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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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ストーンピクシーの過去、狐面の少女の警告

【あらすじ】魔法学校夏至祭。召喚物競争の第4エリア、パルクールに挑戦しているクタニ、ガディ、スコリィ。最後の難関を前に、休憩所で作戦会議をしようとするが……。

――第4エリア選手休憩所。


「はあ……、こんなことなら魔法の研究、もっとやっときたかったっす」

珍しくスコリィがため息をつき、ベンチに腰掛けながら、意外なことを言った。


「研究? お前と研究って、一番縁遠そうな単語だな」

ドリンクを口にしつつ首をかしげると、彼女はムッとした顔をする。


「こう見えても学生時代は真面目だったんすよ」

「……そうか。一人で頑張ってたって言ってたしな。研究者の素質はあるかもな」


「ちょ、急に褒めないでほしいっす」

「優等生なら、研究所にひっぱりだこだったはずだろ」


「いやぁ……研究所の面接、全部落ちたっす。部活で助っ人やったり、バイトでモデルとかしてたんで、“集中力がない”って」


(それ絶対、面接官のひがみだろ……異世界でもひがみとかねたみとかの感情は同じなんだな)

「で、引きこもって推し活してたのか?」


「推し活馬鹿にしちゃいけないっす! 灰色の日常に彩りが出たっす! 浪費すると脳が幸せになるっす!」


推し活する奴は異世界でも同じか……。浪費はどうかと思うけど。


「……それで、どうしてイゴラくんの推し活やってるんだよ」


「学科優等生になったイゴラくんが、田舎の村でパン作り一生懸命やってるのを見て、……その、感動したっす」顔を赤らめてもじもじするスコリィ。


「……確かに、頑張っているよな」


「魔法と全然関係ないのに、朝早くから、小麦の袋担いで、丁寧にこねて発酵させて、火をたいて、同じ味のパンを作って……。優等生があんな地味なことを頑張るって、普通できないっす」


……何でストーカーみたいにスケジュール知っているんだよ。


ツッコミ我慢して、しんみりと言う。

「……なるほどな。で、うちに来て高い月見草を買って浪費癖を直そうとしたわけか」


「そうっす! まあ、今の雑貨屋も悪くないっすよ。借金も気にならないし」


「そこは気にしろよっ!」

思わずツッコミが出る。


ガディがお嬢様モードに戻って、目を輝かせて言う。

「ワタクシ、感動しました! そんな過去があったんですね! ……決めました! ワタクシはスコリィさんを推し活します!」

思わずといった感じでガディはスコリィの手を取って両手で握る。


「いや、それは恥ずかしいっす! アタシなんて大したことないっす!」


うちの雑貨屋をこれ以上ややこしくしないでくれ。

そう思いつつ、二人の様子を眺め、俺は口元をほころばせる。


――その直後、休憩所の空気が一変した。


***

「そんな仲良しごっこで壁を越えられるかな?」

狐面の少女が休憩所の隅で腕組みをして立っていた。その目と鼻を隠す狐面は、影からすべてを見透かすようだ。

空気が急に張り詰める。


「うお!? なんすか?」スコリィが両手をかまえる。

「またですか」ガディは一度会ったことがあるため、そこまで驚いていない。


「壁なんて越えなくても雑貨屋はやっていけますよ」

俺は手のひらを上に向けてちょっとあきらめ気味に言う。


……正直なところ、潮時かなと思っている。建物の屋上から屋上まで細い足場を跳びはねていって、最後に2メートル以上もある壁を越えるなんて、しかも3人同時にするなんて、不可能だ。


「全力でやれといったのをもう忘れているな? いいか、壁を越えられないなんて誰が決めた? 決めているのはお前ら自身だ」


「で、誰なんすか?」スコリィが警戒しつつも尋ねる。


「おっと、自己紹介を忘れていたな。私はこの学校の幻の優等生、ヒュームンの弟子だ。可憐な姿だが何百年も前から生きている。ま、重要な仲間ってことで。よろしく」


片手を胸の前に添え、片足をスッと前に出し、黒のハイソックスの脚線美を見せびらかすようにお辞儀をした。


恭しく頭を下げる彼女に俺は首をかしげる。

「なんで急に、みんなの前に出てきたんですか?」


「緊急事態だ。それに、ここ休憩場所はドローンカメラが来ない」


「え、緊急?」

俺が素で聞き返す。


「邪悪な狂気を感じる。このレース中、どんどん強くなってきてる。最後の高いドミノ壁、あそこを越えるときに、おそらく何か仕掛けてくる」


俺らの間に緊張が走る。


「何か、心当たりでも?」

「ありすぎるな。もっとも、私は疑いすぎるから杞憂かもしれんがな」


「でも落ちても死ぬことはないんですよね? もちろん、レースの優勝は消えますけど」

「死ぬよりヤバい何かを奪われるかもしれん。意思とか、転生チートスキルとか、な。ともかく十分に警戒しろ」

闇の気配を纏った彼女は、俺らを見渡しながら低い声で宣告する。


〈ゴクリ〉

全員、つばを飲み込んだ。


「ハニワ作りの能力が奪われたら、どうやって生きていけば……」拳を握りしめる。

「それはどうでもいいっす!」


スコリィのツッコミに、俺以外の全員がなぜか大きく頷く。


その様子に少し口元を緩ませた狐面の少女は、ふっと姿を消した。


――残り、あと50分。

スコリィの過去がちょっとわかりました。天真爛漫な彼女は、意外にも研究者になりたかったようです。

過去を共有したことで団結は深まりましたが……。狐面の少女の警告は現実になってしまうのか?


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