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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
140/199

召喚獣暴走。女神少女が倒しても最強なのは司会のおじさん

【あらすじ】魔法学校夏至祭に呼ばれた雑貨屋のクタニ(主人公)、ルルドナ(ミニサイズになって寝てる)、スコリィ(後輩の手伝いにいっている)、イゴラ(妹のライムチャートと交代中で友達とどっか行った)。召喚演武を楽しんでいるが……。

『さあ、お次は南のカエルさん寮です! 召喚獣は……シャツフロッグです!』


聞いた瞬間、嫌な予感がした。


背中を向けたまま出てきた生徒たちは、明るい黄色のTシャツを着ていた。ゆっくりと振り向こうとする。


(それ、版権的にだめな奴……!)俺は手を組んで神に祈る。表の絵柄、ぴょ○吉じゃありませんように……!


だが、見えたのはシャツの中に描かれたリアルな大型のカエル。リアルすぎてちょっと怖い。


(あれは……! セーフ!)


軽快な音楽に合わせて、生徒6人の間を6匹のカエルがぴょんぴょん行き交う。生徒も場所を入れ替わって、ダンスをしているように動いて、召喚されたカエルがシャツからシャツへと跳びはねる。


〈ピョンピョン、ピョピョンピョーン〉


だんだんと生徒もカエルも動きが速くなり、目にも止まらぬ速さになっていく。そして最後にカエルが合体して3メートルはあろうかという巨大なカエルになった。生徒がカエルの周りに立って満足げに笑顔を作る。


〈ピ……ピピピ……〉得点ゲージがたまりだすが……、たまり方が弱弱しい。


生徒たちがカエルの横で手を組んで祈る。……しかし、点数が伸びない。「この日のために3ヶ月がんばりました……!」小柄な生徒が泣きそうな顔で言う。


〈ピピピピピ……パラリラ~!〉得点が一気にたまる!


……このパターンも同じかよ! いや俺も審査員だったら押しちゃうけどさ……!


「いや~、よかった! きれいだったよ~。最後の合体もスムーズでよかった! 得点たまるの遅かったけど、ちょっとカエルがリアルすぎて審査員が驚いていたのかな~。とにかく、合格! 合格だ~!」小柄な司会のおじさんがうれしそうにやってきて、首にメダルをかける。


巨大なカエルがポンと消え、生徒たちが笑顔で舞台から退場する。会場に安堵の雰囲気が流れる。


「ふぅ」別の意味で安堵して、イスに深く座り直す。……ある意味、気が抜けなくなってしまった。何に対してかは……よくわからないけど。


***

『さあ、お次は西のイヌさん寮です! 召喚獣は、忠犬!』


(また、まずそうなのきた……! ○チ公じゃありませんように……!)

一人で必死に祈る俺。


安らかに目を閉じているミントンさんがうらやましい。


生徒たちが出てきて、音のない演劇が始まる。小さな犬が召喚される。


「さあ、馬車駅でずっと誰かをまっている一匹の柴犬。雨の日も風の日も、ずっと誰かを待っています……」ナレーションとともに、周囲の生徒が魔法で雨が降ったり風が吹いたり演出している。


(……いやそれまずいって! 駅を馬車駅にしただけじゃん!)俺は一段と強く、組んだ手を握る。


「ああ! 犬がつらそうです! 足が震えています。それでも、毎日、毎日通い続けます。だけど待ち人はいつまでたっても帰ってきません……」


迫真の演技の犬。震える足で、馬車駅へと向かう。思わず感心する。(……この召喚獣、演技力すげーな)


そして、力尽きそうになったそのとき、異変が起こった。突然、犬が巨大になり叫び出す。「……やってられっかー!! 冷てーんだよ! 寒いんだよ! ジジイがくたばったのなんて知ってるんだよ!」


『あーっと! 忠犬、待ちきれなかった!? これは演出なのでしょうか?』


「演出じゃねーよ! 牙魔法、ファングサークル!」犬が突然二本足で直立し、荒々しく叫び始めた。その周囲に無数の牙が出現する。舞台の生徒たちや会場に向かって牙を放つ。


