召喚獣暴走。女神少女が倒しても最強なのは司会のおじさん
【あらすじ】魔法学校夏至祭に呼ばれた雑貨屋のクタニ(主人公)、ルルドナ(ミニサイズになって寝てる)、スコリィ(後輩の手伝いにいっている)、イゴラ(妹のライムチャートと交代中で友達とどっか行った)。召喚演武を楽しんでいるが……。
『さあ、お次は南のカエルさん寮です! 召喚獣は……シャツフロッグです!』
聞いた瞬間、嫌な予感がした。
背中を向けたまま出てきた生徒たちは、明るい黄色のTシャツを着ていた。ゆっくりと振り向こうとする。
(それ、版権的にだめな奴……!)俺は手を組んで神に祈る。表の絵柄、ぴょ○吉じゃありませんように……!
だが、見えたのはシャツの中に描かれたリアルな大型のカエル。リアルすぎてちょっと怖い。
(あれは……! セーフ!)
軽快な音楽に合わせて、生徒6人の間を6匹のカエルがぴょんぴょん行き交う。生徒も場所を入れ替わって、ダンスをしているように動いて、召喚されたカエルがシャツからシャツへと跳びはねる。
〈ピョンピョン、ピョピョンピョーン〉
だんだんと生徒もカエルも動きが速くなり、目にも止まらぬ速さになっていく。そして最後にカエルが合体して3メートルはあろうかという巨大なカエルになった。生徒がカエルの周りに立って満足げに笑顔を作る。
〈ピ……ピピピ……〉得点ゲージがたまりだすが……、たまり方が弱弱しい。
生徒たちがカエルの横で手を組んで祈る。……しかし、点数が伸びない。「この日のために3ヶ月がんばりました……!」小柄な生徒が泣きそうな顔で言う。
〈ピピピピピ……パラリラ~!〉得点が一気にたまる!
……このパターンも同じかよ! いや俺も審査員だったら押しちゃうけどさ……!
「いや~、よかった! きれいだったよ~。最後の合体もスムーズでよかった! 得点たまるの遅かったけど、ちょっとカエルがリアルすぎて審査員が驚いていたのかな~。とにかく、合格! 合格だ~!」小柄な司会のおじさんがうれしそうにやってきて、首にメダルをかける。
巨大なカエルがポンと消え、生徒たちが笑顔で舞台から退場する。会場に安堵の雰囲気が流れる。
「ふぅ」別の意味で安堵して、イスに深く座り直す。……ある意味、気が抜けなくなってしまった。何に対してかは……よくわからないけど。
***
『さあ、お次は西のイヌさん寮です! 召喚獣は、忠犬!』
(また、まずそうなのきた……! ○チ公じゃありませんように……!)
一人で必死に祈る俺。
安らかに目を閉じているミントンさんがうらやましい。
生徒たちが出てきて、音のない演劇が始まる。小さな犬が召喚される。
「さあ、馬車駅でずっと誰かをまっている一匹の柴犬。雨の日も風の日も、ずっと誰かを待っています……」ナレーションとともに、周囲の生徒が魔法で雨が降ったり風が吹いたり演出している。
(……いやそれまずいって! 駅を馬車駅にしただけじゃん!)俺は一段と強く、組んだ手を握る。
「ああ! 犬がつらそうです! 足が震えています。それでも、毎日、毎日通い続けます。だけど待ち人はいつまでたっても帰ってきません……」
迫真の演技の犬。震える足で、馬車駅へと向かう。思わず感心する。(……この召喚獣、演技力すげーな)
そして、力尽きそうになったそのとき、異変が起こった。突然、犬が巨大になり叫び出す。「……やってられっかー!! 冷てーんだよ! 寒いんだよ! ジジイがくたばったのなんて知ってるんだよ!」
『あーっと! 忠犬、待ちきれなかった!? これは演出なのでしょうか?』
「演出じゃねーよ! 牙魔法、ファングサークル!」犬が突然二本足で直立し、荒々しく叫び始めた。その周囲に無数の牙が出現する。舞台の生徒たちや会場に向かって牙を放つ。
あまりの展開の速さに、俺は隣のミントンさんを起こすのを忘れてしまう。
会場は防護結界が張られていて、何とかはじかれる。
「結界なんぞ!」〈オオーン!〉
その鳴き声で結界がもろくも崩れ去る。
