ファッションショーを襲った奴はだいたいモデルに吹き飛ばされる
【あらすじ】魔法学校夏至祭にきていた雑貨屋のクタニ(主人公)、ルルドナ、スコリィ、イゴラ(今は妹のライムチャートと入れ替わっている)。モデルが倒れたため、急遽代役を任されたスコリィだが、モンスターが襲ってきて……?
「スコリィ!」
俺は身を乗り出して叫ぶ。
コウモリ男たちの幾重もの攻撃。入れ替わり立ち替わり、地上から空中から攻撃が繰り出される。
〈ビュンビュンビュン!〉
モデル服を着たスコリィは、動きにくそうだけどすべて身軽にかわす。
警備係っぽい生徒の魔法攻撃も、光の矢も、炎の玉も、石つぶても――すべて羽で弾かれた。
『これは緊急事態です! 演出ではありません!』
会場に緊張感が走る。
「ルルドナ! いけるか?」
「……いらないでしょ。もう寝るわ……」
俺のことは対照的に、あくびをしたルルドナはポケットの中で眠ってしまった。
ルルドナが眠ってしまった後、どよめきが上がる。
スコリィがコウモリ男たちを何体も蹴り飛ばしたのだ。
ナレーションが避難指示をやめ、スコリィの実況に回る。
『スコリィ先輩強い! しかも得意の魔法無しだ! 衣装の力か!?』
次々と攻撃をよけては蹴り飛ばしていくスコリィ。
まるで踊るような動きだ。
スコリィ……その動き、ルルドナと同じ動きか!
ただ、スコリィの方が足が長く、力も強い。
相手を次々と蹴って倒す。吹き飛ばされたり、かかと落としを食らって地面にめり込むコウモリ男。
しかしいくら倒しても、地面にある魔方陣から次々と出てくる。
『魔方陣です! あの魔方陣を消してください!』
ナレーションの焦る声が響く。だけど、魔法をすべてはじくコウモリに守られており、魔法学校の生徒は近づくこともできない。
スコリィがコウモリ男を床に這わせるように蹴り飛ばし、魔方陣を消そうとするも、まったく消える様子はない。
魔方陣は不気味に光を放っている。
あれは……プロジェクションマッピング!? 光をどこからか投影しているんだ!
見上げて視線を巡らせると、周囲の建物の屋上から光を当てている機材が見えた。
昨日の、魔王モール機材部門の仲間か……! ハイテクになっている……?
俺はそちらを指さしできる限り大声を出す。
「あの建物屋上の機材です! あれが魔方陣を映し出してます!」
その言葉にすぐさま対応し、学生たちが一斉に注目する。
〈ガシャン!〉
しかし、その機材は突然、倒れて動かなくなった。
「……え?」
俺を始め、学生たちがぽかんとしていたら、後ろからテフラ校長が出てきた。
「みなさ~ん、コンセントぬいたからもう大丈夫ですよ~」
そうか、校長先生は、昨日の経験から一瞬で見抜いていて、こっそり裏手に回ってコンセントを抜いたんだ。
魔方陣が消え、同時にコウモリ男も煙のように消えていった。
あたりに静寂が戻る。
どちらにしろ、危ない機器は動きを止め、魔方陣もなくなり、ひとまずの危機は去ったようだ。……機器だけに。
***
「……今日一日、この姿で回ることになっているらしいっす」
ここは再び食堂。スコリィはファッションショーのドレスを着たままレンガパンを食べている。
一緒のテーブルに座っているのは、俺とテフラ校長、あとはミントンさんだ。
「にしてもすごかったよ、スコリィ。モデルの経験でもあるのか?」
「そんなのないっす。ただ、アタシが格好良く歩けば、いろいろ昔の写真をくれるって……ゴーレムとかの……」
……イゴラくんの写真で買収されたか。
あきれているとテフラ校長が上機嫌でスコリィを褒め出す。
「どんな理由であれ、すごかったわぁ。そのままモデルになるのもありなんじゃない? 今無職同然なんでしょ?」
俺は身を乗り出して止める。
「ちょ、今はうちの大事なバイトなんですよ! 給料だって支払ってます!」
「……でも、バイトなんでしょ~?」
「いやでも、貴重なツッコミ担当ですし……」
「貴重な人材をバイト扱いしているの~?」
意外としつこいテフラ校長の追撃に俺は慌てふためく。腐っても校長か。
「……わかりました、正社員にします! 社会保険完備します! うちに正式に来ていただけたらと幸いです!」
「あらぁ? 告白かしら? まるで嫁いでくれって言っているように聞こえるわぁ」
「え? いや、ちが……!」
「ええ~、何が違うのかしら? うちに来てくれって……、どきどきしちゃうわぁ」
「……もういいです」
俺は反撃をあきらめて机につっぷして顔を隠す。
くそ、おっとり系に完全に遊ばれた……!
