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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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魔法のパンは止まらない! 魔法が効かないなら、スコリィが食べればいいじゃない

【あらすじ】魔法学校夏至祭にきた雑貨屋メンバー。イゴラくんに呼ばれて、おっとり系の女性校長とクタニとルルドナ(小さいまま)とスコリィが部室棟の広場にかけつける。レンガパンが魔法の粉で増え続け、ピラミッドのようになって、スコリィが一人で登り始めるが……。どうなることやら。

(また詩からはじまりますが、流し読みしてください……)


夜空に浮かぶ 丸い月


今日はどこか落ち着かない

あっちにうろうろこっちにうろうろ


何かを探しているの?


月だって何かを忘れることがあるの?


あーあ、今日は眠れない。


だって月と一緒に探し物をするんだから。


あっちにうろうろこっちにうろうろ


どうせ何も見つからないけど


いいの


真実はそんなものだから

***

レンガパンに登り始めたスコリィは、気が付けば5メートルくらいの高さに上っていた。


〈ポンッ〉

小気味よい音を立てて、レンガパンのピラミッドはまた大きくなる。頂上はもう校舎の五階部分と同じくらいの高さだ。


「うおっと!」


バランスを一瞬崩したスコリィは、天性のバランス感覚でふわりと少し離れたところに降り立つ。

退化したはずの背中の羽がひょこひょこと動く。


「きをつけろよー!」僕は下から声をかける。

「てんちょーみたいにどんくさくないっす!」片手をあげてふらふらするスコリィ。


お前それ、フラグになりかねないぞ……。


スコリィはその長い脚でひょいひょいと数段飛ばしで登っていく。


レンガパンピラミッドは定期的にポンッと表面がはじけて、四角錘がその表面にコーティングされるように大きくなっていく。


だけど、もうそのはじける衝撃には慣れてしまったかのように、スコリィはすいすいと山に登っていく。一番上の奴から食べていくつもりだろうか。


背が高くて足長くて天性の感覚があって、魔法観察眼もいいスコリィ。

……スポーツ漫画だったら、絶対エースじゃん。


僕が彼女の背中を見ながら分析していると、上級生っぽい人が注意してきた。腕に『警備』とかかれた腕章をつけている(※文字は自動翻訳)。

「下がってください! 大きくなるペースが速くなっています!」


魔法の灯りに照らされれるパンのピラミッド。暗くなるにつれてその大きくなる速度が上がっているみたいだ


「部室棟の生徒は避難させました!」


「結界は?」


「無理です! はじけると同時にかき消されます!」


「火の魔法は? 」


「無理です! 香ばしくなるだけです!」


「水の魔法は?」


「無理です! 表面のコーティングではじかれます!」


レンガパン、強いな。

「イゴラくん、何かあのパンの弱点はないの?」

……我ながら、パンの弱点をきくのは間抜けが気がするが。


「ボクもレンガパンがこんなに頑丈なんて知りませんでした。こんな事態になるなんて想定してなくて。お役に立てなくてすみません」

いや、ふつうはこんな事態ないから大丈夫だよ。


「私の重力魔法もダメよ」

ポケットから顔を出したルルドナは、端っこのパンに重力魔法をかけると、パンはふわっと弾力的に動いただけで、まったくダメージになっていないようだった。


「こちらも風飴魔法をかけてみましたが、表面が飴細工コーティングされただけですねぇ。おいしい~」

……なんかそんな気がしてた。ていうか誰だよこの人校長にしたの。


その間にスコリィはすいすいと登っていき、ほとんど頂上までたどり着いていた。

〈ポンッ〉

またはじける。


「部室棟に当たるぞー!!」警備の上級生が叫ぶ。


石造りの重厚な部室棟にピラミッドが迫る。


「ここはボクが!」

そういって、校舎とレンガパンの間に立つイゴラくん。


「そこは危ないぞ!」警備の人が叫ぶ。

イゴラくんが早口で応じる。

「多分大丈夫です! 応急措置ですが……! 岩よ、パンになれ! フルグルテン・ロック!」

〈ポンッ……フカフカ〉

固くなっていた下の段の建物の側が、すべて焼き立てパンになる。同時に香ばしいにおいが立ち込める。


「そうか、固い石や岩をパンにするオリジナル魔法!」