あまりの展開の速さに、俺は隣のミントンさんを起こすのを忘れてしまう。


会場は防護結界が張られていて、何とかはじかれる。


「結界なんぞ!」〈オオーン!〉


その鳴き声で結界がもろくも崩れ去る。

『ちょ! 今のはデバフの雄叫びです! 魔法がきえ、聞いた者はしばらく魔法が使えなくなります! 危険です! 皆さん逃げてください!』

ナレーションとともに混乱する場内。


「結界を張れないぞ! にげろー!」「頭を低くして逃げろ!」


いよいよ俺もミントンさんの肩を揺すって起こそうとする。なのに……彼女はハナチョウチンをふくらませていた。〈プクープクー〉と陽気な音がしている。


「う、うら若き乙女のハナチョウチンだと……!?」


思わず大きめの声でツッコミを入れると、巨大化した忠犬がこちらに怒りの矛先を向ける。


「何をふざけている! おまえみたいな奴がオレは一番嫌いなんだよ!」


動物には比較的好かれるのに、犬に見た瞬間嫌われた!俺がショックを受けていると、遠慮なく魔法を放ってくる。


「ファングアロー!」


無数の牙の矢がこちらに飛んでくる。寝ているミントンさんをかばうように、俺は思わず腕を広げた。怪我どころじゃ済まないぞ……。


――俺が覚悟をしたそのとき、小さな少女が飛び出し、拳を振るう。


五月雨拳(グルーレインラッシュ)!」〈ドドドドドッ!!〉


俺の前で光る拳を振るう少女は楽々と牙の矢を打ち落とす。「あいかわらず、狙われやすいのね」


それは、デメテル様の娘、ヘラクレスにボクシングの個人指導を受けたスーパーキッズ、ペルセポネーちゃんだった。

先ほどの白いワンピース姿ではなく、女子ボクサースタイルだ。

12歳くらいの少女の姿をしているが、その腹筋はきれいに割れていた。


「助かったよ! ペルセポネーちゃん」お礼を言った俺には一瞥もくれず軽く拳を上げる彼女。そのまま、意外なことを敵に向かって言い放つ。


「あなたのおじいさんは、生きているわ!」その言葉に、犬が一瞬たじろぐ。


「……ふん、どうせ心の中に、とか言うんだろう!」


「違うわ、ギリシャ神話異世界によ! あなたのことを毎日のように話していたわ!」


「……バカな!?」


「ほんとうよ! あなたの本当の名前、当ててあげる!」


「は、言ってみろ! 俺の名前はジジイしか知らねぇ!」


(ま、まずい!)「言っちゃだめだ! その先は!」


俺は止めようとするが、遅かった!


「あなたの名前はプロキオン・ハチ!」


「……なんか混ざってるからセーフ!」

飛び出した俺は盛大にずっこける。


足下に転がる俺を見てペルセポネーちゃんが言い放つ。

「……クタニさん、さっきから何を一人で慌てているの?」


「いや、大人にはいろいろあるんだよ」


さっと立ち上がってイスに座ると、改めて忠犬が苦しみだした。

「……あ、あり得ない。そんな、ジジイはとっくの昔に……!」


「だまされたと思ってついてきなさい。夏至祭が終わったら、ついでに連れて行ってあげる」

スーパーキッズが拳を突き出す。その真剣な瞳。


突き出された拳と、少女の真剣なまなざしを交互にじっと見つめたプロキオン・ハチはそっと拳を出す。


「……信じてみよう。嘘だったとしても、お前にだまされるのなら悪くない」


会場が静まりかえる。

〈ピ……ピピピピピ……パラリラ~!〉


合格音と同時にとび出す司会のおじさん。

「合格合格~! いやあ、おじさん泣いちゃったよ! すごい演出だったねぇ! しかもこんなかわいい子まで用意して。飛び級の生徒かな? キミ何歳?」


ペルセポネーちゃんにマイクが向けられる。

彼女はキョトンと目を丸くしながら答える。

「12歳だけど……」


「まだ12歳! なのに演技うまい! そしてかわいくて強い! 文句なしの合格だよ!」

巨大な犬の召喚獣と一緒に、舞台袖へ連れて行かれるペルセポネーちゃん。


あの司会のおじさん、ある意味……最強だな。


子ども出演パターンの回まで見れて満足して、イスに座り直した。横から会場を眺め、改めて、つぶやく。


「……いやこれ完全に仮装大賞番組だろ」


俺の小さなつぶやきにツッコむ者は、ここには誰もいなかった。

残るは北の寮です。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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