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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第5章 団子屋と看板破壊編
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心が黒いおっさんは白い服を着たがる

【あらすじ】雑貨屋を開き、看板を掲げたら、魔王モールのシュワルツというやつに壊された。さらにルルドナをさらわれ、相手の召喚した白いタキシードの小型ガーゴイルと戦うことになったが……。


【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はスローライフを目指すハニワオタク。空き家と山を買って借金生活。雑貨屋店長。

・ルルドナ:クタニの作ったハニワから生まれた少女。紅赤の髪に和風メイド服。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。

・イゴラ:ミニゴーレム少年。最初の客。130センチくらい。

・スコリィ:ストーンピクシー。高身長スレンダー女子。180センチくらい。


・シュワルツ:魔王モール3号店副店長。

・白いタキシードの小型ガーゴイル:シュワルツが召喚した魔物。


 外に出ると明らかに魔族のような黒い存在がいた。

 人間のような体型に、黒い肌に真っ白のスーツを着て、高そうな金の腕時計、高そうな黒光りする革靴、白いシルクハット。


 ――高級デパートのディスプレイにいそうな姿だ。


「我は魔王ショッピングモール、ウォルマゾンモールの3号店副店長、シュワルツ!」


 ……デパートではなくショッピングモールだった。


 ショッピングモールということはあの服装や装飾も実はお買い得なのだろうか。


「どういうご要件でしょうか?」

 あくまで店長として接する。


「貴様の店の赤いゴーレムは引き抜いた! 返してほしくば、ウォルマゾンモール3号店に来てもらおうか」

 その態度にこちらも口調を荒くする。

「どういうことだ?」


「看板を掲げたからには、すべての小売店がライバルと思え!」

「なぜ誘拐をする必要がある!?」


「誘拐とは人聞きの悪い。引き抜きだ。当社、魔王モールは、すべての品揃え、あらゆる多様性のある社員がいないと困る。こんな辺境の雑貨屋に不思議なゴーレムなどいてもらっては困るのだよ」

「ゴーレムではないハニワだ」


「訳のわからないことを言うな!」


 相手の大声に、こちらもツッコミつつキレる。

「うっせぇ! そもそも爆破までする必要があったのか!?」


「ふん、しれたこと。最初に相手をビビらせる。これは経営の常套手段だ」

「あほか! やりすぎだ!」


「これがウォルマゾン様のやり方だ! ……おおっと忘れていた! ウォルマゾン保険もよろしくお願いします。5年払いなら今回の件もご対応いたします」


「入るかいっ!」

「はっはっは。やはり異世界人はおもしろい。しかし異世界の経済を握っている当社に勝てるかな?」


「俺は異世界の隅っこで粘土をこねながらスローライフをしたいだけだ!」

 これは心からの言葉だった。

「……あまい! 看板を掲げたからには、そんなことは許されないのだよ。異世界フランチャイズを舐めてはいけない! おっと、保険もよろしく!」


「異世界でフランチャイズとか保険とかするんじゃねー! 夢が壊れる!」


「はっはっは。おっと、もう会議の時間だ。それでは、私の召喚獣の接待を受けてもらいたい」


 彼が指を鳴らすと、光とともに白いタキシードを着たガーゴイルが現れた。

***


「うわっ」

 俺より少し小さいサイズのガーゴイルは、礼儀正しくお辞儀をした後、鋭い爪で攻撃してきた。


 ブンっと空を切る爪。間一髪で避ける。

「このくらいの接待をしのぎきれないと、ライバルとして認めません」


「接待ってしのぐものではないような」


「はっはっは。では私はこれで。赤いゴーレムには傷をつけるようなまねはしないから安心したまえ」

 大仰に挨拶をして、白いスーツをきた悪趣味な悪魔はかき消えるように去っていった。


「あ、おい!」


 俺が呼び止めようとするも、ガーゴイルが攻撃して行く手を阻む。

 攻撃系のスキルを何も得られなかった俺は、太い木の枝を持ってガーゴイルと対峙する。


 せめてハニワたちが動いてくれれば、と考えながら店の中にいるハニワたちを思う。しかしそんなご都合展開が俺にあるとは思えない。


 とにかく俺は体力だけはあるのだから、奴の攻撃を防ぎきって体力を減らす。そして、隙を見て反撃。それしかない。


 何度も繰り出される攻撃。ただ俺は脚力だけは鍛えていたので、かろうじて攻撃を避け続ける。


 避け続けていると相手の攻撃が鈍る。

 その隙をついて、木の剣(いい感じの木の棒)で相手を叩く!

