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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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魔法学校夏至祭にはギリシャ神話の神もやってくる――ゲスト芸能人的なノリで

【あらすじ】魔法学校の夏至祭に呼ばれてきた雑貨屋メンバーのクタニ、ルルドナ(小)、スコリィ、イゴラ(ライムチャートちゃんになっている)。一事件終えて、前夜祭としてビール飲みながら魔法学校の収穫された野菜つまんでいるところ。今日は詩はお休みです。

「いやー、運動のあとのビールって最高っすね!」

僕らは食堂に戻り、スコリィが豪快にビールを飲み干すのを眺めている。レンガパンを55個も食べておいて、平気そうにビールを飲み焼き鳥を食べている。


「運動っていうか、その怪しいパウダー作ったのお前だろ。『上五段活用パウダー』って妙な名前つけやがって……」


あのあと、ピラミッドのパンは、食品系部活動の人たちが回収して夏至祭で販売することになったらしい。

結局ぼろい商売はできるのかもしれない。


「いやいや、花粉研のみんなっす。といっても随分前のっすから、誰も解決方法しらなかったみたいっすね。いやあ、アタシがいてよかったっすね」

あっけらかんに答えるスコリィ。罪悪感はゼロらしい。いい性格だ……。


「にしても、お前の胃袋はどうなんているんだよ」

思わず彼女の腹をみる。へその出ている独特なジャージを着ているが、そのへその部分はまったく膨らんでいない。スレンダーなくびれがあるだけだ。


「ふふふ、ストーンピクシーは夜は肌が固くなるっすから、胃袋が膨らもうとしても上から押さえつけて膨らまないっす! だから夜はいくら飲み食いしても理想の体型が保たれるっす!」


「そうか、その設定生きていたのか!」僕は左手の掌を上にして、右手を握って、ポンとおく。がってん。


「設定とか言わないでほしいっす! 若い時は気にしてたっす」

若い時ってお前まだ子どもだろ。背がでかいだけじゃないか。


「とにかく、食べ過ぎて倒れるなよ……」


「前夜祭の食べ物はシンプルに調理しただけっすけど、格安でビール飲み放題っす! 倒れるまで食べてこそ、グラスゴウン魔法学校のエリートっす!」

ビールの泡を口元につけ言い切るスコリィ。

そんなエリートいねえよ。


「さすがねえ。スコリィちゃんは歴代一のエリートよ……! 飲み食いでは……!」おっとり女性校長のテフラさんはまだ僕たちと一緒にいた。というかスコリィがお気に入りのようだ。


