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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
158/200

グラスゴウン魔法学校夏至祭、召喚物競争の終幕

【あらすじ】魔法学校夏至祭。メインイベントの召喚物競争に出場していたクタニ、ガディ、スコリィ。最後のドミノ壁を登っていると、ドローンが襲ってきた。助けに来たミントンと、スコリィの合成魔法で一掃するも、クタニは足を滑らせてしまう。

(やばっ)

思い切り体勢が崩れる。

しかし狭い足場で体勢を整える余裕はなく。


眼下、はるか下に広がる地面。


大きく体勢を崩す。

そのとき。

――突風。


まるで横からタックルを受けたような風。


抵抗むなしく、俺は空中に放り出されていた。

――ドミノの壁の外側に。


「おい、クタニ!」

「てんちょー!?」


すでに建物10階以上の高さ。

空気が一瞬で冷たくなる。


――落下。

空気が、切り裂くように、全身を圧迫する。


(クッションあるよな? 絶対あるって言ってたよな!?)


***

落下しつつ、中空に浮かぶ不気味に光る魔法陣が視界に入る。


(……そうだ。ドローンの攻撃がやまなければ、二人が危ない!)


「せめて魔法陣だけでも……!」


俺は懐に持っていたハニワを取り出して、最後の力で魔法陣へ投げつける。

魔法を無効化する、特殊な能力を持つハニワ。


〈ヒュン! ペタッ……!〉

見事に空中の紫の魔法陣に張り付く。


〈シューーー!〉

赤黒い煙を立ち上らせて力を吸い取っていく。

よし、これでドローンは止まるだろう。


……あとは、落ちるだけ。


――そう達観したとき。


「飛行するのは、禁止だったな」

懐かしい、声がした。


〈ガシッ!〉

地面のクッションに当たる寸前、俺は空中で両足を捕まれる。


ぐるぐると足のほうを軸にプロペラのように回される。


その姿を見て声を上げる。


「……ペッカ!」

店番を頼んでいたフォレストミニドラゴン。一人暮らしを始めたばかりの、暗闇が怖い、見栄っ張りの小さなドラゴン。

俺の足首をがっちりとつかんで、その身を軸に回している。


それにしても体が小さいのになんて力だ。さすがドラゴン族。


「心配で観客席から見てたのだ! 文字通り飛んできたぞ!」


(お前もう完全に保護者じゃねえか)


「ありがとう! といいたいけど、まさか……!」

「ああ! 飛行は禁止だが……、投げ飛ばされるのは――ルール違反ではない! レース復帰だ!」

〈グルングルンッ! ボウン!〉

ペッカはそのままハンマー投げのごとく、俺を上空に放り出した。


そのとき見た空には、くっきりとした雲が重量感のある綿菓子のように浮いていた。

(あの雲に乗れたらいいのに)

そう一瞬だけ子どものような思考がよぎる。


(……だけど)

