幻の天才の青春の夢ノート
【あらすじ】魔法学校夏至祭。ゲストとして呼ばれたクタニ、ルルドナ(小型サイズになって胸ポケットで寝ている)、スコリィ、イゴラくん(ライムチャートちゃんと交代、祭りを見ている)。クタニは一人で学校をさまよって、ヒュームンという怪しい老人からノートを受け取ったが……。
あまりに強い日差し。
ヒュームンさんから受け取ったノートで日差しを遮りつつ、校舎の中に避難する。
――休憩所と書かれた空き教室。
俺はそこでしばらく涼をとることにした。
暇だからもらったノートでも読もうとする。
「ていうか、異世界の魔法ノートなんて俺に読めるのか……?」
この異世界は自動翻訳してくれるから読めるのは読めるけど、魔法の授業のノートなんて読めても理解できないだろう。
しかしそれは、……ノートではなかった。
「こ、これは……!」
妙に角張った文字、一ページ一ページにまとまった文章。
『○月×日 晴……今日も食堂のコロッケが美味……』
思わず、俺はノートをたたきつける。
「日記じゃねえか!」
人の日記を読んで楽しむ趣味はないので、そのまま椅子を引いて座る。
その教室で俺は、遠くに学生の楽しそうな喧騒を聞く。
誰もいない教室。
誰もいない教室は、よく知っているが、俺は……。
「何か懐かしいような……」
この教室を知ってるわけがない。
わけがないのに、一番後ろの窓際の席。
とても懐かしい――。
「んなわけないか。ネット小説の読み過ぎだ」
自分に言い聞かせつつ、その席に移動して休憩をする。
遠くに喧噪。歓声。
楽しいはずの祭り。全く心は躍らない。
あまりに暇で、日記を読んでみる。天才の日記はもしかしたら商売のヒントになるかもしれない。
『○月×日、晴、――ただしオレの心は曇り』
(ずいぶんひねくれた奴の日記のようだな)
『オレの魔法制度理論は完璧だ。オレの意見に従えば、この世界はすぐに平和になる。だけど、まあ知っている。誰もオレの意見なんてきいてはくれない』
(天才って一緒なんだな。文字も俺と同じで角張っているし)
まるで自分が天才になった気分で読んでしまう。
『○月△日 雨 ――オレの心と同じ。今日は面白い魔法を使った。校長すら使えない大魔法だ。ただ、反動でしばらくは動けない。三日間ずっと雨になる魔法。そう、これでマラソン大会は中止だ』
(くだらないところが共感持てる天才だな……)
そういいつつ、俺は大きなあくびをする。
やはり昨日の疲れが……。
なぜか眠気と戦いながら日記を読み進める。
『◇月○日 曇り――同じ。禁断の魔法の封印を解いてしまった。なんてことをしてしまったんだ。ああ、だめだ。もうおしまいだ。この世界から、月が消える』
(何言ってるんだ、こいつ。月は今だってあるのに)
『◇月△日 曇りのち雨――同じ。学校中に知られた。封印を解いたことを。世界が変わってしまったことに気がつく。オレは悪くない。世界が悪いんだ。オレの意見を聞かないから』
『◇月□日 闇――同じ。禁断の魔法のせいで、夜が明けなかった。月が消え、この星は太陽からも離れる。
闇がずっと続くだろう。幸い、魔法灯があるから明るい生活をできているが』
そこで日記は途切れていた。
休憩用の教室の片隅。夏至祭はまだ始まったばかりで、休む者は誰もいない。
というか特別ゲストなのに、一人でいったい何をやっているのだろう。
同じく特別ゲストのルルドナを見るが、小指サイズになって胸ポケットでスヤスヤと寝ていた。
「どんな夢をみているのやら」
思わず口元がほころぶ。
しかし、自分の言葉に大きく動揺する。
――夢?
そうだ、夢だ。
見たことあるんだ。夢で。
この教室で、夢を。
この教室で、夢を――。
***
俺はよく連続した夢を見る。
それはアニメやドラマみたいにだんだん更新されていく。
毎晩毎晩更新されるから、毎日夢を見るのが楽しみだった。
――その夢の一つは、この教室での夢だった。
確証はない。だけど、何となくそうだという気がする。
(懐かしい……この感覚は……)
気がつけば夢は広がって、――俺はその続きに放り込まれた。
窓の外に大きな二つの月。その後ろに真っ黒な宇宙。
二つの月が、にらむようにこちらを見ている。
「――え?」
魔法学校の制服を着た俺は、教室で、授業を受けていた。
制服の袖をつまむ。ちゃんとした手触り――リアルな感触だった。
まさかの、ノートの中に入り込む展開です。
いや、夢の中か。どちらにしろ、別次元の体験をするようです。