「スコリィ、よかったね。正社員よ、無職脱出よ」
先輩であるミントンさんも喜んでいるようだ。
「無職じゃなくてフリーターっす。正社員とかよくわかんないっす」
バカな優等生でよかった。
スコリィは言葉を続ける。
「てか、そんなのはどうでもいいっす。アタシ花粉研究部の準備手伝いにいく予定なんすけど、このドレスでいきたくないっす」
ミントンさんがたしなめる。
「何言ってるの、似合っているじゃない」
「そもそもスカートなんて魔法学校卒業以来、着てないから落ち着かないっす」
「着てもいいんだぞ。うちの雑貨屋は制服とかないしな」さりげなく口を挟む。
顔を上げた俺のことを虫けらでも見るような目で見るスコリィ。
「それに結局舞台の上で暴れたから点数低いかもしれないっす。助っ人なのに点数取れてなかったら申し訳ないっす」
妙に責任感のあるやつだ。
「まあ、点数は後夜祭のときに一気に発表するんだろ? 気にしないで夏至祭を楽しめばいいさ。なんなら一緒に回ってやってもいいんだぞ。目立つのはいやかな?」
俺はフォローしつつ、ついでに一緒に祭りを誘ってみる。
「遠慮するっす。目立つのはなれているっすけど、足長いのにこんなひらひらしたの身につけてるのいやっす。てんちょーと違って足が長いんすよ」
誘いを断られた上に、カウンターを食らってしまった。
「どうせ胴長短足の日本人体型ですよ……!」
俺は再び机につっぷして顔を隠す。その様子を見てテフラ校長がクスクス笑う。
「ま、とにかく、あんたは早く花粉研にいってなさい。白い粉売るんでしょ?」
……いま、やばいもの売るって宣言しました?
「先輩はいかないんすか? また一緒に花粉売りたいっす」
ミントンさんも花粉研だったんだ。
「……私は、後から行くわ」
目を伏せたミントンさんの表情は、どこか重いものだった。
***
「本当に申し訳ありません、テフラ校長先生」
スコリィが去ったのを見届けて、ミントンさんは深々と頭を下げた。
「あなたのせいじゃないのよぉ~」
テフラ校長は全然に気にしていないようだ。
それでも謝り続けるミントンさん。
「夜遅くまで機材調査をしていたのですが、見落としがあるなんて……」
そこに、アダムン理事長がやってきた。背の低い、立派な魔法使いのとんがり帽子と白いひげの目立つ、おじいさんだ。
「夏至祭のために急いで最新の機材をそろえたのが間違いじゃったのう……」
「申し訳ありません。魔王モールのプライムセールで安かったので、ついまとめ買いを……」
ネットショッピングにはまっている主婦かよ。
「いや、ワシも魔王モールはもう無害な存在になったと油断しておったわい」
「どうしましょうか? 外部の来客までに時間がありますので、それまでにすべての機材を点検しますか?」
「いや、そんな時間はない。警備の上級生を増やし、怪しい機材だけ集中的に見て回ろう」
思わず俺は質問する。
「見て、わかるものなんですか?」
「正直、わからんじゃろうなあ。魔力コンセントを抜けば止まることから、普段はほぼ魔力を発していないはずじゃ」
「そもそも魔王モールから機材を買うのは危険なのでは?」
まあ俺らも結構買ったけど。
「いや、魔王機材は発売以来20年近く問題がなかったのだ。まさかここに来て、機材が暴れ出すなんて……」
「20年、世界中を油断させ、一気に暴走させとる可能性もあるのう」
「魔王に何か動きがあるんですかね」
「もしかしたら、何かしらの巨大魔法の前触れかもしれん。……もしくはこれもまた陽動かもしれんのう」
「そこで頼みじゃがクタニ君、キミのハニワというアーティファクトを、しばらくこの学校の機材部門に貸し出してくれんか。魔王の結界も破ったという。もちろん、レンタル料ははずむぞ」
俺は驚いて、内ポケットにためた小指サイズのハニワを数百体ほど出す。
ミントンさんが露骨に嫌そうな顔をする。
「……なんでこんなに持ち歩いているんですか」
「お守りです。お一つどうぞ。ミントンさん、理事長。校長先生も」
眉をしかめるミントンさん。アダムン理事長はニコニコと受け取ってくれる。
「うわーい。かわいー」
意外にも校長先生が子どものように喜ぶ。威厳とかないんかい。
……でもかわいいって言ってくれたのは、少しうれしい。
俺は皆に配りながら説明をする。
「こいつら、近づけたり投げつけると悪そうな魔力をよく無効化しますからね。ただ、絶対に発動するとは限りませんから気をつけてください。請求は……後から活躍に応じて俺の指定した金額でいいです?」
「もちろんじゃ」理事長がにっこりと返事をする。
「次に、魔王モールから買った機材を使うのは召喚演舞です。特別なライトを当てるようです。開始まであと……10分です!」
俺たちが事前に防ごうと食堂を飛び出した瞬間、東の方から爆発音が響いた。
爆発で次につなげるなんて、何度目だろうか……。
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




