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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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召喚物競走、麻痺水プールで魔法のスイカを拾う

魔法学校夏至祭、召喚物競走に出ることになったクタニとガディ。第三エリアは三つのプール。一つをむりやり超えたところで、次の麻痺水プールで攻略法を考えていたが……。珍しく戦闘モードのガディがアイデアを出してきて……。

できあがった二つのヘルメットを前に、俺とガディ、スコリィが立つ。

「ガディ、これ、どうやって使うんだよ。でかすぎだろ」


「説明してるヒマねえぞ。後続がもう来てる。ロープ巻いて、さっさと中入れ」


「中? おい、まさか……」


「ヘルメットの中に入れ。上からかぶせる。んで中から接着しろ。乾いたら水に沈める。スイカの近くに来たら俺が魔法で割るから、スイカをつかめ。すぐに引き上げてやる」


「いくら何でも無理があるような」

「大丈夫だ。釣りは得意だ」

ガディは親指を立て、不敵なほほえみを浮かべる。

……あ、これもう止められないパターンのやつだ。


「泳げないから、すぐに絶対に引き上げろよ。いや引き上げてください」

「まかせとけ」


俺は胸ポケットのルルドナをガディに預け、身を縮めて巨大ヘルメットの中に入る。


「てんちょー、アタシの分もよろしくっす。今度店のハニワ全部きれいに磨いとくっす」

「来る客全員に勧めろよ……」

体育座りのまま、か細い声で返す。


不敵に八重歯を見せて笑うストーンピクシーの表情は、楽しんでいる以外の何物でもなかった。


***

〈ドボンッ! ゴボゴボ……〉

暗闇の中、水に投げ入れられ沈んでいく音がする。


つなぎ合わされたヘルメットは一人用の潜水艦のごとく、水に沈められていた。


(割れたらスイカ、割れたらスイカ……)

こういうときは無心だ。仏教徒のごとく両手を合わせ、割れたらスイカをつかむことだけを考える。


――無心。

俺の得意な技の一つだ。


(……ていうか、スイカって砂浜に置いて割るものじゃないのかよ!? 割れた潜水装置から飛び出してつかむものじゃないだろ!?)


「全然、無心になれねぇ!」


しばらくして、潜水ヘルメットが水の底に当たる音がする。

〈コツン〉

水の中に沈みきったようだ。あとはスイカをつかんで引き上げられるだけ――のはずだった。


そのとき、衝撃の前に、衝撃の事実に思い至る。

「……まてよ。このヘルメットが魔法で割れたら、衝撃で俺も吹っ飛ぶんじゃ……)


――その予感は見事に的中した。


〈ドォォーン!〉

派手に割れる潜水装置、俺は水中で明後日の方向にすっ飛ばされる。

ロープは、――切れていない!


そのロープがぐいっと引かれ体が移動させられる。すると手に何かが当たる。

魔法のスイカだ! 黄緑色にオーラをまとっている。


衝撃で頭が混乱していたが、痛みはない。スイカをつかみ、落とさないよう腕に力を込める。

するとロープが微妙に引っ張られ、3メートルほど離れた隣のスイカまで誘導される。


(両脇に抱えろってことか。――たくましい店員を雇ってしまったな……)


しかたなく、もう一つのスイカも抱える。


その瞬間、腰に巻かれたロープが引っ張られる。

スイカを落とさないように腕に力をこめる。


〈ばっしゃーーん!〉

俺は勢いあまって水中から空中高くへ放り出される。


――その高さ、約10メートル。


「おっしゃー! 大漁だぜ!」

ガッツポーズをするガディ。


「って、ちょ、おい、地面に落ちる!」


落ちていく俺は、てっきり魔法の水クッションで受け止められると思っていた。


だけど巨大な釣竿を持ったガディは、『しまった』という表情で固まっている。

(水中から飛び出した後のこと考えてなかったな……!)


〈ヒューーー〉

地面に落ちていく。


……このままじゃ、数秒後に“スイカ三連クラッシュ”だな。一つは俺の頭だけどな。


と達観し目をつぶったとき。

〈ガシッ〉

長い影が飛び出したかと思うと、俺は力強い腕にかかえられていた。


空中をゆっくりと落ちるその影は逆光を背に英雄のように声を張り上げた。


「てんちょー! 臨時ボーナス、よろしくっす!」

スコリィだ。彼女の長い腕に俺は軽々と抱えられていた。


「ああ。特大のボーナスにしてやるよ」

かっこつけて返事をする。両脇にしっかりとスイカを抱えたまま、彼女のくしゃっとした笑顔を見つめる。

――お姫様抱っこされたまま。……なんだこの構図。


***

『失格! 競技者が召喚獣に使われるのは失格です!』

衝撃のアナウンスが響き渡る。


俺とガディ、スコリィは、もぐもぐスイカを食いながら顔を上げる。魔法のスイカのくせに、めちゃくちゃ甘い。


「おい、どういうことだよ!」

ガディが声を荒げる。


『えー、運営も混乱してまして……参加者が召喚獣に使われるのは前例がなくてですね。あくまで“競技者が召喚獣をサポートさせる”競技なんです。アイデアは斬新でしたが、逆はアウトでして……』


俺はまた、狐面の少女の声を思い出して叫ぶ。

「疑え! 人と召喚獣に何の違いがある!」


『え? えー……もう決定しましたので……。召喚獣同士ならともかく、競技者が使われるのは失格です!』


……召喚獣同士ならともかく?

その言葉で、俺はひらめいた。

「なあ、今まで黙ってたけど――俺は、スコリィに召喚されたヒト族の召喚獣だ! さっきの行動もセーフだろ?」


スコリィが目を丸くしてこちらを見つめ、ぽかんと口を開けて……そのままスイカにかぶりつく。いや食うのやめろよ。しかも種飛ばすな。


『ちょ、ちょっと待ってください。一旦協議を……え? はい、今確認取れました! それならオッケーだそうです! 先ほどの失格は無効、レース続行可能です!』


満足した俺は座り込んで、スイカの残りを食べ始める。一人で6分の1カット食べればいいようだ。それなら一つでよかったじゃん。……また、売るか。


スイカを食べ終え、俺はスコリィに言う。

「ということだ、スコリィ。これからは力を合わせていくぞ!」


「そんなにコロッケ定食、気に入ったんすか?」


「違う。転生者の掟だ、やるからには全力だ! ……コロッケは気に入ったのは事実だけどな」


その言葉にガディが声を上げる。

「その心意気、気に入ったぜ、クタニ! 俺たちはこれからスコリィの召喚獣だ!」


「よくわかんないっすけど、やるからにはやるっす!」

三人で腕を振り上げる。


……でも、実は、腕を振り上げながらも言えなかった。

本当は――食堂の美人女将、アツミさんに会う口実を作るためだなんて。


本心を悟られないよう俺は無理やり声を張る。

「いいぞ、この勢いで突っ走るぞ!」

……半ケツに、さわやかな風を受けつつ。

魔法のスイカにした理由は、模様が海藻っぽいからです。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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