ドミノの壁登り、レーザーで攻撃されても、先輩と合成魔法
【あらすじ】魔法学校夏至祭の召喚物競争に参加することになったクタニ、ガディ、スコリィ。最後の関門は、巨大なドミノ壁。
いつだって壁は高く、厚く、そびえ立つ。しかし、それを越えたとき、大きな扉が開くのだ。
「単純に、俺が一番内側を走る。二人は、俺に合わせてゆっくり走ってくれ……」
屈辱の提案をする。
「りょうかいっす、てんちょーの足の長さに合わせるっす!」明るく答えるスコリィ。
「まあ、しょうがねえ。短いのに合わせるか」悪気のない様子で俺の足を見るガディ。
……触れないでほしかったのに、思いっきり突っ込んでくる。
『さあ、腹が据わったようです! 見事クリアできるのでしょうか!? だんだん高くなるドミノ壁! 2階の高さから15階までの高さまでのぼっていってもらいます!』
ナレーションはテンション高いが、悪意は感じない。運営が何か仕掛けてきそうな気配は……いまのところない。
「いくぞ!」「おう!」「うっす!」
思い切って踏み出す。ドミノ同士の間隔は1メートル弱、段ごとに30センチずつ高くなって、大きくカーブしている。
浮遊魔法で少しだけ身軽になっているとはいえ、これが何十段も続くと負担が大きい。
「いち、にっ! いち、にっ!」
オヤジくさいとか言われても知らん。
二人が合わせやすいように、ひたすら声を出して階段状のドミノ壁を駆け上がる。
通り過ぎたドミノ壁は……俺らの進行方向に向かってゆっくりと倒れてきているようだ。
(おいおい、これってこっちに倒れてくるのかよ!)
『言い忘れましたが、あまりに遅く上っていると、足場が倒れてすぐに崩れてしまいますので気をつけてください!』
おせーよ。
ドローンカメラが器用について来て、ナレーションの声だけは元気だ。
ツッコミたかったが、そんな余裕はない。
「いち、にっ! いち、にっ!」
俺の声に合わせて、二人は余裕そうに駆け上がる。
案外、いけるかもしれない。
はるか下の地面は見ない。目の前のドミノ壁だけを見て、リズムよく上る。
――そのとき、ドローンカメラから異音がした。
〈キィィーーン〉
足下に、光のレーザーが放たれる。
〈シュゥン!〉
「うぉ! ……いち、にっ!」
慌てて避けつつ、……それでもリズムを崩さずに進めていく。
(いや、マジでやりすぎだろ!)
「どうしたっすか、てんちょー?」一番離れているスコリィは気がついていない。
〈シュゥン!〉
「なんだこいつ! 攻撃してくるのか!?」真ん中のガディにもレーザーが放たれる。
――しかし。
〈キュイィィーーン! バシャバシャ!〉
突如出現した少し濁った水が、光を分散させレーザーを防ぐ。
ガディの自動迎撃魔法!
