魔法学校夏至祭のファッションショーで長身スコリィがモデルになる
【あらすじ】魔法学校夏至祭にきたクタニ、ルルドナ(最近はミニサイズ)、スコリィ、イゴラ(今は妹のライムチャートになっている)。ファッションショーのモデルが倒れたため、長身のスコリィが代役に選ばれるが……。
***
「おいしい~」
学生に混ざっておかゆを食べていたのは、おっとり系女性校長のテフラ校長だった。
ハーブを洗い終え、学生たちから離れた席で一人食べていたら、後方から声がした。
「テフラ校長、なぜこんなに早く?」
絶対に朝弱いタイプだと思っていた。
「校長の仕事として夏至祭開始の挨拶があるんですよぉ。ま、それしかないんですけどねぇ」
「へえ、校長の仕事もしているんですね」
「してますよぉ。失礼ですねぇ」
校長が頬を膨らませていると、学生たちが、騒ぎ出した。
「おい、モデルが倒れたぞ!」
「急いで医務室へ運べ!」
上級生が慌てて、モデルらしき人を運んで行った。
「あらぁ、大丈夫かしら?」
校長はのんびりと学生の様子を眺める。
きれいな金髪の線の細い女性が運ばれていった。
その顔は……、やすらかな寝顔だった。寝不足で炭水化物だらけのおかゆを食べたら、俺だってああなっていただろう……。
「倒れたっていうより、寝不足に耐えられず寝たって感じですね……。安らかに眠ってください……」
「てんちょー、それじゃあ死んじゃった人みたいっす」
俺が手を合わせていると、スコリィが隣に来ていた。
「スコリィ、おはよう。早いな」俺は手を下におろしてスコリィに挨拶する。
「おはよー。スコリィちゃん」校長もおかゆを食べ終えてスコリィに笑顔を向ける。
食堂にある時計を見るとまだ朝の6時半だった。
「ういっす。ゲストだから寝坊なんかせずにシャキッとしないといけないっす」
と言って、背筋を伸ばして朝食をとりだすスコリィ。
……寝ぐせ、ついてるぞ。
「ゲストって具体的に何するんだ?」スコリィに尋ねる。
「基本は召喚物競争で……バトルっすね」寝ぼけた感じで答えるスコリィ。
……障害物競走じゃなくて、召喚物競争なんだ。バトルって言い方も気になる。
「まあ、恥をかかないようにな」
「てんちょー……、それフラグ立てようとしないっすか?」
「何のことやら……ってうわ!?」
目をそらして反対側を見ると、さっきの学生たちがずらっと並んでいた。
ピクシー族、エルフ族を中心の学生たちだ。
「いきなり申し訳ありません……。そちら、今年のゲストOBのスコリィ先輩ですよね?」
「そうっすけど……」
「お願いします! モデルが一人いなくなったんです! 代わりに出てください! ほかに背が高くてきれいな人っていないんです!」
「お願いします!」
学生が一同、頭を下げる。
「……は?」
スコリィはぽかんと口を開けて、動きが止まる。
「いやいやいや、アタシには無理っす!」
「そこを何とかっ! これまでこの日のために衣装を作ってきたんです! それ来て歩くだけでいいですから!」
地面に頭が付きそうな勢いで全員が頭を下げる。
「モデルくらい、いいんじゃないのぉ? 私だって全校生徒にさらし者にされた上に中身のない立派なことまで言うのよぉ」
校長先生の話をそんな風に感じている校長って……。
なんにせよ、いいことかもしれない。
「スコリィ、やってみろよ。ついでに係の人たちに雑貨屋の宣伝もしておいてくれ」
俺は焦っているスコリィにさらに追い打ちをかける。
両手をあげてオーバーに驚くスコリィ。
「え、てんちょーまで! しかもちゃっかり宣伝まで……!」
「給料あげようかなぁ」心にもないことを言ってみる。
スコリィは給料アップの誘惑にあらがうかどうか迷っているようだ。
その様子をみて、学生たちが畳みかける。
「お願いします! スコリィ先輩だけが頼りなんす!」
「……もう、わかったっす! やるっす! その代わりてんちょー! 給料、絶対に上げてほしいっす!」
にっと笑った俺は、再び手を合わせたのだった。
**(スコリィ:三人称)
「無理無理。こんなヒラヒラで薄っぺらいの無理!」
――女子更衣室。
そこで、スコリィは自分の姿を鏡で見る。まるで赤じゅうたんの上を歩く女優。
「これ、貴重な素材で作られた超魔法ドレスなんですよ! きれいなうえに強いんです! たいていの魔法ははじき返します!」
