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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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時をかけるおっさんと天才魔法使いのいたずら

【あらすじ】魔法学校の夏至祭。メンバーとはぐれて、古本屋ヒュームンにノートをわたされ、教室で読み始めたクタニ。しかし、次の瞬間、違う時間軸に飛ばされていて……。

静寂は怖い


――そんなことはない


静かな環境は,好きだ


静寂の中ですっと座って


みんなは騒いでいれば幸いだ


ぼくは、静かに座っていれば幸いだ


世界の声を聞けるのだから


そう 失われてしまった声さえも


***

――ここは、過去の魔法学校の教室。


「はい、じゃあ、頭に瓶を立てて固定する魔法いってみよう」

丸メガネで白衣を着た教師が言う。

(どんな魔法だよ!)


俺の心のツッコミは声にならない。だけど、渡される小瓶。

瓶の形はほとんどひし形で、とても立つようには見えない。


皆が頭の上に立てる中、俺は固まって動けなくなってしまう。

(夢の中で魔法学校の授業を受けることになるなんて)


俺は瓶をじっと眺める。

周りの生徒が「やった!!」「できた!」と喜んでいる中、できるできないではなく、やる意思がわいてこない。

頭の上に小瓶をのせた優等生っぽい男子生徒がよってくる。


「天才はこんな魔法したくもないのかな?」

したいと思う方がどうかと思うが。


(天才? てことはノートの持ち主の追体験をしているのか?)


「いや、彼にこんな初歩的な魔法の課題を出した私にも非がある。そうだろう? ヒュームン?」


(って、やっぱりあの怪しいじいさんの若い頃か。何が幻の天才だ。自画自賛か)


「彼には、物質変化の魔法をやってもらおう」


教室内の空気が緊迫する。


「物質変化?」

「卒業レベルだぞ?」

「さすがに天才でも」

さらに教室内がざわつく。


「その瓶の中、ただの水が入っているが、レモン水に変えてもらおうか」

白衣の教師がにやにやしながら近寄ってくる。

(けっこう微妙な変化を指示してきたぞ!?)


「いえ、もっとすごい薬にしてあげますよ」

俺はすぐさまはったりを思いつき、小瓶に手をかざす。


(異世界で雑貨屋をやってこのスキルばかり育った気がするなあ)


土をこねるように、瓶をこねくりまわす

「なんだあの動きは」

「見たこともない動きだ」

周囲に集まった生徒たちが動揺する。


「はい、できました」

見た目に変化はないが、俺はあくまで自信ありげに振る舞った。


「できた、のか?」

「……ええ、信じるか信じないかは、みなさん次第ですがね」


そういって俺は意味ありげに笑って、そっと教室を出た。

次の瞬間、終業音っぽいチャイムがなった。


***

「で、屋上に来たけど、どうすればいいんだ、これから……」


名門学校の屋上。それは天才が授業をサボって休む場所。

「ふつうこういう体験って、自動で本人が動くものじゃないの? 何で動けるんだよ、俺は……」


始業のチャイムを聞き流しながら屋上の手すりから下を見下ろす。北の広場が見える。元の時間軸でタケノコモンスターが暴れた場所だ。


「いい眺めだ」

思わず独り言をつぶやく。


「なんだ、お前も来ていたのか」

ドアを開けてやってきたのは、どこか見知った顔。


「……アダムンさん?」

それは白ひげのない理事長、アダムンさんにみえた。


「さん? さん付けで呼ばれる覚えは……、いや、違う者が中に入っているな?」

理解はや。

「そうです。俺は、ヒュームンさんのノートを見ていたら、この時空に飛ばされてしまったクタニという者です。」

ネット小説を読みまくって知っている。

――こういうタイムリープものはしっかりと最初に伝えるのがいい。


「ノートを見て? にわかには信じられんが……あいつならやりかねない。にしてもクタニどの、将来のワシと面識が?」

さすが将来の理事長。飲み込みがはやい。


「まあなんと言いますか、縁あって、あなたのご高齢の時代に知り合いになりましたよ」

「なるほど。そこで縁ができて……、ノートに……。……いや無理があるだろ」


「とにかく移動してしまったのは事実なので……」


「時間が来れば、……と気軽に言ってしまえないのが……」


二人してあごに手を当ててウーンウーンと考え出す。


そのとき――。

〈グゥゥゥ〉

俺の腹が鳴る。


「はっはは。腹が減っては戦はできぬ。クタニどの、少し早いが食堂で飯にもしよう」


***

「あらこんにちは。天才の二人組。サボり?」

「!」

その声に驚き顔を向けると、食堂でご飯を作っているのは若女将のアツミさんだった。


……時間が戻ったことを忘れるほど、元の時間軸で慣れ親しんだ美貌がそのまま目の前にある。

……もう、驚くのはやめよう。


「偉大なる作戦会議ですよ」

軽く言った俺の言葉に、なぜか隣にいるアダムンさんが驚いた顔になる。


「……!」

「どうかしました?」

「いや、なんでもない。注文はコロッケ定食でいいかな?」


「好物なんですよね。はい、喜んで」

「コロッケ定食二つね! すぐにできるから待ってて!」


「……そういうところまで話しているとは。クタニどのは未来の私によほど信頼されているようだ」

「ただの好物ですよ?」


「そう、ただの好物じゃ。しかし、魔法を使う者は信頼した者にしか好みは言わないものじゃ」


「なるほど」

ほとんどのメンバーの好物知ってるけど、時代によって変わる価値観なのかな?


「はい、コロッケ定食二つ! ちょっとサービスしといたわ」

「ありがとうございます」

「ありがとう」


俺たちはお盆を受け取って、近くのテーブルに持って行く。


「すまん、クタニくん、あいつは昔からいたずら好きで」アダムンさんは定食のスープをゆっくり味わいながら言う。

「天才にありがちな感じですね……。俺は彼の古本市でノートを受け取っただけなのですが」俺もスープを一口。


(ああ、俺が洗うのを手伝った同じハーブの香りがする)


時代が変わっても、ハーブの香りは変わらないんだ。


「あいつが古本市ねえ。にしても、完全に罠だな」

コロッケを口に放り込みながら、アダムンさんが言う。


「今思うとそうですね……。うかつでした」

俺は猫舌なので、コロッケを小さくかじりながら言う。


「いや、そんな魔法があるなんて普通は思わん。あいつに目をつけられた時点で、ほとんどの者は終わりだ」

「ははは、魔王みたいですね」


「魔王よりたちが悪い」

「いやいや、それは言い過ぎですよ」


「ふん、あいつのことだ。きっと私がクタニ殿に協力して困るのを想定していたに違いない」

「そんなまさか……」

しかし、俺の言葉を遮るように、何かのうめき声が聞こえた。


〈グォォォオォ!〉


外から不吉な獣の鳴き声が聞こえてきた。


「……あいつは、これも知っていて、クタニ殿をここに放り込んだんだ」

定食の残りをすべて口の中に詰め込み、静かに立ち上がった将来の理事長は、もはや大魔法使いの風格だった。

若き日の魔法使いっていいですよね。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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