『ちょ! 今のはデバフの雄叫びです! 魔法がきえ、聞いた者はしばらく魔法が使えなくなります! 危険です! 皆さん逃げてください!』
ナレーションとともに混乱する場内。
「結界を張れないぞ! にげろー!」「頭を低くして逃げろ!」
いよいよ俺もミントンさんの肩を揺すって起こそうとする。なのに……彼女はハナチョウチンをふくらませていた。〈プクープクー〉と陽気な音がしている。
「う、うら若き乙女のハナチョウチンだと……!?」
思わず大きめの声でツッコミを入れると、巨大化した忠犬がこちらに怒りの矛先を向ける。
「何をふざけている! おまえみたいな奴がオレは一番嫌いなんだよ!」
動物には比較的好かれるのに、犬に見た瞬間嫌われた!俺がショックを受けていると、遠慮なく魔法を放ってくる。
「ファングアロー!」
無数の牙の矢がこちらに飛んでくる。寝ているミントンさんをかばうように、俺は思わず腕を広げた。怪我どころじゃ済まないぞ……。
――俺が覚悟をしたそのとき、小さな少女が飛び出し、拳を振るう。
「五月雨拳!」〈ドドドドドッ!!〉
俺の前で光る拳を振るう少女は楽々と牙の矢を打ち落とす。「あいかわらず、狙われやすいのね」
それは、デメテル様の娘、ヘラクレスにボクシングの個人指導を受けたスーパーキッズ、ペルセポネーちゃんだった。
先ほどの白いワンピース姿ではなく、女子ボクサースタイルだ。
12歳くらいの少女の姿をしているが、その腹筋はきれいに割れていた。
「助かったよ! ペルセポネーちゃん」お礼を言った俺には一瞥もくれず軽く拳を上げる彼女。そのまま、意外なことを敵に向かって言い放つ。
「あなたのおじいさんは、生きているわ!」その言葉に、犬が一瞬たじろぐ。
「……ふん、どうせ心の中に、とか言うんだろう!」
「違うわ、ギリシャ神話異世界によ! あなたのことを毎日のように話していたわ!」
「……バカな!?」
「ほんとうよ! あなたの本当の名前、当ててあげる!」
「は、言ってみろ! 俺の名前はジジイしか知らねぇ!」
(ま、まずい!)「言っちゃだめだ! その先は!」
俺は止めようとするが、遅かった!
「あなたの名前はプロキオン・ハチ!」
「……なんか混ざってるからセーフ!」
飛び出した俺は盛大にずっこける。
足下に転がる俺を見てペルセポネーちゃんが言い放つ。
「……クタニさん、さっきから何を一人で慌てているの?」
「いや、大人にはいろいろあるんだよ」
さっと立ち上がってイスに座ると、改めて忠犬が苦しみだした。
「……あ、あり得ない。そんな、ジジイはとっくの昔に……!」
「だまされたと思ってついてきなさい。夏至祭が終わったら、ついでに連れて行ってあげる」
スーパーキッズが拳を突き出す。その真剣な瞳。
突き出された拳と、少女の真剣なまなざしを交互にじっと見つめたプロキオン・ハチはそっと拳を出す。
「……信じてみよう。嘘だったとしても、お前にだまされるのなら悪くない」
会場が静まりかえる。
〈ピ……ピピピピピ……パラリラ~!〉
合格音と同時にとび出す司会のおじさん。
「合格合格~! いやあ、おじさん泣いちゃったよ! すごい演出だったねぇ! しかもこんなかわいい子まで用意して。飛び級の生徒かな? キミ何歳?」
ペルセポネーちゃんにマイクが向けられる。
彼女はキョトンと目を丸くしながら答える。
「12歳だけど……」
「まだ12歳! なのに演技うまい! そしてかわいくて強い! 文句なしの合格だよ!」
巨大な犬の召喚獣と一緒に、舞台袖へ連れて行かれるペルセポネーちゃん。
あの司会のおじさん、ある意味……最強だな。
子ども出演パターンの回まで見れて満足して、イスに座り直した。横から会場を眺め、改めて、つぶやく。
「……いやこれ完全に仮装大賞番組だろ」
俺の小さなつぶやきにツッコむ者は、ここには誰もいなかった。
残るは北の寮です。
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