〈ポキッ!〉

 太さ5センチほどのいい感じの棒は、あっさりと折れた。

 

「やはり……!」

 いい感じの棒でも実戦には耐えられなかった。


 それでも相手は、避けてばかりの俺が反撃したことに対して警戒したようで、後ろに下がって距離を置く。しかしそれは悪手であったようだった。


――呪文を唱える声が響く。


「石よ、敵を流れ消せ――石の流風ライオライト・ストーム!」


 波になったような鋭い石のつぶてが、ガーゴイルに襲いかかる。まるで大量の石の竜巻を横からぶつけたような激しさで、ガーゴイルは森の方へ吹き飛んでいった。


「てんちょー! 大丈夫っすか!?」


「スコリィ! 魔法が使えるのか!」

「推し活を盛り上げるために、日々練習してたっす!」


「あっ、そう……。ともかくありがとう!」

「いや、ガーゴイルに衝撃系のダメージはほとんど通らないっす! 吹き飛んだだけっす! 戻って来る前に避難っす!」


「そんな、どこに!?」


「ひとまず町の方へ行くっす!」

 家から町まではかなり見通しの良い道を通らねばならない。


 躊躇して森を振り向いたとき、大量の森の木々や石がこちらに向かって飛んできていた。その数、空を覆い尽くさんばかりだ。


「ガーゴイルの反撃っす!」

「これ……避けようがないんじゃ……」


「ひとまず、私の後ろに隠れて伏せるっす! ……いや、これ無理無理!」

 頼もしく出てきたスコリィが一瞬で慌てふためく。


(あ、これもうだめなパターンだ)

 と、目を強く瞑った――そのとき。


石壁の守護(ブリック・プロテクト)!」

 どこかで聞いたような声がした。

 ただ、誰か確認する余裕はなかった。


(ドドドドド!)

 勢いよく森の木々や石や土が俺達に襲いかかる。


 ――しかし、その攻撃が俺とスコリィに届くことはなかった。


「あれ……生きてる」

 目の前を見てみると、周囲にレンガのドームができて俺達二人を守っていた。


「お二人とも、大丈夫ですか?」


 息を切らせて坂を登ってきたゴーレム少年のイゴラくんが、駆け寄ってくる。

 ドームの外に出たら、ドームは崩れた。一回限りの防御のようだ。


「どうしてここに」

「スコリィさんに頼まれていたレンガパンが焼き上がったのでお届けしようと」

 イゴラくんの背中には風呂敷のようなものがくくりつけられている。


「そういえばいい匂いが」

「遠くからお二人が攻撃を受けいているようでしたので、とっさに防御魔法を」

「すばらしい! ていうか魔法使えたんだね」


「ボクが使えるのは補助魔法だけ、ですけど」

「とにかく助かったよありがとう!」


「てんちょー! またあいつ向かってきてますー!」

 ガーゴイルが優雅に歩きながらこちらに向かってきた。まるで知性をもっているかのような歩き方だ。にしても不自然な歩き方。


――両手で何かを抱えるような……。


「も、もしや……!」

 俺は閃いた。慌てて店内に飛び込む。


「店長さん、どこへ!?」


 背後からイゴラくんの声が追いかけてくるが、構わず店の奥へと駆け込んだ。


 店の中で、売れ残った小型ハニワ人形をかき集め、箱に詰め、見栄えを良く整える。高級デパートで見た感じでクッションに包み、整える。


 完璧に箱詰めされたハニワ人形たちを抱え、すばやくガーゴイルの前に躍り出る。そして咳払いをして一気にそれっぽいセリフを言う。


「先日開店しました『ルナクラフィ商会』です。どうぞお見知りおきを。これは粗品ですが」


 俺は深々と頭を下げ、小型のガーゴイルにハニワ人形の入った箱を差し出す。

「て、店長……」

『情けないにも程があるっす』と言いたげなスコリィの声。


 それを無視して頭を下げ続ける。


 看板と店の一部を壊した相手に、挨拶の品を渡すのは屈辱だったが、今は生き残るのが先決だ。


「……」

 ハニワを受け取ったガーゴイルは、しばらく考えているようだったが、お辞儀をして、――霧散するように消えていった。


「……やったのか?」


「や、やったー!」


「よかったあ」


 俺達は壊れた店の前でヘナヘナと座り込んで安堵した。

無事に三号店店長の召喚獣ガーゴイルを追い払ったようですが、看板どころか店も半壊、店の前は森の木々でちらかり放題です。


(※フランチャイズ……本部と加盟店が契約を結び、加盟店の資本と経営者によって店舗が運営される形式の店舗のこと。コンビニが有名)


2025.8.13 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.10.13 微修正しました!

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