「全員に魔法かけた! だが気を取られてバランス崩すなよ!」
「あざっす! てか、これ壊しちゃっていいんすか?」
スコリィが余裕のある声で言う。だけど俺はそちらに視線を向ける余裕はない。
『運営です! ドロ-ン魔法カメラ、制御不能です! 壊してしまっても、かまいません! 一台で何百万も出して購入しましたが、気にしなくて結構です……!』
断腸の思いのこもったナレーション。
……もうあきらめろ。
だけどこっちも絶体絶命。僕たちは止まるわけにもいかないしレーザーの攻撃は容赦なく飛んでくる。
――そのとき。
〈ドォン!!〉
僕たちを攻撃していたドローンの一台が破壊される。
そこにいたのは――。
「ミントン先輩!」
スコリィがうれしそうな声を上げる。
そう、現れたのは、スコリィの先輩、ミントンさん。巨大な植物をの上に乗って茨の鞭を構えていた。
***
「スコリィ! あんたは、進むことに集中しなさい! 敵はこっちが対処するわ!」
現れたのは、美人秘書のミントンさん。
スーツ姿に銀縁メガネ。手には大きな茨の鞭を構えている。
足下には巨大な植物。その先のつぼみのような部分に乗っている。
「やっと見つけたわ、魔王機材部門の! まさかドローンに仕掛けているとはね!」
スコリィが親指を立てて言う。
「先輩ナイスっす! こんどハチミツゼリーあげるっす!」
「集中しなさいって! ……って、増えた!?」
〈ブォンブォンブォン!〉
ドローンは大量に増えた。その数、100以上。
その大群は無情にもレーザー攻撃を仕掛けてくる。
〈ヒュインヒュイン!〉
――しかし。
〈ジュバジュバジュバ!〉
ガディの防御魔法が無数のレーザー攻撃を防いでくれる。
「こんな量の攻撃が続くと、いくら俺の魔法でも防ぎきれないぞ!」
ガディは迎撃魔法を強化しつつ、歩調を合わせて駆け上がる。
「いち、にっ! いち、にっ!」
ミントンさんの救助が来ても俺たちは進むしかない。
足下は20メートル以上の高さ。
ペースが乱れないように、足を踏み出すだけで精一杯だ。
「ミントン先輩! いけそうっすか!?」スコリィは余力をたもったまま声を上げる。
「この巨大植物で魔力ほとんど使ったけど、やってみるわ!」ミントンさんは、巨大植物から茨の鞭を数十本生えさせ、器用にドローンを打ち落としていく。
……だけど、打ち落としても打ち落としても、ドローンはどこからか出現する。
「いち、にっ! いち、にっ!」
俺はほとんど何もできずに、声を張り上げてドミノ壁の上を進むのがやっとだった。
***
「先輩! 合成魔法いくっすよ!」
軽快に駆け上がっていくスコリィの大きな声。
「あんた、跳びはねながらできるの!?」
ミントンさんの焦った様子の返事。
「いけるっす! なんか慣れてきたっす!」
前方宙返りをしながら次の段へ飛び移ったスコリィは答える。
……お前もうパルクール選手になれよ。
「バランス崩さないでよっ! じゃあ、数には数を! 『綿毛雲魔法』、いくわよ!」
「ういっす! なついっす!」
「小さき綿毛よ、覆い尽くせ! ――タンポポの浮き雲!」
ミントンさんの周囲に黄色い花が無数に咲きほころび、すぐに白い綿毛になり空に舞い上がる。
――それはもう、一つの雲のまとまり。
それを見たスコリィが綿毛の雲に手をかざして魔法を詠唱する。
「風よ、曇天に遊べ! ――自由の笠雲!」
スコリィ、お前昔中二病だったのか!? ネーミングセンスも悪くないぞ!
二人の魔法が見事に合成され、縦横無尽に、ドローンに襲いかかる。あまりに不規則な動きに、ドローンもよけることができない。
〈ボボボッ! ボボボッ! ボボボッ!〉
ドローンの羽元に綿毛が絡まり、次々と落下していく。
「よし!」
「おっしゃー!」
二人が声を上げる。
合成魔法が見事に決まり、ドローンの集団はいなくなった。
「いち、にっ! いち、にっ!」
俺は機嫌良く声を張り上げて、ドミノの段を駆け上る。
もう、全体の半分くらい来たかもしれない。
ナレーションの声が響き渡る。
『す、すばらしい! ミントン、スコリィ両名の合成魔法! 無数ともいえるドローンをすべて墜落させた-!』
その直後、何かに気がついたガディが叫ぶ。
「おい! まだ出てきてるぞ! あれだ! 下の紫の魔法陣だ! あれを破壊しろ!」
「え、下?」
その声に、見ないようにしていたのに、はるか下の方を見てしまった。
紫の魔法陣から新しくドローンが飛び出したのが見えた。
――しかしその瞬間。
〈ズルッ〉
誰かが、足を滑らせた音がした。
――ああ、自分の足だ。
クライマックスです! このまま落ちてしまうのか!?




