魔法学校夏至祭の召喚演舞は仮装大会番組と同じ方式
【あらすじ】魔法学校の夏至祭。東の広場から爆発音がしたためのあわてて駆けつけたクタニとミントン、理事長に校長。さて、どうなっていくのか……?
「なっ……!」
東広場に急いで駆けつけた俺たちは、うろたえて何もすることができなかった。
爆発の正体は、……スピーカー?
〈ドオーン! ドドーン!〉
そう、スピーカーから尋常じゃないほどの大音量で爆発音が出力されている。
スピーカーは妖しい紫の光に包まれている。
生徒が走ってきた。三つ編みで小豆色の、丸メガネをつけた少女だ。
「校長先生! このままでは召喚演舞ができません……!」
彼女の指さす先、会場の特大舞台がみえる。その周囲のスピーカーから特大の爆発音が流れてくる。
〈ドオーン! ドドーン!〉
「ひとまず、コンセントを抜きましょう」ミントンさんが提案する。
「それが……、簡易結界が張られていて、無理に結界を壊して引き抜くと、コンセントが壊れてしまうみたいで」
「壊さないといけないなら、壊せばいいじゃない~」
校長先生が魔法の風を手のひらにまとわせながら首をかしげる。
……あれ、この人、意外と好戦的……?
「いや、……壊すのは早とちりじゃ。早速、これを使ってみよう」
そういって小指サイズのハニワを取り出す。
「これは?」小豆色の髪の女子生徒が気持ち悪そうにハニワをつまみ上げる。
「こちらのクタニどのが創作した特別なハニワという魔法具じゃ。これを機材に貼り付けてはくれんか? 説明はあとじゃ。貼り付ければ暴走だけが止まるはずじゃ」
「え!? そんな特定の魔力にだけ反応する魔道具が!?」
「ま、やってみらんとわからんがの。皆手分けして貼り付けよう」
皆に手渡す校長の横で俺が説明する。
「高いところにあるやつには投げつければかってに張り付くと思います」
俺が近くのスピーカーに投げつけると、ハニワはその腕でぺたりと張り付いた。すると、スピーカーの周りのまがまがしいオーラが静まり、普通のスピーカーになった。
「うわきもい……。でもすごい!」
機材係の女子生徒が実に正直に、感心した様子で俺とハニワを見比べる。
侮蔑と尊敬のまなざしを同時に受け、複雑な気持ちのまま女子生徒に口の端をくいっとあげて店長スマイルを向けた。
「さあ、俺のステキなハニワを使って場をおさめるんだ」
だが、小豆色の髪の少女は顔をそらして逃げ出すように校舎へと走り込んだ。
「わ、わたしは周囲の建物上階にあるスピーカーに付けてきますー!」
小豆色の髪の三つ編み少女がパタパタと足音をたてて逃げるように走り去る。
「クタニさん、生徒には手を出さないように気をつけてくださいね」
ミントンさんに釘を刺される。
「……」
「……」
「……」
理事長、校長、秘書にジト目でみられる。
ツッコミ役のスコリィがいないと、俺はただの変態のようだった。スコリィ、重要キャラだったんだな。
〈ドオーン! ドドーン!〉
うるさいし、視線も痛いし、もう……無理だ。
周囲の視線に耐えきれず、ターンして走り出した。
「じゃあ、俺は舞台周囲のスピーカーにつけておきますねっ!」
***
「ふう、これで最後か」
手分けしてハニワを付けた俺たちは、会場舞台の脇にあるスタッフ用のイスに座り込んでいた。
『ピンポンパンポーン。えー、放送部です。大変、お騒がせしました。東エリアの機材の故障で爆発音が響いておりましたが、すべて応急措置が終わりました。次のイベント『召喚演舞』は、5分ほど遅れて始まります』
スピーカーから放送部の声が聞こえる。
何とも物々しい始まりになってしまったが、幸い5分ほどの遅れですんだようだ。
