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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
151/198

「すべての者の正体はその習慣である」……いつの間にかスローライフができていない

【あらすじ】魔法学校夏至祭の召喚物競走に種t上するこちになったクタニとガディ。狐面の少女は消え、たまに一人になったクタニを応援するが、その目的は……?

砂場の土。俺は燃えてしまったズボンの穴を気にせず、尻を半分出したまましゃがみ込み、砂を寄せ集める。

「ガディ、少し水を足してくれ」

「え? あ、はい。……これでいいですか?」


『おっと転生者のクタニ選手、砂遊びを始めた! レース途中で砂遊び、前代未聞! レース放棄か!?』


……ナレーションを無視して、黙々と手を動かす。


「……できた! さあかぶれ!」

俺は小瓶を立てたヘルメットが焼き上がったのを確認し、ガディに渡す。


『……いや、あれは、小瓶を頭に固定できるヘルメットだー! すばらしい! あれなら暴風でも小瓶がデザインはちょっと不気味だが、人の好みに文句を言ってはいけないでしょう!」


ナレーションが混乱気味に俺の様子を実況する。そう、ヘルメットはハニワ風にしておいた。


「わあ、ありがとうございます。……ってどうしてこんなデザインなんですか……?」

「趣味だ」

「……ですよね」

意気揚々と俺は土器ヘルメットをかぶる。

あきらめたガディも頭にハニワ風のヘルメットをかぶり、ロープを渡り始めた。頭の小瓶は暴風にもびくともしない。


『それにしても創造魔法とは珍しい! 人は見かけによりません!』

ナレーションに得意になった俺は、……あっさり油断した。

〈ズルッ〉


縄から足を滑らせる。

「あぶない!」

ガディの叫び声。


〈ポヨン〉


ガディの魔法の水のクッションで地面に落ちずにすんでロープにしがみつく。

「ウッ」

尻を半分出したまま、俺はなんとか渡りきる。


『きれいに固定していたのか、ロープにしがみついたまま瓶も落とさずに渡りきったー! 面白い! 今年の召喚物競走はいろんな意味で面白くなりそうだ-!』


妙にテンションの高いナレーションの声を聞きながら、俺らは第二エリアの出口にある台の上にヘルメットをおいた。


すると、その瞬間、ほかの生徒たちが近づいてきた。

「おい、それを売ってくれ!」「俺もだ!」「ツケ払いでいいならオレも!」

ナレーションが口を挟む。


『なんと、障害物競走で取引が始まった! これはありです! 社会の交渉を知るにはいい機会です! アダムン理事長も推奨しています!』


金髪オールバックのイケメンくんが俺に熱心に頼み込む。

「俺たちは本当にすごい魔法が使えるんだ。偶然、この固定魔法が使えないだけで……」


「どうしようか。……売るのもありだな。だけどこの人数に売っていると、かなりレースが遅れるぞ」

一部の生徒たちは先に行ってしまった。残りの生徒に作って売っていたら、時間のロスが大きい。


「店長さん、雑貨屋の宣伝もしたいんでしょう? ありなんじゃないですか?」

時間のロスに興味のない様子のガディが背中を押す。


「よし、お前らツケ払いだ! レースの後で払えよ!」

残った学生たちが歓声を上げる。


『商談成立! しかもツケ払い! 吉と出るか凶と出るか! にしても、ケツを出してツケ払い! お後はよろしいようです!』

……うまいこと言ってんじゃねーよ。


***

俺は全員分のヘルメットを即興で作り、一斉に配る。

「こちらが走って、100秒後に渡れよ!」

「ああ、失格になるよりマシだ」


学生たちは案外素直に承諾して、俺とガディは走り出した。

残り約4時間10分。


***

エリアは、全部で4つあるらしい。

4つの召喚障害エリアを越え、最後のロングランで、空からの攻撃を防ぎながらゴールまでたどり着けばゴールらしい。

……魔法学校版の障害物競走というかトライアスロンだな。


「お前、あんな下らないスキルだけ残して転生してきたのか? 信じられん……」

相変わらず、徒競走になると狐面の少女が近づいてくる。


ガディはちょっと先を行っているから気がついていないようだ。


「さっきから、何を言っているんです? 俺は自分の意思でこのスキルを選んだわけじゃないですよ」


「ふん、お前、いつも土をこねているだろう?」


「そりゃそうですよ。商品を作らないと売れませんからね」


「すべての者の正体は、その習慣である」


「……え?」


哲学めいた言葉に俺は、一瞬だけ真剣な目になって、軽やかに走る彼女を見つめる。


長い黒髪が風に揺れている。狐面は相変わらず不気味ではあったが、どこかこちらに哀しみを向けているようでもあった。


「つまり、お前がその習慣を選んだから、そのスキルが顕現したんだ」


「スキルって、焼き上げスキルですか?」


「そうだ。……あらかた、焼き物でも作って隠居する予定だったのだろう?」


(そういえばそうだ。焼き物作りながらスローライフする予定だったんだ。何で今、魔法学校で走ってるんだ……?)


「あ、当たってますが、とにかく俺はこの競争で雑貨屋を宣伝して、売り上げを伸ばすんですよ!」

ハニワのヘルメットを指さして俺は進む。


「すべては豊かな隠居生活のためとでも言いたげだな」

「……そ、そうです! 隠居ではなくスローライフですが」


ささやかに反論すると、嘲笑するような声がかえってきた。

「それはそれは忙しそうなスローライフだ。こんなところまできて宣伝して売り上げを伸ばそうとするなんて」


何もかもを見透かしたような声を出した彼女は、またフッと煙のように消えていった。

俺は何も言い返せず走り続ける。


(そういえば最近、売り上げを伸ばすことに躍起になっているな……)


もやもやと考えていたらいつの間にか、第三エリアに来ていた。

残り3時間50分。

ちょっと遅れてきているので、更新しました。

うーん、小説を習慣ににして夢の印税生活をしてみたいんですが。

自分で書いて耳が痛い……。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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