そういって背中が大きくあいたドレスの上からスコリィをたたく年長の先輩。
「ぎゃー! しかもフラグっぽいことまで!」
「フラグ? にしても、うーん、魅力が出せてないですね。従来のモデルより背が高いから……。作り直したいけど、時間ある?」
別の係りの人が時計を見ていう。
「あと約1時間です!」
威勢よく年長の先輩が声を張り上げる。
「ぎりぎりいけるな! お前ら徹夜明けだがまだいけるよな!」
「はいっ! もちろんです!」一同が、腕を振り上げて威勢よく返事する。
「……疲れてるなら、無理しないでほしいっす……!」
珍しく真っ当なことを言った彼女だが、そのボヤキはだれにも届くことはなかった。
**(三人称終わり)
***
「……じゃあ、みなさん、ケガには十分に注意して、仲良く楽しみましょう! グラスゴウン魔法学校夏至祭開幕です!」
朝の9時前。校長先生の短い話が終わって、夏至祭が始まった。
中央広場。俺は雑貨屋のルルドナ(小サイズ)と、ライムチャートちゃん、ペルセポネーちゃんと並んで開会式のセレモニーをきいていた。
デメテル様はゲストということで、準備があるからとどこかに行ってしまった。
ペルセポネーちゃんもデメテルさまと行く予定だったが、次のように提案してきた。
「あたし、ライムチャートちゃんとお祭り楽しんでいい?」
ライムチャートちゃんは、兄の魔力が不安定らしく、ずっと入れ替わっていた。
デメテル様は、二つ返事で了承した。
「もちろん、いいですよ。クタニさん、どうせボッチでしょう? この子たちの世話、お願いできるかしら?」
余計な言葉も聞こえたが、俺は了承した。
校長先生のあと、放送部から連絡放送が流れる。
「えー、では改めて、ルールの説明です。東西南北の寮ごとに、体育部門、文化部門それぞれ点数を競ってもらいます。魔法で回復できないレベルのけが人や病人を出したら減点、あるいは失格です」
……文化部門でも競争するんだ。
「後夜祭で優勝寮の発表が行われ、優勝寮には、ふかふかのベッドが送られます! このベッドはやばいです! 入って2秒で熟睡です! もちろん全ての部屋に設置です! それでは皆さん楽しんでください!」
放送部の個人的な感想はともかく、ふかふかのベッドの景品のために学生たちは歓声をあげ、自分たちの持ち場へ向かっていく。
学校イベントなんて、何年ぶりだろう。楽しかった記憶なんて全くないけど。
そういえば、一緒に見て回る友達もおらず、空き教室のベランダで静かに本を読んでいた記憶がある。
いやいや何を思いだしているんだ俺は。もう異世界に来たんだ。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
世話をすることになった少女二人に俺が手を出す。つい美少女二人を前に顔がにやける。
「え……、それはちょっと」
俺の手を汚物でも見るような目で見るライムチャートちゃん。
「私たち、そんなに子供じゃないの。二人で回れるわ」
ペルセポネーちゃんは俺の手を軽くはじく。
笑顔を引きつかせながら声をかける。
「いやほら、デメテル様から頼まれたし、危ないこともあるかもだし……」
ペルセポネーちゃんは強気だ。
「私たちとは途中ではぐれたって言ってくれればいいわ」
ライムチャートちゃんも追い打ちをかける。
「そ、そうですね。そ、そもそも私たちより、く、クタニさんのほうが弱いわけですし」
キミたちより弱い存在なんて、そうそういないけどな……。
「じゃあ、キミたちが俺を守ってよ、小さなボディガードさんたちっ」
なれない言葉遣いで、子どもたちに近づいたが、……後ずさりされる。
ペルセポネーちゃんがライムチャートちゃんをかばうように前に出て、彼女の手を取って走り出した。
「いや、やっぱりもう近くにいるのも無理です。じゃ!」
「で、では……」
二人は、大勢の人の間をすいすいと抜けて行ってしまった。
〈ポツン〉
……昨日、おかゆを作ってくれたのはいったい何だったのだろうか。子どもというのは気まぐれでわからない。
「……あんたっぽい感じになったわね」
胸ポケットでだまっていたルルドナがいう。
……ぼいとか言うなよ。
「じゃあ、ルルドナと二人で楽しもうか……!」
掌にミニサイズのルルドナを乗せて言う。それはそれで楽しそうだ。
