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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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知恵の実を食ったのに召喚物競争の最終エリアはパルクール

【あらすじ】魔法学校夏至祭、召喚物競争に出場しているクタニ、ガディ、スコリィ。最終エリアは何が構えているのか……。

「お前はバカにでもなりたかったのか?」

――第4エリアへ向かう途中の道。


ガディとスコリィの後ろを遠慮がちに追いかけていると、また狐面の少女が並走してきた。あきれた声の手本のようだ。


さっきの自分の行動を思い出し、半ば開き直って小さく反論した。


「……バカのほうが、幸せかもですよ?」


「ふん。知恵の実を食ったやつが、幸せなバカになれると思うなよ」

彼女は一刀両断で返してくる。


「そもそも知恵の実なんて食ってませんから。……ていうか、食ったとしても大した知恵なんかついてないし、バカでも別にいいでしょ」


「食わなかったことにはできない。

身についた知恵や知識をなかったことにするな。

小さな知恵だと卑下するな。

“食ってしまった自分”から、目を背けるな」


今回はやたらと厳しい。


……にしても、いつ食べたんだろう。知恵の実なんて。


俺は周囲から言われてきた言葉を思い出す。

――考えすぎるな。本ばっかり読んで、何を考えているかわからない。ネットばっかり見て、気持ち悪い。


「……俺は、間違っているんですか? これでも一生懸命やってきたつもりですけど」


なぜか俺は無性に悲しくなって、声のトーンを落とす。

「む……!」


俺の声と表情を見て狐面の少女はわずかに顔を逸らす。

その狐面を少し押さえつけて先ほどより低い声で言う。


「いい目をするじゃないか。……いや、今のは私が言い過ぎた。幸せに浸る平和ボケになるなと言いたかっただけだ」


「このレースに真剣になるなってことですか?」


「いや、そうじゃない。何事もやるからには全力でやれ」


「……まるで先生みたいなことを言いますね」


「先生? まあ確かにそうかもしれないな。実際は兄弟子だがな」

その自嘲気味の声に、どこかヒュームンさんのイメージが重なる。確かこの少女はヒュームンさんの弟子と言っていたが。


「兄弟子? ……あなたはいったい?」


「おっとしゃべりすぎたな。ともかく、このレース、やるからには優勝しろ」

そういうと彼女は踊るように俺の前に飛び出しひらりと回る。

着こなした学生服のプリーツのスカートがふわりと持ち上がり、黒いハイソックスと絶妙なバランスを演出する。

ただ彼女は、見とれることも許さず霧のように消えていった。


(……自分で強制的に参加させておいて何を言っているんだ)

最後の瞬間、狐面だけがこちらを見て笑った気がした。


俺は長い第4エリアへ向かっていった。


――残り、あと2時間10分。


**

第4エリアは、正直なところ、命がけだった。

まさかのパルクール。

「いや、これはさすがにきついって!」

校舎の屋上で俺は叫ぶ。


隣の校舎へ飛び移れと言うことらしい。その距離3メートル。走り幅跳びとしては何ともないけど、ここは5階建ての建物の屋上。どうしても足がすくむ。


「ちょっと身軽になる浮遊魔法かけているから、大丈夫っす! がっとジャンプするっす」スコリィは向こうの校舎でぴょんぴょん跳ねている。

「度胸が足りねーぞ、クタニ!」ガディが俺を促す。


「もしものときは絶対に助けろよ!」

俺は助走をつけて走り出す。勢いをつけて、建物の縁に足をかける。下を見ないように、思い切りジャンプする。


〈ズザァァーー! ドン!〉


勢いあまって、向こうの建物の壁に激突する。

「おお! 大ジャンプっす!」

「今の踏み込みうまいじゃないか!」

二人にめっちゃ褒められる。こんなに人に褒められたのは自転車に乗れた時以来だ。


ドローン魔法カメラがついてきて、ナレーションの声が響く。

『さあ、練習は終わりです! もちろん、飛行魔法などは禁止です! では第4エリア、魔法学校版パルクール! 始めてください!』

魔法学校の空は無慈悲にも、とても高く青く広がっていた。


***

「今回の大会は趣向が違うっす。最後のロングランがなくなって、第4エリアがロングパルクールになってて、ゴールまで続いているみたいっす」


二階の廊下を走りながらスコリィが言う。ロングパルクールってなんだ。ネット動画でも見たことないぞ。


スコリィもガディも廊下の先の窓枠の中をひょいと超えていく。

……向こうに足場があるの確認していけよ。


ドローンカメラも器用に飛んでついて行くが、あの技術マジでどうなっているんだよ。


戦闘モードになったガディは特にノリノリだ。手すりひょいと越えて隣の屋根に乗って走って行く。

「全っ然、大した事ねえな」彼女は楽しそうに越えていく。

水の精霊なんだからアクティブな動き苦手とかであってほしい。


(うちの店員、運動の力までチートかよ……って普通、それは転生者の役得では?)

もう期待しないけどな。


魔法で矢印が描かれている。

競技者はこの矢印に従って進んでいけばいいらしいが、とにかく道なき道だ。


「うおおっ」

傾斜のある屋根の上を駆け足で進む。

「ほっ」

片手をついて手すりを超えていく。

「これはっ」

屋上で次の建物に飛び移る。

「おおお!?」

ポールにしがみついて回転しながら落ちていく。


「てんちょー、いちいちおっさんくさいっす……」スコリィがあきれて言う。

「声出ちゃうんだよ! うまくいっているからいいだろ!」俺が言い訳をする。

「おいおい、油断するにはまだはえーぞ!」ガディはガキ大将のように俺らを引っ張る。


ともかく、上ったり下ったりねじれたり回転したりしながら、魔法の矢印にしたがって俺らは進んでいく。


スコリィとガディは身軽だ。

余裕が有り余っているのか二人はたまにひねりや回転をしつつ越えていく。こちらは転がったりしがみついたり満身創痍でついて行くのがやっとだ。


『すごい! 一人は傷だらけだが、それでも意外と様になっている! ……しかしさあ、次は厳しいぞ!』


壁が、ドミノ倒しのドミノのように何十枚も並んでいる。しかもだんだんと高くなっていっている。その上を渡って行けということらしい。


『これは、離れ階段ドミノ壁です! 全員が同時に越えなければ、倒れてしまいます! 倒れたら粉々になるもろい構造です! 落ちてもクッションはありますが、一人でも落ちたら失格です!』


「おお、高いっすねえ」身軽なスコリィは余裕だ。

「雑貨屋のコンビネーションを見せてやるぜ!」ガディはマジでやる気だ。


「とはいっても、ひどすぎでしょ……」


二階の建物の屋上から、ドミノのように壁が続いている。その壁は幅が30センチくらい。

隙間は1メートルほど。


最後の壁はジャンプしてしがみつかなければならないほど高くなっている。高くなりながら緩くカーブして最終的には10階建ての建物くらいの高さになって、奥の建物につながっている。


特に最後の壁は、もう越えることが不可能なほど高まりがひどくなっている。


「三人同時……これは最難関かもしれないっす。……足の長さが違いすぎるっす」

「足の長さだけは、どうしようもねぇな……」

自然に、何の悪気もなく侮辱された俺は首をもたげつつ提案する。


「……いや、まだ時間はある。一回、作戦会議しようぜ」

休憩所を見つけて二人を手招きする。

――残り、1時間30分。

浮遊魔法は、ちょっと身軽になるだけです。上質なエアクッションがあるくらいのイメージです。


うまくドミノ壁を越えていくことができるのか!?


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!


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