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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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倒れた主人公は『神の見えざる手・薬指』で回復する

【あらすじ】魔法学校の夏至祭の前夜祭(学校でとれた春・夏野菜とビールを飲み食いするだけ)で倒れてしまったクタニ。さて、今回は理事長の魔法が発動します。

ああ、まただ

また僕は こんな

情けない


でも、今なら……

たぶん立てる


あのときは何日も寝込んでいたけど


あれ、あのときっていつだっけ……?


**

「起きたわね」

ルルドナの声。大きなサイズ(とはいっても150センチくらいの小柄な体だが)になって僕の横に座っている。


目が覚めると、どこかのソファの上だった。野菜を焼いたりゆでたりするいいにおいがする。


ああこのトウモロコシをゆでるにおいって、なんでこんなに幸せな気分になるんだろう。

ドアの隙間から調理場と学生たちが見える。さほど時間はたっていないようだ。


僕の視界にずいっと入ってきたのは、食堂の女将さんだった。

「過労ですね。雑貨屋の店長とか言ってましたけど、休み……とってます?」

女将さんは慈悲に満ちた目で僕の顔を覗き込む。漆黒の黒い瞳。

僕は思わず目をそらして、考え込む。

「そういえば……、開店してから一日も休みという休みを取っていないなあ。かれこれ70日かなあ」

「暇なときはあったけどね」ルルドナがすかさず言う。

うるせえ。


「はあ……。自営業者はそういう人多いのよね。ここの卒業生もそうやって倒れる人、いたわ」


「ごめんなさい。私がビールをたくさん持ってきたばっかりに」とビールを飲みながら言うデメテル様。

「あの、奇跡魔法とかで回復してくれたりは……?」


「残念。ビールのアルコールは解毒しない主義なんです」にっこりと笑顔になるデメテル様。

主義で僕は魔法をかけてもらえなかったのか……。


「にしても無事でよかったぁ。心配したんですよぉ。ハチミツ注射しようとしたんですけどみんなに止められましたぁ」

テフラ校長が恐ろしいことをさらっと言う。

みんな、止めてくれてありがとう。ていうか、マジででこの人校長にしたの誰だよ……。


にしても、すごい美人たちに囲まれている。食堂の女将さんに、デメテル様、そしてテフラ校長。全員、女優にしていいほどの美人だ。


目のやりどころに困る。美人が多いと困ることもあるのか。


「てんちょーはもっとメリハリ付けたがいいっす。休憩中も土器みたいなの作ってばっかりだし、いつか倒れるって思ってたっす。あほっす」

スコリィもいた。部屋の隅でヤンキー座りをしている。なんだか機嫌が悪そうだ。楽しい前夜祭で倒れたからだろうか?


「とかいって、ここまで運んできてくれたのスコリィちゃんなのよ。お礼を言いなさい」デメテル様にそういわれ、僕は素直にお礼を言う。


「そうだったのか、ありがとう、スコリィ」

スコリィはその言葉をきいてそっぽを向いてしまう。

「き、給料アップのためっす!」


「……前向きに検討するよ。……いや、待てよ。そんな余裕あったか……? ていうか、いま、ペッカとガディに回してもらっているけど大丈夫なんだろうか」


僕は急に心配をしだした。24時間営業の雑貨屋。

フォレストドラゴンのペッカとデビルウンディーネのガディにまかせているけど、いくら伝説級の存在で体力が無限大にあるとはいっても、二人では負担が大きいだろう。


「あんたはまず自分の休みを検討しなさい」ルルドナにコツンと頭を小突かれる。


「あの二人なら、アタシらと違って体力は問題ないっす。むしろクレーマーにキレて暴れてないか不安っす」

スコリィが冷静に分析する。


「確かに……」妙に納得する。


そのとき、入口から声がした。

「ワシだって軽く1000連勤は超えとるぞ」


「アダムン・スミス理事長!」僕は驚いて声を出す。まさか理事長まで来てくれるとは。


「ほっほっほ。わしも前夜祭で野菜を調理したくなっての。実は料理好きなんじゃ。かわいい助手もおったしの」


「助手?」僕は首をかしげる。


「あ、あ、あの、よかったら、こ、これ」

そういって、いい匂いのする湯気の立つお椀を差し出してくれたのは、理事長の後ろに隠れていたライムチャートちゃんだ。

……おい、両手で差し出しながら顔を赤らめるな。こっちがドキドキするだろ。それ、告白の時のポーズだから……!