「ミントンくん、クタニどの、ここの会場をひとまず見守ってくれんか。ワシとテフラ校長先生はほかの場所のスピーカーを調べてくることにする」
「……はい」
ミントンさんは素直に返事をする。ずいぶんと疲れているようだ。夜遅くまで機材チェックしていたと言っていたし、朝から食堂を手伝っていたし、疲れているのだろう。
「俺も、手伝いますよ」
一歩前に出て俺は提案する。
にっこりと笑ってしろひげをなでつけたアダムン理事長が言う。
「いやいや、ゲストをそんなことに使っては魔法学校グラスゴウンの名折れじゃ。今回は緊急だったので手伝ってもらったが、あとはゆっくりしていってくだされ」
理事長に促されるままに、イスに腰掛ける。
「はい、ハチミツキャンディあげるから、ゆっくり楽しんでね~」
髪の毛を一つ結びにしたテフラ校長に大量のペロペロキャンディをもらう。こういうときって、丸いキャンディをくれるものじゃあ……。
大量のキャンディを受け取った俺の横で、理事長がミントンさんに言う。
「ミントンくんも、ゆっくり休むようにの」
「……恐れ入ります」
深く頭を下げるミントンさん。
その横顔は、何か言い表しようのない不安に包まれていた。
(きっと、寝不足の顔がそう見えるだけだろう)
……その違和感を放置したのは大失態だったと気がつくのは、ずいぶんと後のことだった。
***
「クタニさん、少しだけ深く寝ますので、何かあったらすぐに叩き起こしてください」
理事長と校長が立ち去った後、ミントンさんはイスに座ったまますっと寝てしまった。
「え? あ、はい。おやすみなさい……?」
あまりに素早く寝てしまったので驚いて声をかけたが、座禅を組んだ僧侶みたいにそのままピクリとも動かなくなった。
『さてさて、それでは〈召喚演舞〉を始めます! それぞれの寮の代表召喚獣で演舞をしてもらいます! 最後は、なんとゲスト女神デメテルさまの金色の奇跡召喚だそうです! みなさんお楽しみに!』
……金色って、絶対にビールだ。何もないところからビール生成するだけですごいらしいんだけどさ。
拍手とともに舞台に出てきたのは、高級そうな金色の刺繍を施された黒いローブに包まれた生徒たちだった。
『まずは東のトリさん寮、召喚獣はウィンドフェニックスです!』
〈ピィィーー!!〉
黒いローブの生徒たちの作った魔法陣から出現したのは、大柄な銀色の鳥。まるで朝日を吸収したようにまばゆい光をはなち複雑な軌道で舞台を飛び交う。
その軌道がさらに魔法陣を描き、小さなフェニックスを出現させる。
小さなフェニックスたちが次々に軌道を描き、魔法陣を生み出しては増殖していく……。
見事に統制された動き。人ではなしえない、複雑な軌道。
(これが、……魔法学校の召喚!)
その美しい演舞に感動しながら見ていると、大小様々なフェニックスたちはお辞儀をして止まった。
会場が静まると同時に、会場の横に立てられた柱が下の方から光り出す。
<ピ……ピピピ……!>
こ、これは……! 伝説の仮装大賞番組と同じ方式!?
〈ピピピピ……パラリラ~!〉
「おーめでとう! 合格! 合格だよ!」
司会の小柄なおじさんがうれしそうに出てくる。
……いや誰だよ!
「フェニックスって鳥なのに最初に出てきてどうなるかと思っちゃったけど、よかったよ~」
おじさんに褒められてうれしそうに飛び跳ねる黒いローブの学生たち。
その笑顔は若いときにしか見られない、無邪気な輝きがともっていた。
(まあ、こういう感じがいちばんいいのかな)
俺はふっと息をつき、肩の力を抜く。
ミントンさんの修行僧のような寝顔を横に、召喚演舞とやらを楽しむことにした。
しばらく召喚演舞が続きます!
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