「ビールの神様、デメテル様に捧げるっす!」

いや、デメテル様は豊潤の神様だよ、ギリシャ神話界隈から怒られるぞ。


――そういえば、あの二人は元気だろうか。

デメテル様とペルセポネーちゃん。邪伸タナトスからの襲撃を守り、古代樹の最期をともに見送った、ギリシャ神話異世界の神様親子。


僕はため息をついて食堂を見渡す。大きな体育館ほどもある食堂。

各自のテーブルでは、ヒト族を中心に、ドラゴン族や半魚人族まで様々な種族が食べて飲んでいる。肌の色も黄色から紫まで多彩だ。


大盛況だけど、食堂の女将さんは笑顔を絶やさずに動き回って忙しそうだ。……美しい。


僕らの席は控えめだ。ストーンピクシーのスコリィ、ゴーレム亜神のライムチャートちゃん、純粋ピクシー(多分)のテフラさん、ヒト族の僕、小さいままのルルドナ。


ペッカとガディがいればそれなりに賑やかな席になっていただろう。


僕のポケットで控えめに、……アーモンドを食べている。その姿はまるでハムスターのようで笑ってしまった。


「何笑っているのよ」気がついたルルドナが僕をにらみつける。


「いや、そのサイズでいいの?」


「このサイズのほうが低燃費でいいのよ。節約よ節約」


「節約ねえ……」


こんな時でも節約か。あきれて……いや、見習うべきなのか。


「若いうちに節約なんてしちゃだめよ!」

ききなれない女性の声がしたあと、ドンドンッっと大量のビールジョッキが置かれる。


僕らの席にやってきたのは、なんとギリシャ神話異世界からきた、デメテル様とその娘ペルセポネーちゃんだった。


***

「デメテル様!」


僕は思わず立ち上がろうとしたが、デメテル様にそっと肩を押さえられた。「目立つから、こっそりね」と。


ーーオリンポス12神のデメテル様。見た目は金髪美人だけど、わざわざギリシャ神話異世界から盆栽仲間に会いに来ている変わり者の神様。

「お久しぶりね、クタニくん。雑貨屋は順調かしら」僕にそう尋ねつつ、ペルセポネーちゃんと横に座る。……せっかく端っこに座っていたのに。


「ええ、まあぼちぼち……。どうして、魔法学校に……?」僕は渡されたビールを飲みながら答え、質問をする。


「そりゃあ、夏至祭とか作物に関する祭りには呼ばれたりするわ」そういってビールを一気飲みするデメテル様。

え、神様って呼べば来てくれるの……? 芸能人かよ。異世界ぱねえな。


「そう、私がお呼びしたんですよぉ。ビール飲み放題だって」

にこりと笑ってテフラ校長先生がビールを飲む。

「いやそっちかい! ていうか魔法で出せるでしょ!」


「ビール生成魔法って魔力使うんですよ。こっちに来れば魔力なしで飲めるんです。節約節約」


「結局節約かよ! ルルドナ、仲間がいてよかったな!」

さっき聞いたようなセリフを言われ、思わずツッコミする。ルルドナは満足げにドヤ顔をする。


「ふふふっ。相変わらず、面白い方ですね」


そういったデメテル様にまっすぐに見つめられ僕は慌ててビールジョッキをあおって視線を隠す。しっとりした青い瞳に見つめられるとなかなか冷静でいられなくなる。


**

「ペルセポネーちゃん、お、お久しぶりです」

ライムチャートちゃんがうれしそうにペルセポネーちゃんに話しかける。二人は魂を分け合った姉妹だ。


「うんっ! 元気してた!?」

大人しく母親の横に座っていたペルセポネーちゃんは、話しかけられて花が咲くように笑顔になる。彼女は今日はボクシングスタイルじゃなくて、白いワンピースを着ている。腹筋が割れているボクシングのスーパーキッズとは思えない。


「は、はい元気でした。あ、兄の中の、い、異空間で『博多女子の仁義と任侠シリーズ』を、よ、読み返してました」

……え、そんな自由に活動できる感じの空間がイゴラくんのなかに!? しかも持ち込み可能なの? ていうかもうちょっとまともなの読めよ!


「へえ! あたしも行って一緒に読みたい!」


「ぜ、ぜひ……! え、映画デッキもあります!」


兄の中の異空間に招待するってどういう状況だよ。映画デッキもあるってもう別の異世界じゃん。


考えるのをやめて、ビールを飲む。……うまい。

ビールをもくもくと飲んでいると、また別のところで話が始まった。


「それにしてもテフラちゃん、今年はビールの出来がいいわね」

デメテル様がテフラ校長に話しかける。ちゃん付けかよ。1万年以上生きた神様からみたら僕達なんてみんな同い年のガキみたいなものか。


「そうでしょ~。魔法肥料部が頑張ってくれたのぉ」

親しげに言葉を返すテフラ校長先生。


「それはすごいわ。今度見学させてもらおうかしら」

あ、豊潤の神様って肥料に肯定的なんだ。


「てんちょー、顔赤いっすよ。大丈夫っすか?」

スコリィが話しかけてくる。


「え、そうか? 美人が多いからじゃないか」

思わず手を顔に当てる。美人が横にいるとつい飲みすぎてしまうのはいけない癖だ。


「てんちょー……、さすがに神様にセクハラはまずいっす」

スコリィの言葉に僕はなんだかぼんやりしたまま答える……。


「何言ってるんだ……、スコリィもライムチャートちゃんも、テフラ校長も美人だろ」


と言った瞬間……、僕の意識は柔らかな闇に溶けていった。

さて、クタニは無事なのでしょうか?

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