「私は強制的にそろそろ寝ちゃうから無理よ」
あくびをしながらルルドナが言う。
「ま、スコリィのファッションショーまでは気合で起きてるわ」
意外と、ルルドナはスコリィのファッションショーを楽しみにしているようだ。
俺はため息をついて、まずはそれを楽しむことにした。
***
――魔法学校、中央広場。
これから、ファッションショーが開かれようとしていた。
『それでは、中央広場にて、寮対抗のファッションショーを始めます! 魔法で道がせりあがりランウェイになるのでお気を付けください!』
ゆっくりと舞台正面の道がせり上がる。
「お、きたきた」
俺はどう応援していいかわからないため、うちわとハチマキを頭に巻く。
確か、ネットで見たオタクはこうやっていた気がする。
「ファッションショーの掛け声ってどういうのかわかる? ルルドナ」
「いやそんなのないでしょ……。黙って見てなさいよ」
あきれているルルドナ。
そのあと、すぐに放送が入る。
『えー、モデルに毎回何かしらの魔法が飛んできますが、決して観客の皆さんは救助したりせず、見守ってください。衣装には防御魔法が編み込まれていますのでご安心ください』
その放送の注意に思わずつぶやく。
「……意外と危険なファッションショーなんだな」
「さすが魔法学校ね……」
ルルドナもあきれている。
『えー、また、魔法が観客席まで飛び散ることがあるかもしれませんが、基本的には観客席には結界がありますので、所定の位置から動かずにお願いします』
「おい本当に危ない感じだぞ。俺ら下がった方がよくないか」
「私が起きている間は大丈夫だろうけど……、あっちから魔法を出すみたいね」
ルルドナの声に合わせて視線を動かす。
魔法係が舞台前方の尖塔で手を振っているの見えた。
『さあ、準備は整いました! まずはトリさん寮の衣装からです! それではどうぞ!』
金髪の巻き髪のきれいな女性が、魔法学校の制服を豪華にし、宝石装飾を散りばめたような服でランウェイを歩く。
モデル歩き、立ち止まると、――火の玉が飛んできた。
彼女に当たる寸前、くるりと回ったかと思うと、火の玉は霧散した。
歓声が上がる。
『お見事! さて次は……イヌさん寮チーム!』
お見事って、ファッションショーの褒め言葉じゃないぞ……。
そうやって、一風変わったファッションショーは過ぎていった。
***
『さあ、お次の北のネコさん寮のモデルはゲストOBのスコリィさんです! 魔法実技と魔法観測でトップの成績で卒業した優秀な先輩です! ファッションショーにゲストOBが出るのは前代未聞ですが、自信があるのでしょうか? それではどうぞ!』
事情を知らないのか、容赦なくハードルをあげる司会。
(スコリィ、びびって出てこれないんじゃないのか……?)
しかし意外にもスコリィは、まるで本物の女優のように舞台に現れた。
長い露草色の髪にウェーブをかけ、目には明るい薄桜色のアイメイクをして、つけまつげもしている。口には紅をさし、もう本当にスコリィなのか疑うほどだ。
なりきった彼女は、ランウェイを確かな足取りで進んでいく。長身でモデル体型である彼女は、そもそも本業がモデルであるかのように振る舞った。
薄黄色のドレス。体のラインをほどよく強調し、幾重にも萌葱色の魔法文様の描かれたスカートをはいている。
まるで、深い森の中から出てきた妖精の結婚式の新婦と出会ってしまったようだった。
彼女は俺と目が合うと、ふっとほほえみを浮かべる。
……思わず、俺はうちわを落としてしまった。
〈オォーー!〉
観客席から驚きの声が上がる。
スコリィは目の前に迫った火の魔法を、まるで風を払うかのように軽々と片腕を振るって霧散させた。
――だが、その直後。
舞台に描かれていた魔法陣が激しく光りだした。
「!おい、あれは何だ!」
誰かが叫ぶ。
舞台中央に黒い影が広がり、その中からモンスターが何体も現れた。
それはまるで巨大なコウモリに、筋肉質な人間の脚を付け加えたような不気味なモンスターだった。
モンスターは迷わず、舞台上のスコリィめがけて襲いかかっていった。
スコリィ、もっと美人に書いてあげたかったですが、今の実力ではこの程度が限界です……。
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