これだから世間知らずの引きこもりは……。


「あたしも作ったわ!」

ライムチャートちゃんのうしろからぴょんと飛び出して、なぜか誇らしげなペルセポネーちゃん。


美少女ふたり+理事長という謎ラインナップ――感無量だ。

「ありがとう……!」

受け取ったお椀の中には細かく刻んだ野菜とトウモロコシのおかゆが入っていた。


「トウモロコシのおかゆなんて初めてかもしれないな」僕はおかゆのいい匂いを嗅ぎながら言う。

「この辺りでは一般的な食べ物じゃよ」理事長は白髭をなでながら言う。

「へえ、じゃあ遠慮なく、いただきます」

そう言って、一口食べると、……急に涙が出てきた。

あふれて、止まらない。

「ど、どうしました?」ライムチャートちゃんがおどおどと心配する。

「感激のあまり涙が出てきたのよね!?」ペルセポネーちゃんも顔がこわばっている。


「いや、違うんだ。何かとても懐かしい感じがして……」僕は涙を急いでぬぐって言う。


「ほっほっほ。疲れがたまっておるんじゃろう。どれ、ちょっと失礼」


といって僕の肩に薬指をそっとおいて呪文を唱える。

「需要と供給よ、安定せよ。神の見えざるゴッズインビジブルハンド薬指キュア


そう唱えると、僕の体が白い光に包まれて、体の重みがすっときえた。

「す、すごい……! 体が、軽い……!」

僕は立ち上がって背伸びをする。まるで夏休み前の少年のように体が軽い。

《グウウウ~》

腹の虫が鳴る。僕は手に持ったおかゆを一気にかきこんだ。

食欲があるってすばらしい……! 


「おいしいよ、ありがとう! おかわり、ある?」

僕は少年のようにお椀を差し出す。

食事のときにおかわりを催促したのって、何年ぶりだろう。


「あ、あります……!」ライムチャートちゃんが鍋からお代わりを注いでくれる。


「よ、よかったです。まずかったのかと思いました」ほっとした声で僕に言う。


「ま、あたしは最初からわかってたけどね!」ペルセポネーちゃんは腕組みしてそっぽを向く。


ニコニコしてその様子を見ていたデメテル様が言う。

「すばらしいですね、理事長。もはやほぼ奇跡魔法ですよ、それ」


「ほっほっほ。おほめにあずかり光栄です。っと挨拶が遅れましたな。お久しぶりです、デメテル様。お越しいただきありがとうございます」


「お久しぶりです。アダムン・スミスさん。お招きいただきありがとうございます。今回の夏至祭は楽しくなりそうですね」


二人があいさつを交わす。旧知のようだが、僕はそのことには触れず、質問する。

「あの、奇跡魔法なんて僕に使ってよかったんですか? 魔力の消費が激しいのでは?」


「いやあ、薬指は特別じゃ。魔力消費はほとんどない。にしても久々に使ったからのう。うまくいくか心配じゃったが、デメテル様がいらっしゃるから。まあ理事長としての面目躍如ですかな」


「うまくいかなかったら……?」僕は思い切って聞いてみる。


「ほっほっほ……。そんなの、恐ろしくて言えんわい……!」

理事長は、両肩を抱き大げさに体を震わせてリアクションする。

……あれ、僕、子供みたいに遊ばれている?


「ふふふっ。とにかく、元気になったからよかったです。あ、でも、歯磨きはちゃんとして寝るんですよ」

デメテル様は機嫌がいいようだ。

……あれ、僕、子供扱いされている……?

「は、はあ」気の抜けた返事をする。


食堂の女将さんが続けて言う。

「あと、魔力のない人が魔法学校のビール飲みすぎちゃだめよ。酔いやすくなってるから」

はよいえや。って、魔力ゼロの僕が珍しいのか。


「ですよぉ。私の作った水あめのハチミツ割りドリンク飲みましょう~」ドロドロした液体を見せつけるテフラ校長。

ちょっとすごいもの作っているなこの人。


「せ、せっかくですけど、遠慮しときます」

差し出されたジョッキを断ると、しょぼくれて部屋の隅にいるスコリィに渡す校長。

「じゃあスコリィちゃん、はい」

「いいんすか!? あざっす!」

笑顔で受け取ったスコリィは子供のようにそれを飲み干す。

……お前、血糖スパイクで爆発するぞ。


「そんな目で見ないでほしいっす! ピクシー族はハチミツが大好きって常識っすよ!」


僕の視線にスコリィが反論するけど、口の周りのどろどろの液体がすべてを台無しにしている。


「さあさあ、今日はもうこの辺にしましょう。あなたたちはゲストなんですから、準備もないですし、ゆっくり休んでください」


といって、食堂の女将さんがお開きにした。


僕らはネコさん寮のゲストルームに泊まることになった。

その夜は、信じられないほど深い眠りにつくことができた。

……理事長の魔法、すごすぎ。


ただ、次の日は朝からイベント盛りだくさんなことは、僕は知る由もなかった……。

たまにでいいから少年のころの元気な体に戻りたいですね。


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