「すべての者の正体はその習慣である」……いつの間にかスローライフができていない
【あらすじ】魔法学校夏至祭の召喚物競走に種t上するこちになったクタニとガディ。狐面の少女は消え、たまに一人になったクタニを応援するが、その目的は……?
砂場の土。俺は燃えてしまったズボンの穴を気にせず、尻を半分出したまましゃがみ込み、砂を寄せ集める。
「ガディ、少し水を足してくれ」
「え? あ、はい。……これでいいですか?」
『おっと転生者のクタニ選手、砂遊びを始めた! レース途中で砂遊び、前代未聞! レース放棄か!?』
……ナレーションを無視して、黙々と手を動かす。
「……できた! さあかぶれ!」
俺は小瓶を立てたヘルメットが焼き上がったのを確認し、ガディに渡す。
『……いや、あれは、小瓶を頭に固定できるヘルメットだー! すばらしい! あれなら暴風でも小瓶がデザインはちょっと不気味だが、人の好みに文句を言ってはいけないでしょう!」
ナレーションが混乱気味に俺の様子を実況する。そう、ヘルメットはハニワ風にしておいた。
「わあ、ありがとうございます。……ってどうしてこんなデザインなんですか……?」
「趣味だ」
「……ですよね」
意気揚々と俺は土器ヘルメットをかぶる。
あきらめたガディも頭にハニワ風のヘルメットをかぶり、ロープを渡り始めた。頭の小瓶は暴風にもびくともしない。
『それにしても創造魔法とは珍しい! 人は見かけによりません!』
ナレーションに得意になった俺は、……あっさり油断した。
〈ズルッ〉
縄から足を滑らせる。
「あぶない!」
ガディの叫び声。
〈ポヨン〉
ガディの魔法の水のクッションで地面に落ちずにすんでロープにしがみつく。
「ウッ」
尻を半分出したまま、俺はなんとか渡りきる。
『きれいに固定していたのか、ロープにしがみついたまま瓶も落とさずに渡りきったー! 面白い! 今年の召喚物競走はいろんな意味で面白くなりそうだ-!』
妙にテンションの高いナレーションの声を聞きながら、俺らは第二エリアの出口にある台の上にヘルメットをおいた。
すると、その瞬間、ほかの生徒たちが近づいてきた。
「おい、それを売ってくれ!」「俺もだ!」「ツケ払いでいいならオレも!」
ナレーションが口を挟む。
『なんと、障害物競走で取引が始まった! これはありです! 社会の交渉を知るにはいい機会です! アダムン理事長も推奨しています!』
金髪オールバックのイケメンくんが俺に熱心に頼み込む。
「俺たちは本当にすごい魔法が使えるんだ。偶然、この固定魔法が使えないだけで……」
「どうしようか。……売るのもありだな。だけどこの人数に売っていると、かなりレースが遅れるぞ」
一部の生徒たちは先に行ってしまった。残りの生徒に作って売っていたら、時間のロスが大きい。
「店長さん、雑貨屋の宣伝もしたいんでしょう? ありなんじゃないですか?」
時間のロスに興味のない様子のガディが背中を押す。
「よし、お前らツケ払いだ! レースの後で払えよ!」
残った学生たちが歓声を上げる。
『商談成立! しかもツケ払い! 吉と出るか凶と出るか! にしても、ケツを出してツケ払い! お後はよろしいようです!』
……うまいこと言ってんじゃねーよ。
***
俺は全員分のヘルメットを即興で作り、一斉に配る。
「こちらが走って、100秒後に渡れよ!」
「ああ、失格になるよりマシだ」
学生たちは案外素直に承諾して、俺とガディは走り出した。
残り約4時間10分。
***
エリアは、全部で4つあるらしい。
4つの召喚障害エリアを越え、最後のロングランで、空からの攻撃を防ぎながらゴールまでたどり着けばゴールらしい。
……魔法学校版の障害物競走というかトライアスロンだな。
「お前、あんな下らないスキルだけ残して転生してきたのか? 信じられん……」
相変わらず、徒競走になると狐面の少女が近づいてくる。
ガディはちょっと先を行っているから気がついていないようだ。
「さっきから、何を言っているんです? 俺は自分の意思でこのスキルを選んだわけじゃないですよ」
「ふん、お前、いつも土をこねているだろう?」
「そりゃそうですよ。商品を作らないと売れませんからね」
「すべての者の正体は、その習慣である」
「……え?」
哲学めいた言葉に俺は、一瞬だけ真剣な目になって、軽やかに走る彼女を見つめる。
長い黒髪が風に揺れている。狐面は相変わらず不気味ではあったが、どこかこちらに哀しみを向けているようでもあった。
「つまり、お前がその習慣を選んだから、そのスキルが顕現したんだ」
「スキルって、焼き上げスキルですか?」
「そうだ。……あらかた、焼き物でも作って隠居する予定だったのだろう?」
(そういえばそうだ。焼き物作りながらスローライフする予定だったんだ。何で今、魔法学校で走ってるんだ……?)
「あ、当たってますが、とにかく俺はこの競争で雑貨屋を宣伝して、売り上げを伸ばすんですよ!」
ハニワのヘルメットを指さして俺は進む。
「すべては豊かな隠居生活のためとでも言いたげだな」
「……そ、そうです! 隠居ではなくスローライフですが」
ささやかに反論すると、嘲笑するような声がかえってきた。
「それはそれは忙しそうなスローライフだ。こんなところまできて宣伝して売り上げを伸ばそうとするなんて」
何もかもを見透かしたような声を出した彼女は、またフッと煙のように消えていった。
俺は何も言い返せず走り続ける。
(そういえば最近、売り上げを伸ばすことに躍起になっているな……)
もやもやと考えていたらいつの間にか、第三エリアに来ていた。
残り3時間50分。
ちょっと遅れてきているので、更新しました。
うーん、小説を習慣ににして夢の印税生活をしてみたいんですが。
自分で書いて耳が痛い……。
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




