「世界の疑い方を教えてやる」黒のハイソックスはそう言った
【あらすじ】魔法学校夏至祭。ノートの中の過去の世界に飛ばされてしまったクタニ。不気味な二つの月を食うヒュームンの様子を体験するが……。
目が覚めると、俺は汗だくで教室の机に突っ伏していた。
他には誰もいない。
そして不気味なことに、時計の針は一分も進んでいなかった。
何も起きていなかったようで、何もかもが変わってしまった気がした。
そっと、ノートを読み進める。
俺が体験したようなことが書かれていて、最後のページ。
(……!!!)
衝撃の事実。
『やっほー! 懐疑の過去世界魔法、楽しんでくれたかな? ほとんどウソだけど、ちょっと真実! 魂の兄弟よ、楽しんでくれたら幸いです☆ D.H.』
「作り話だったんかいっ!」
俺はノートをたたきつける。
裏表紙には魔法陣とヒュームンさんのサイン。
「はあ、むなしい……」
――暑苦しい教室。
静かな異空間。
窓枠に切り取られた青い空に白い雲。
教室の外の楽しそうな喧騒。
一瞬、世界が遠くなり、どこかで鳥の羽ばたきが聞こえた。
(まってくれ、おいていかないでくれ……)
とっさにそう思ったとき、俺は。
世界の重みを背負ったような、そんな重圧を頭の後ろに感じた。
外に出ろ。
きっと、受け入れてもらえる。
なんたって今日は祭りだ。
世界は遠く、口の中が妙に乾く。
楽しそうな笑い声がガラスの向こうに反響している。
一人は、だめだ。
この感覚は知っている。
だめだ。
はやく、変えないと。
みんないなくなってしまう。
気が付くと俺は、……ガディにもらった水筒のふたを開けていた。
***
〈キュッポンッ〉
「出ましたか!? 概念の怪物が! ……ん?」
臨戦態勢で出てきたガディ。
強力な水魔法を扱える、妖艶な美貌と神秘的な雰囲気をもつ水の精霊。雑貨屋の看板娘。
彼女はすぐに、空き教室に敵がいないことに気が付く。
俺の前に立ってジト目で言う。
「あの……店長さん?」
「ピンチだったんだ……。心が」
俺は居直ってガディを見つめる。
「子どもですか!?」
「心はいつでも少年さ!」
俺は胸を張って彼女から目をそらす。
ただ、彼女の反論が来る前に意外なところから声がした。
「いいことを言うじゃないか!」
教室の入り口でそう言ったのは美しい脚線美の黒のハイソックス、いかにも優等生のような美少女……らしき人物。顔の上半分は狐面で隠され、小さな薄い唇がのぞいている。
「キミは、懐疑世界の最後に出てきた……!」
黒いハイソックスを見ながら俺が言う。美しい脚線美。
狐のお面をかわいらしく傾げた少女は、滑らかにバレリーナのように回転し、魔法学校のブレザーとプリーツのスカートをひらりと揺らめかせる。
「そうだ。ついてこい、クタニ。世界の疑い方を教えてやる」
少女はそう言って、妖精が誘うように俺達を炎天下の外へ連れ出した。
なんかアクセス伸びたんで、書きためてたの置いておきます!
お楽しみください!
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




