手の土俵に立つのは愚策
【あらすじ】叫びだしたフォレストドラゴン。カッコつけている中二病の治らない大学一年生くらいのノリのドラゴン。
【登場キャラ】
・クタニ(主人公):若返り転生おっさん。中身はスローライフを目指すハニワオタク。空き家と山を買って借金生活。雑貨屋店長。
・ルルドナ:クタニの作ったハニワから生まれた少女。紅赤の髪に和風メイド服。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。
・イゴラ:ミニゴーレム少年。最初の客。130センチくらい。
・スコリィ:ストーンピクシー。高身長スレンダー女子。180センチくらい。
・小さいドラゴン:森から出てきたフォレストドラゴン。
雄叫び。咆哮。
それは、山をも震わせるような響きだった。
体は小さくとも、声はまさしく――ドラゴンのそれだ。
「おい人間。怒りを……思い出させてもらったぞ……!」
空気がビリつく。魔法陣が輝き、地鳴りのような音と共に巨大な影が立ち上がる。
――木でできたドラゴン。
2メートルを超える木製の巨体が、ギシギシと音を立てながら姿を現す。
「ウッドドラゴンよ! ゆけ!」
その声に反応し、俺のほうへ襲いかかってきた。
〈ズドン!〉
その掛け声と同時に、巨腕が唸りを上げて俺を薙ぎ払う。
間一髪で後ろに跳んだ俺の足元を、風圧がえぐる。
「はっ、なるほど……魔王か。面白くなってきたな!」
小さなドラゴンがニヤリと笑う。
「正式な契約は、俺様のウッドドラゴンを倒してからだ!」
戦いはもう、避けられない。相手の怒りを受け止め、認めさせなければ。
――この戦いで俺は、戦略というものの重要性を思い知らされることになる。
***
ウッドドラゴン。
木でできたとはいえ、筋肉のようにうねる枝と節の塊。
重さが、音に宿っている。
振り下ろされる腕は、まるで剣豪の一撃。
〈ブンッ!〉――速い!
避けるだけで精一杯だ。一気に弱気になって、両手を上げる。
「ま、待て! もう契約はしただろ!?」
「一時保留だ! 名も知らぬ人間と契約できるか!」
「確かに! そうだな!」
……あっさり説得されてしまう。
そのまま構えてしまい、戦闘態勢に入ってしまった。
……戦闘、できないのに。
ああ、相手の土俵に立ってしまった。……愚策だ。
「俺様と契約したいなら、“力”を見せろ!
小手先の技術だけでは、長くは続かん!」
〈ブンッ! ブンッ!〉
木の拳が風を切る。避けるたびに腕が痺れる。
思い出すのは――ブラック企業時代。
上司の木刀。
顔を避けても、心が折れそうになるあの理不尽。
でも今は違う。
「負けない……!」
怒りが、恐怖を押し流す。
***
――状況は違うけど、力を証明しなきゃいけないのは同じだ。
あのとき、俺は理不尽でも木刀の痛みに耐えなければならなかった。
相手の土俵に立つのは愚策。あのとき、ただ正面から耐えたのは、愚策だった。
だけど、今は違う。
将来の頼もしい味方かもしれない。真剣に戦うことが重要だ。
***
戦略の基本は「弱点を突くこと」。
でも、相手もそれをわかっている。
戦略を読むには――相手が“何を守ろうとしているか”を見抜くことだ。
俺は観察を続ける。
このウッドドラゴンはブレスを使わない。物理一本槍。
スコリィの声が飛ぶ。
「いけー! テンチョー! そいつは物理攻撃しかしてこないっす! 懐に潜り込んでカウンターっす!」
安全圏から観戦しやがって……と毒づく間もなく、尻尾がうなりスコリィの足元をえぐる。
「うおおっと!」
避けたスコリィはお返しとばかりに相手に石礫の魔法を放ったが、それはあまりに弱々しかった。
「今日はもうほとんど魔力切れっす。てへ」
可愛い顔をしたら許されると思っているな。
そこへ、レンガを投げる音。
〈ゴツン〉――ウッドドラゴンがわずかに怯む。
「関節です! 関節が弱点です!」
イゴラくんの声。
ナイスなアドバイス。彼は言った直後にさっと木陰に隠れる。
ウッドドラゴンの関節を見る。西洋型のドラゴンの形である足や腕の関節。ぼんやりと光って何か防御魔法かなにかがかけられているような……。
「ムダだ! 関節には防御魔法がかけられている!」
ドラゴンがにやりと口の端をあげる。
「いやバッチリ対策できてる!」
「弱点を強化しておくのは基本中の基本! はっはっは!」
腕組みをしたドラゴンが高笑いをする。
「序盤の敵が余計なことをするなっ!」
俺は相手の攻撃を避けながら、なんとか木の棒で弱点と思われる関節を攻撃してみた。
〈バチッ〉
勢いよく弾かれる。
防御魔法が棒を弾いたのだ。
「うん、関節への攻撃は無理そうだな」衝撃でしびれた右手を見ながらつぶやく。
「さあどうする? 降参か?」
勝ち誇ったようなドラゴンのドヤ顔。結構腹立つな、爬虫類っぽいくせに。
***
予備動作が遅いのにもかかわらず、動き出した後の攻撃があまりに速いので俺は相手をするだけで精一杯だった。
〈ギシギシッ、ガシャ!〉
という音が何度も繰り返される。
「木でできているなら、炎が弱点か!?」
避けるだけで精いっぱいだった俺はようやく導いた推理を口にする。
「はっはっは。それも対策済みだ! 全身に耐火塗装をしてある!」
「余計なことしすぎだ!」
攻撃を避けながら俺がツッコミをする。しかしそのツッコミで生じたスキに爪で攻撃される。
〈ブンッ〉
避けきれず、爪が肩をかすめる。肩に鋭い痛み。
――血の匂い。
防戦一方。
……だめだ、こんなことをしていたら本当に死ぬ。
そう感じたとき、――思いもよらない助っ人たちが現れた。
「やれやれ、間に合ったようだな」
そこにいたのは……!
助けに来てくれた意外な助っ人たちとは誰でしょう?
感想・コメントお待ちしています!
2025.3.10 加筆修正しました。
2025.5.7 タイトル変更と加筆修正しました。
2025.8.13 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!
2025.10.24 リライトしました。テンポよくしました。




