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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
142/198

召喚演武終了と神様の麦畑

【あらすじ】魔法学校の夏至祭。召喚演武を見学しに来ていたクタニ、ミントン(寝ている)、あとからきたライムチャート、ペルセポネー。そして最後の演武発表で召喚された犬同士の友情劇の結果発表だが……。

〈ピ……ピ……〉

下から、柱に徐々に灯っていく希望の光。


緊迫した会場。

いつの間にか生徒たちは、先ほどのアクシデントなどなかったかのように、元の座席に座っている。


(パラリラ~~!〉


合格音とともに、司会のおじさんがマイクでしゃべりながら出てくる。


「合格合格! もうね、熱い! 最後に熱いのきたね~。しかもネタかぶりをうまく利用して友情! 生まれちゃったよ、友情! おじさんも一緒に祭り行きたいくらいだよ! どこの屋台から行くのかな?」


「……ホットドッグ」

プロキオン・ハチが答える。


それ、狙いすぎだぞ……。司会のおじさん困るだろ……。


「いいね~! 犬の熱い友情は文字通りホットドッグで! あれって犬と関係あるのかな? まあ細かいことはいいや! 最後の組も合格~! おめでと~!」


おじさん、司会うまっ!


感動し拍手をしながらおじさんを見つめていると、戻ってきたライムチャートちゃんはあきれ顔で僕の隣に座った。


「……どうしたんですか? まるで人生で一番の感動シーンを見たような顔してますよ」

「キミの年ではあの司会のすごさはわからないのさ……」


僕が感動の決め声で語りつつ、二匹の犬モンスターとネコさん寮の生徒たちの退場に拍手を送っていると、間髪おかずに、放送が入った。


『では、次はいよいよギリシャ神話異世界からの特別ゲスト! デメテル様の金色の奇跡召喚ショーです!』


舞台から金色の帯のような光が広がる。


拍手をやめた僕は思わずジョッキを用意する。

隣のライムチャートちゃんが首をひねる。

「クタニさん、どうしてそんなもの……」


「勘違いしてるわよ、クタニさん」

ジョッキを掲げている僕に、戻ってきたペルセポネーちゃんがツッコミを入れる。


ライムチャートちゃんの隣に座った彼女に、僕はツッコミを返す。

「いいや、デメテル様なら、きっとやってくれるはず……!」


金の帯の演出魔法に、悠久の時を思わせるような音楽。そのメロディに会場の観客たちは心を緩ませる。


今まで緊張気味だった空気が、和やかになったかと思うと、大きな竪琴を持った女神デメテル様がゆっくりと登場した。

「こんにちは。魔法学校のみなさん。豊穣の女神、デメテルです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

会場が緊張気味に拍手で満たされる。


――緊張。そりゃそうだ。本物の神様が来てくれてるんだから。


「私にはあなたたちのような熱い友情も涙も与えることはできませんが」

「ただ……金の癒しを与えることはできます。さあ、肩の力を抜いて手を組んで祈りのポーズをとってみてください」


〈ポローン〉


金の竪琴を持った彼女は、癒しのメロディを奏でだす。


(あれ、僕の予想、外れる……?)

手に持ったジョッキごと祈りのポーズをとる。


いつの間にか、会場はさわやかな金色の麦畑に包まれていた。

香ばしい、穀物の匂いに満たされる。

濃厚で、濃密な、恵みの穀物の香り。


〈サーッ……〉


一陣の風が吹き抜ける。


まるで神話の時代の原風景を見ているような、そんな気分になる。

会場のだれもがうっとりとその光景に見入る。


竪琴の音が小さくなるとともに、麦畑の光景が消えていく。


静寂が会場を包み込む。

「……この世界は、こんなにも美しいのです。まだ、この世界は間に合います。どうか、この美しさを忘れないよう、立派に生きてください。そして強き者は、戦ってください。それぞれどんな戦いになるかはわかりません。ただ、時が来ればわかります。それまでしっかりと、生きてください」


