魔法学校夏至祭のおまけ、後夜祭
【あらすじ】魔法学校夏至祭。召喚物競争を見事走りきったクタニたち。夕暮れと同時に後夜祭がはじまる。
「いやあ、最高のタイミングだったっすね!」
スコリィがビールを豪快にあおって笑った。
――後夜祭。
巨大なたき火の炎がぱちぱちとはぜ、夕焼けの空に火の粉が舞う。
中央広場にテーブルとイスが並べられている。
俺らのテーブルには、ルルドナ、スコリィ、ペッカ。
飲み物は、――やっぱりピールだ。
レースは俺たちが圧倒的に大差で一位だった。というか、パルクール会場を完走できたのは俺たちだけだった。
ただ、総合優勝は寮対抗。まだ発表はこれからだ。
「目覚めるのがもう少し遅かったらアウトだったわよ」ルルドナが満足げにビールを飲む。
「お前はやはり無茶をしたな。あのクッションは安物だったから、俺がつかまないと死んでたぞ」
おいしいところを持って行った二人が俺に注意する。
……え、死ぬ寸前だったの? いまさら背筋が寒くなる。
「……まあまあ。ずっと一人で祭り回っていたんだから、あれだけ動けただけでもいいだろう?」
俺がいいわけをすると、ルルドナがビールをあおって問い詰める。
「そもそもなんで、一人だったのよ」
「いや、ルルドナは寝てるし、スコリィとライムチャートちゃんは拒否してきたし」
「てんちょーと出店歩きたくないっす。盗みしていると勘違いされるっす」
「おいおい」
「そんなポケットの多い服着てたら怪しまれるっす」
ロングコートに両胸にポケット付きのワイシャツ。
「そんな……。疑わしきは罰せず、の原則はどこにいったんだよ」
「それは裁判所の中だけよ」ルルドナがあきれ顔で言う。
そのとき、背後から少女たちの声。
「そ、そうです。く、クタニさんの歩く仕草は、……か、完全に変質者です」
「そうよ。ホントに店長、やっているの?」
「ライムチャートちゃん、ペルセポネーちゃん」
浴衣を着込んだ二人の少女。神様とゴーレムの魂を分け合った少女たち。
頭にはお面、その両手には綿菓子や水風船、おもちゃの人形まである。
(お祭り、堪能したんだな……)
すぐあとに、ふらふらとした足取りの金髪美人がやってきた。
「ふたりとも、体力お化けです~」
「デメテル様!」
二人の母親、デメテル様。オリンポス12神の豊穣の女神。
……めっちゃ千鳥足じゃん。
「ママ、はっきりいってビール飲みすぎよ!」
「す、すべての給酒場でビール飲んでましたよね」
給酒場……? 給水場の聞き間違いだよな……?
「だって~。無料なんだもん~」
神様が無料につられるな。
「それに、楽しい競争も見れましたし。やっぱりお祭りっていいですね」
こちらの顔を見て、慈愛の表情を向けるデメテル様。
……あれ、見られてたんだ。
文字通り髪の美貌の相貌から目をそらし、話題を変える。
「にしてもペッカ、レースではベストタイミングだったな、ありがとう」
ペッカはビールジョッキを静かに置いて俺に言う。
「ふっ、お前が無茶をするのは予想がついていたからな」
やはり、保護者枠を勝ち取る気だな。
「ちなみに店は、前に棚を並べて無人販売所にしておいた。スラコロウは二階で本を読んでいたぞ」
あいつまた本読んでるのか。
「おお! ついに我が店も無人販売か……!」
「人がいないだけっす!」
素早いツッコミをしたスコリィ。彼女は相変わらずハチミツを料理にかけている。
「あら、そのハチミツのかけ方、やっぱりわかってるわね、スコリィちゃん」
やってきたのはテフラ校長。
まずハチミツじゃなくて競技褒めてやれよ。
「テフラ叔母さん! このハチミツまじうまっす! てかレース中、カメラ撮影まで何してたんすか? 来るんならもっと早く助けに来てほしかったっす」
「もう、大変だったのよ~。アダムン理事長がね、クタニさんのハニワを利用した大結界をすぐに作るって言い出して」
「ええ? 祭りの間にですか?」
「そうなりますね~。私ができることが終わったから、急いでスコリィちゃんの勇姿をカメラにおさめにいったのよ~」
どこの世界でも、保護者カメラマンっているのか。
「……で、スコリィ。そういえば何の研究をしたかったんだよ」
「……火山の噴火後に咲く花の研究っす」少しだけ言いにくそうにスコリィが答える。
「へぇ。そりゃ珍しい。こっちでは流行ってるのか?」
「研究はどれも珍しいものっす。当たり前のことしても研究にならないっす」
「ぐ……、ごもっとも……」
正論を言われて口ごもる。スコリィに正論を言われると無性に悔しい。
「この子、本っ当に、真面目なのよぉ。両親も火山学者だし。……ねえ、クタニさん。よかったらお店で、スコリィちゃんの研究コーナー創ってくれないかしら?」
火山学者の娘の雰囲気全然ねえな。
「研究コーナー? 噴火後の花でも生け花にして売るんですか?」
俺は思いつきで言う。
スコリィが前のめりになって声を上げる。
「おお! それやりたいっす!」
いつも元気だけど、こういう知的好奇心に駆られて動くのは初めてだ。
思わず鼻白む。
「あ、ああ。わかったよ。じゃあハニワコーナーの横な」
「え、いやっす! 普通にカウンター横とかがいいっす!」
顔をゆがませるスコリィ。
そんなにハニワ横、嫌なのか?
「そこはキャンディとかついでに買っていくものを置くんだよ! スコリィのコーナーはハニワの横!」
「カウンター横マーケティングだな」
ペッカが知った感じで頷く。
まんまじゃねえか。
「え? 私のはちみつキャンディ、置いてくれるんですか? ありがとうございます~。私、副業ほしいって思っていたんですよ」
……副業ほしい校長って何なんだよ。
「小さくて安いキャンディならいいですけど、高級品はだめですよ。日持ちして、手頃な値段の奴です」
「じゃあ、はちみつキャンディを安くで送りますから、スコリィちゃんのコーナーよろしくお願いしますね~」
「てんちょー、やりたいっす!」
二人に迫られて俺は両手を挙げる。
「もう、いいですよ。わかりましたわかりました。言うとおりにします」
俺が降参するように手を上げる。
「やったぁ!」
「マジでいいんすか!? てんちょーの器が初めて大きく見えるっす!」
初めてとかわざわざ言うなよ。
(まあ、店としても悪い話じゃない……よな?)
――そのとき放送が入った。
『ピンポンパーン。後夜祭、楽しんでますよね? それではお待ちかね、総合優勝寮の発表です!』
ざわついていた会場が、スッと静まる。
焚き火のはぜる音だけが、やけに大きく聞こえた。
結果はいかに……?
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