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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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水の精霊ガディはプールでテンション上がってイケメンになる

【あらすじ】魔法学校夏至祭の召喚物競争(4つの召喚された障害を乗り越えていくトライアスロン)に出ることになったクタニとガディ。第2エリアまではクリアしたようだが……。

――第三エリアは、巨大なプールだった。


『さあ、注目の転生者、なんと第三エリアに到達! そして次は水のエリア! 水属性の召喚獣とは相性が良さそうだ!』


縦に200メートルもありそうなプールが3つも続いている。

スコリィをはじめ、最初のエリアを渡ったところで先頭集団が立ち往生している。


プールとはいってもその深さはまったく見えないほどの深さであり、不気味な影が水中にうごめいているの見える。


「ワタクシ、やっちゃっていいですか……。てかやるからな、クタニ! 来い!」

水の魔物と目が合ったガディは目の色が暗黒に染まり、二重人格の戦闘モードに入る。


ガディが水の上を当然のように駆け出したとき、ナレーションの注意が入る。


『水の上を飛び越えるのは禁止です! 泳いで渡ってください! もちろん、水の召喚獣の攻撃をすべてよけたり倒したりしながら、進んでくださいね!』


「ぶっ倒してもいいんだな!?」ガディが挑発するようにナレーションに問う。


『もちろんです! 倒してもすぐに復活するタイプの召喚獣です! ていうか性格変わってません!?』


「何言ってんだ? みんなそうだろうが! もういい、いくぞ、クタニ!」

ガディはやっぱり戦闘になると誰もが性格変わると思っているらしい。


「ちょ、まだ準備体操が……」

「つべこべ言ってんじゃねー! 普通に泳げ! すべての攻撃を防いでやるぜ!」


背中を押されて、水に飛び込む。

〈バッシャーン!〉

仕方なく俺は泳ぎ……始めなかった。


「ぶほっ! ゲホゲホ……!」


俺は慌ててプールサイドから上がる。

「おい、お前、まさか……」

ガディが驚愕と失望の目でこちらをみる。


「そう……。転生したときに呪いを受けたカナヅチ人間さ」

「泳げねーなら最初に言えよ!」


「そんな暇なかっただろっ……!」

まあ、かっこつけて準備運動してたけど。


すかさずナレーションが入る。

『なんと! まさか泳げない選手がいたー! 魔法学校では必修ですが、転生者は泳げないのか!? これはピンチ! ここでリタイアか!?』


ガディがすぐに反論する。

「ンなわけねえだろ! ここでぶっちぎるぜ! おい背中に乗れ!」

彼女は背中に丸い水座布団のようなものを生成し、俺に乗るように促す。


気付けば、ガディの下半身は完全に人魚モード。しかも俺は、水座布団の上で正座。

……いやこれ、どんなプレイだよ。

『カナヅチ転生者、召喚獣の背中に乗った! これはオーケーです! というか本来の召喚物競走はこんな感じです!』


上機嫌なナレーション。

てかカナヅチ転生者っていうな。

ガディが息を整えながら俺に言う。


「おい、しっかりつかまってろよ」

「え? まさか……」

彼女の周囲に青い魔法陣が広がり、周囲の水が泡立つ。腹をくくった俺はできる限り身を低くし、土下座するようにガディの背中にしがみつく。


その瞬間――。

〈ドォォォーー!〉

超加速スタート。


ガディは迫ってくる魔物に攻撃しつつ、ものすごい勢いで水面を進んでいく。


「おらオラオラー!」

『素晴らしい推進力! これはドルフィンキック泳法! 魔力はすべて召喚獣への攻撃に使い、泳ぎはまさかの自力です! さすが水属性の召喚獣! いったい、彼女は何者だー!?』


ほんの数秒で最初のエリアを渡り切る。俺は止まった勢いでプールサイドの地面に投げ出される。

〈ズザァーー!〉

さいわい、ふかふかの芝生になっていて、ケガをすることはなかった。


ガディが近づいて二ッと笑う。

「楽勝だったな。ほら、息整えたら次行くぞ」

……イケメンだ。


彼女は俺の手を引いて、ベンチまで連れていく。

その手はひんやりと冷たく、だけどなぜか温もりもあって、不思議と前向きな気分になった。


――残り3時間30分。


***

『さあ次は魔法麻痺水プールです! どんな猛者でもちょっと触れただけで20秒で麻痺してしまう魔法の水です! 水深10メートルにある魔法のスイカを食べれば無効化されます!』

(いや、スイカかよ!? ていうか20秒で麻痺ってやりすぎだろ)


プールサイドには救護チームがズラリ。さらに“麻痺治療薬”とでかでか書かれた箱が山積みされている。


……ここで一気に脱落者を量産する気か。


奥のベンチで休んでいたスコリィが、ため息まじりにこっちへ。

「麻痺水に潜るの、正直苦手っす。目開けてると、すぐぼやけるし」

いや、そんなの得意なやついるわけねーだろ。


「まあ、なんか策を考えるしかないな」


そう返すと、ガディも憎たらしそうに水面をにらむ。

「ち、俺も浸透圧のせいで普通の奴より早く麻痺るかもしれねえ」

……浸透圧って関係あるのか? その皮膚、浸透膜なの?


プールサイドに近寄って、透明度の高い水を覗き込む。確かに、10メートルほどの水の底にスイカが見える。


『誰も動かない! 今回は全員ここで脱落か!? 今年は大したことないのか?』


いや、競技バランス間違ってるだろ。

ていうかそんな下手なあおりに乗るやつなんていないだろ。冷静に攻略法を考えなければ。

「てんちょー! あんなこと言われて黙ってられないっす! アタシ、一か八かやってみるっす!」

ここにいた。


「おい、それ、ただの煽りだぞ。乗るなよ」

「え、そうなんすか……」

振り上げた拳をそっと下ろして、ストンと座り込むスコリィ。


……こいつ本当に優等生だったのか?


ベンチで作戦を考えていると、ガディが急に拳を打ち鳴らす。

「おい、クタニ! ひらめいたぜ。デカいヘルメットを二つ作れ!」

悪ガキみたいな笑みを浮かべて、日の光の中で不敵に胸を張るガディ――水の精霊は、本気モードのようだった。

ちなみに泳げないのはしっかりとした理由があります。



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