その言葉に、ふと前世の苦しい記憶がよぎる。

――美しさなんて、ずっと忘れていた。


でも、穏やかな日常を得ていたのに、僕はまた何かと戦わなければならないのか……。


〈ツーッ……〉


なぜか一筋、涙が頬を伝っていた。


そうだ、僕は戦わなければならないのだ。

でも、転生してまで、何と戦えというのだ。

スローライフをするって決めたのに。

まだ何かをしなくちゃいけないのか。


涙も気にせず呆然としていると、デメテル様が一瞬こちらを見た。


そして会場に向かってジョッキを掲げる。

「それでは最後に皆様のお手元に祝福を」


いつの間にか、生徒たちの手にジョッキが握られていた。


金の魔法陣がそれぞれのジョッキの底についている。

僕のオリジナルジョッキにも魔方陣の光。


「ま、まさか……」


なんとビールは底のほうから渦を巻くように湧き上がってきた。


――渦巻くビール! トルネード!


驚きと感動で僕の手が震える。


デメテル様が立ち上がり、声を張る。


「今年もたくさんの麦が実るでしょう! ぜひおいしいビールを!」


〈ワアァァァー!〉


デメテル様がビールを一気飲みすると、生徒たちも歓声を上げながらそれに続く。

飲み干した瞬間またビールがわいてくる。


『さあ、みなさん! ビールは五杯まで自動でわいてくるそうです! ギリシャ神話異世界のデメテル様に、もう一度大きな拍手を!』


「僕の勝ちだな!」

ペルセポネーちゃんに勝ち誇った顔を向ける。


憎まれ口をたたくと思ったけど、彼女は僕から目をそらす。


ていうか、朝っぱらからビールなんて飲んでいいのだろうか。

特に僕は魔力耐性がないから昨日倒れたんだよなあ。


二杯目を躊躇していると、会場から降りてきたデメテル様が僕に笑顔で言う。

「それ、ノンアルコールビールですよ。糖質オフです」


「ははは……。お気遣いありがとうございます」


彼女はそのまま僕に近づいて、涙をぬぐった。

「え……?」


――そうだ、僕は泣いていた。涙が、頬を伝っていた。


自分のことなのに、忘れていた。


僕は思わずのけぞって、腕で涙をぬぐう。


その様子にデメテル様は慈愛のまなざしを向ける。

「自分が泣いていることにも気が付かないなんて、あなたは本当に……」


「いや、さっき、デメテル様が変なこと言うから……」

慈しみの笑顔を崩さないデメテル様。先ほどの麦畑の香りが残っている。


その神のような笑顔、やめてほしい……。神様なんだけど……。


ライムチャートちゃんが別方向をむいたまま、僕にハンカチを差し出す。

「ほ、本当に泣き虫ですね、クタニさんは」


素直に受け取った僕は、涙をしっかりふいて言う。

「ありがとう。家宝にするよ」

「洗って返してください!」

ぽかぽかとたたかれる。


彼女の心配がうれしかった。


神とゴーレムの亜神の彼女にも少しは認められたのかな。


その様子にデメテル様はビールをあおる。

「ふふふっ、いい酒の肴ができました。ビール五杯はいけますね」


「こんなのを酒の肴にしないでください……」


僕が肩を落としていると、放送が入った。


『さて、次のメインイベントは、南の大運動場の、召喚物競走です! 今年も盛り上がること間違いなし! ぜひ見に行ってください!』

「召喚物競走……って具体的に何するんだ?」


きっとこれがスコリィ出ると言っていた競技だ。

僕は勇気をもって切り出す。

「デメテル様よかったら、一緒に見にいきませんか?」


「クタニさん、あなたそのタイミングでよく言えますね」

「それとこれとは話が別です」


「大変うれしいお誘いですが、残念ながら今日の私は二人の保護者ですので……。一緒にならいいですが」

その言葉に娘のペルセポネーちゃんが拒絶反応を示す。


「絶対イヤ! 私の保護者だと思われるかもじゃない! そんなの恥ずかしい!」

恥ずかしいレベルなの、僕って……。


デメテル様を守るようにペルセポネーちゃんがボクシングスタイルで立ちはだかる。スーパーキッズめ。


ともかく、またもや僕は祭りの誘いを断られてしまったのだった。

仮装大賞もとい召喚演武終了です。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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