祭りの喧噪と古本屋ヒュームンの怪しいノート
【あらすじ】魔法学校夏至祭。クタニとミントンがイスに座っていて、召喚演舞が終わったところ。
『学生のみなさん! 次の演目は最大イベント『召喚物競走』です! 南の大運動場に集合してください!』
その放送の直後、隣に座るミントンさんが目覚めた。
〈パチンっ!〉
彼女の純白のハナチョウチンが割れる。その目がうっすらと開かれる。
音に気がついた周囲の生徒が何人かこちらを見る。
俺はあわてて手をたたく。
〈パチンッパチンッ!〉
「いやあ、拍手の練習は大変だなあ!」
「何やっているんですか、クタニさん」
……。
「新しい扉に感謝の柏手をしていたんですよ……!」
幸い、デメテル様とペルセポネーちゃん、ライムチャートちゃんは祭りの屋台巡りに立ち去った後だった。
銀縁めがねをくいっとあげてミントンさんが注意してくる。
「ほかの生徒から注目されるような行動は控えてください」
純白のハナチョウチンをしていた人に言われたくなかったが、反論はやめておいた。
「ともかく、召喚演舞は無事に終わったようですので、私はここの機材を回収し、理事長室に戻ります」
さっと立ち上がって行ってしまうミントンさん。
おもいきり寝ていたくせにみじんも臆さない態度にむしろ感心する。
……ポツン。
またしても一人になってしまった。
俺は人の波に流されるままに、南の会場へ向かうことにした。
(異世界にきてまで流される人生にはなりたくない)
いやここで列からはみ出しても流されないことにはならない。俺は素直に流れにあわせて歩くことにした。
(まあ、召喚演舞に出場するって言ってたスコリィになら会えるだろう)
すっかり普段していた。自分が流れに従うことが苦手なことを。
***
「いや、ここどこ?」
いつの間にか、俺は地味な露店の並ぶエリアにきていた。
「まさか、あの大勢の人の流れからも外れてしまうなんて……」
時計を見る。10時半。
「そうか。それぞれ露店を見て回って、11時に召喚物競争とやらに行こうと考えていたのか」
見たいものが特にない俺は、遠巻きに露店を見て回る。
この大勢の楽しむ雰囲気は苦手だ。
――もともとは祭りの雰囲気が好きだった。
小さい頃はわくわくしていた。
だけど、小さい頃限定の優しさだった。
体が大きくなってからは、この雰囲気に受け入れられたことがない。
俺なりに努力して混ざろうとしていたけど、結局誰にも受け入れてもらえることはなかった。
何円も祭りの雰囲気に期待して参加してたけど、
ずっと一人で、ずっと孤立して、ずっと孤独だった。
真剣に準備に参加して、遅くまで準備して、それでも当日は一人だった。
結局俺は一人だった。
一人だと自覚させられた。
そうだ。どこかずれている俺は、俺なりに参加しても
どこかずれているから、みんなになじめずに、
孤立するだけだったのだ。
この大勢の楽しむ空間では、特にその孤立を実感する。
〈チリリンッ〉
暑さに負け、日陰に行ったところ、現実に戻すような鈴の音がした。
――いや、今思えばそれこそが幻だったのかもしれない。
「きみ、ワシと同じ深い瞳をしている」
***
気がつくと、『学生の忘れたノート処分市』というふざけた露店の前に来ていた。
店主は丸いモノクルをかけた背の低いおじいさん。
「ワシは100留以上している、最上級生、ヒュームンじゃ。近くで古本屋の副業もしている。キミとはよい友人になれそうだ、よろしくな」
けっこうぐいぐいくるじいさんである。
「100留!? と、とにかくよろしくお願いします」
露店の品を見てみると、使いかけの魔法理論ノート、謎の呪文で埋まった紙切れ、数式だらけのルーズリーフ、見たこともない筆記具……。
「100留もしてると、ノートも道具もどっさりたまるもんじゃ。君もどれかいかがかの?」
「全部あんたのかいっ!」
「ほっほっ。もちろん、ほかの生徒のもある。ワシのノートじゃものたりんなら、これならどうじゃ?」
「世界の秘密と革命魔法ノート? 何ですかこの中二病的なノートは」
「いいかね、疑うことから知識は始まるのだ。それはこの魔法学校で最も偉大かつ最も知られていない、幻の優等生が残したノートじゃ」
「はあ……」
「ここで出会ったのも何かの縁。ただで持って行っていいぞ」
「ありがとう、ございます?」
満足げに俺にノートを譲ったヒュームンというおじいさんは、次にやってきた女子生徒の客に案内を始めた。
暑さにやられていた俺は、とにかく涼しい校舎で休もうと、その場をそっと離れた。
その古びたノートで真実に近づくことになることも知らずに――。
さあ、ようやく本題です!
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