スッと目を細め眼下に並ぶドミノ壁に意識を集中した。

でも今は、ここが、俺が走るべき道だ。


――残り、30分。


***

「待たせたな二人とも!」

調子よく俺は叫ぶ。

〈ストン〉

ドミノの壁の上にきれいに着地。


ペッカ、投げるのうまいな。


「今のは見事っす!」スコリィの声。

「やるじゃねぇか! 見直したぜ!」ガディにも褒められる。


「このままいくぞ! さあ、いち、にっ! いち、にっ!」

声を出して、また駆けだした。


『セーフ! 飛行は禁止ですが、投げ飛ばされるのはセーフです! あとは駆け上るだけです! ってこのカメラ誰が撮影しているんですか?』


ナレーションの疑問に、緊張感のない声が返ってきた。

「あ、ばれました~? 校長の私が風魔法で作った雲に乗って、撮影してま~す! 野暮用がやっと終わったのでスコリィちゃんの勇姿を撮影しに来ました~」


カメラを構えていたのは、なんと、テフラ校長先生。おっとり系の、髪の毛は黄色と緑が複雑に絡み合っている不思議な色で、風を物質化する特殊魔法が使える。

今は風を物質化して雲のようにして乗っている。


――本当に雲の上に乗っている人、いた。


『意外! 校長先生が自ら撮影しているようです! まるで運動会に気合いを入れて撮影に来ている父兄だ~! OBのスコリィ選手の叔母に当たるそうです!』


「叔母さん! はずいっす!」

スコリィの抗議を完全に無視してカメラを回す校長先生。


「次、機材が暴れ出したら、すぐに分解しますんで安心してくださいね~!」

余裕のピースサイン。


『たのもしい! 風を自在に操り、砂粒から隕石まで投げつける風魔法マスターのテフラ校長! ……カメラありがとうございます!』


「もう、やるしかないっすよ! てんちょー!」半ばやけになたスコリィが叫ぶ。

「いけるぜ!」ガディも拳を打ち鳴らして俺を見る。


二人の熱意に答え、俺は声を出す。

「わかってる! いくぞ! いち、にっ! いち、にっ!」


手を上げて感謝を伝えつつ、余裕無くドミノ階段を駆け上がる。

高さはすでに建物12階くらいに達している。

だけど、さっきのピンチと比べたら楽なものだ。


――そして、15階の建物へと続く最後の壁に近づいていく。


壁は、ほんのわずかだけど、奥に傾斜している。


それに気がついた俺はネットで見たパルクール動画を思い出しながら、叫ぶ。

「みんな! 壁に突撃して、両手と両足をついてネコのように壁を駆け上がれ!」


「おう!」

「わかったっす!」


一段と強く踏み込んで最後の2メートルはある壁に飛びつく。

ここはもう上空ともいえる高さ。


でも、恐怖心を捨てなければ、いい動きはできない。


前だけ見て、飛ぶ。


まずは両手でぶつかるくらいの勢いで、壁に手をつく。

ほぼ同時に両足を引き上げる。

壁につま先の裏をしっかりと当てる。

その足を信じ、両手を上へ。


『これは! キャットリープ! 最後にいい動きをするクタニ選手! 最後の壁の上に、その手を……つかんだーーー!!』


伸ばした腕。うまく壁の縁に指が届き、がっしりとつかむ。――だけど。

「ちょ……!」


つかみにくい!


「これ、きっつ……!」

手汗のせいで、だんだんずり落ちる。

力を入れると、かえって滑り落ちてしまいそうだ。


『……いや、クタニ選手、手に力が入らない模様! だんだん体が下がっていくーー!』


「てんちょー!」

スコリィが駆け寄る。長い手を伸ばす。

――だけど。


〈ズルッ〉

スコリィがつかむ寸前。

両手が壁から離れてしまった。


体が落下を始める。スコリィの目を見開いた顔が妙にしおらしく見える。

おいおい、死ぬわけじゃないって。そんな顔するな。

と言う暇も無く、体が落下する。


頭の隅で、狐面の少女の声も思い出す。

――やるからには、全力でやれ。


(やるだけやったんだ。もういいだろ、壁なんか越えられなくたって……)


あきらめ、妙にスローに落ちる自分と、必死に何かを叫ぶスコリィを見る。


――そのとき、胸ポケットから小さな影が飛び出した。

そして一瞬で人の大きさになり、二つの手をつかむ。

〈ガシッ! ガシッ!〉


俺の手と、スコリィの手を同時につかむ影。


それは昼間はずっと強制的に寝てしまい、夕方に目を覚ます――雑貨屋の夜勤担当。


「まったく、あんたは詰めが甘いのよ」


ハニワから生まれた紅赤の髪の少女――ルルドナ。

土質の両の手で二つの手を力強くつかむ。

傾いた陽光を浴びる深紅の瞳が不適に笑う。


――残り、20分を残して、俺らは壁の上に這い上がり、そのまま走りきってゴールテープを切った。


へとへとに倒れ込んで見上げた空には、白くて分厚い雲が寄り集まり、こちらを見下ろしていた。


こうして、グラスゴウン魔法学校夏至祭のメインイベント、召喚物競争が幕を閉じた。

※主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直し中。


ようやく魔法学校夏至祭編が終了です!


おつきあいいただいた方、ありがとうございます!


次はおまけの後夜祭です!


感想・コメントお待ちしております!

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