僕が崖から落ちたときに助けてもらった魔法の強化版だ。下の段はすべて固くなっていたから、魔法でパンにできたんだ。


パンが積み重なって石になって、また魔法でやわらかいパンにされているのか。異世界って複雑だなぁ。


〈ポンッ! ……ムニュ!〉

はじけたピラミッドは、石造りの建物にぶつかったが、焼き立てパンになっていたので、ムニュっと壁に当たっただけだった。


「おおー! 素晴らしい! もっとかけてくれ!」


上級生がそうほめて、もう一度、さらにもう一度、イゴラくんの魔法が発動する。

「物質を変える魔法なんて、何度も使って魔力持つのかしらぁ……。」校長先生が心配そうに見つめる。


「フルグルテン・ロック!」

何度目かの魔法を唱えたイゴラくんがピラミッド下の数段をパンにしたとき、……イゴラくんは倒れた。


***

「イゴラくん、大丈夫!?」

なんとなく予想していた僕は、彼が倒れる前に駆け寄って支える。……いや、小さいとはいえゴーレム。重いからゆっくりと地面に寝かせるので精一杯だった。

「クタニさん、……すみません、少し寝ます……」

そういって地面に横になったイゴラくんは目を閉じた。


――次の瞬間、神々しいまでの魔法陣が発生しイゴラくん包んだかと思うと、彼に変わって、妹のライムチャートちゃんが出現した。


いつもの、ぼさぼさの頭、ではなく、……髪は後ろに束ねて、魔法学校の制服をきている。心なしか頭のレンガの巨大な帽子も磨かれているようだった。


「やれやれ、ま、また騒動ですか」


……学校ではきちんとしているタイプか。吃り声もいつもよりおとなしい。大勢の生徒がいるからちょっと緊張しているようだけど。


「よかった! ライムチャートちゃんの還元魔法で、元のパンに戻してくれ!」

僕が彼女に早口で助けを求めると、彼女は僕を一瞥し、ため息をつく。


面倒そうなジト目はいつものままで、彼女はピラミッドをいろんな角度から観察する。


「こ、これはこれは、み見事ですね」

彼女が悠長に言うと、またはじけた。

〈ポンッ〉


「見事で巨大なのはわかっているから、早く何とかしてくれ! 増えるスピードが上がっているんだ。このままじゃ魔法学校の建物が飲み込まれてしまう!」

僕は彼女に必死に呼びかける。

しかし絶大な魔力を持つ彼女はのんびりと答える。

「な、何を焦っているんですか。いくら巨大とはいえ、あ、相手はパンですよ」

僕は彼女に言葉を返す。

「いや、下のほうはレンガのように固くなっているんだ!今はイゴラくんの魔法でパンになっているから安全だけど、このままじゃ建物は崩壊してしまうよ!」


彼女はため息をついてピラミッドに近づく。


「や、やはり見事ですね」


ライムチャートちゃんは、イゴラくんがパンにした部分に近づいて観察し、においをかいでいる。


「って、見事って、下のパンになってる部分かよ!」


そう言っているうちに、イゴラくんの魔法の効果が切れて、次は石の部分がぶつかるほど建物に近づいた。


「まったく、つ、ツッコミだけはさえてますね。そ、そうです、パンを増やしている魔法の薬も見事ですが、こ、このパンにする魔法は、と、とても見事なんです。さ、さすがお兄ちゃんです……」


ブラコンめ。パンを一口食ってるんじゃねーよ。


「って、どうして魔法の薬だと……?」

まだ説明はしていなかったはずだ。確かイゴラくんの後輩たちは魔法の粉を変えたと言っていたような。


「それはですね……。あ、成長、止まったみたいですね」

見上げた彼女の目線を追うと、ピラミッドの頂上付近でおなかをたたいて腕を上げたスコリィが見えた。


「てんちょー! やったっすー! 上の五段ぶん食べきったっすー!」


……大食い選手権のチャンピオンのしぐさじゃねーか。


ただ、そのおかげか、パンピラミッドの成長は完全に止まったようだ。


ひょいひょいと身軽に下りてきたスコリィは僕らの前に降り立って満足げにピースサインをする。

「いやあ、達成したっす! 上五段分食べれば止まるんすけど、やっぱり一人じゃ大変だったっす!」

「上五段のパンを食べれば、止まるって知ったのか?」


「実は……アタシ、知ってたっすよ。あの魔法の粉、花粉研で作ったやつっすもん」

スコリィが白々しく軽く手を振る。……騒動の原因の原因はお前かよ。


本人は気にしない様子で答える。

「積み重なるタイプのパンが一日は増え続けるパウダーっす。上の五段を食べれば止まるんすけど、パンはしっかり固定されてるんで、かぶりつくしかないっす。だから登って登って……食べたっす」


まるで高い山の登山を達成した登山家のように誇らしげだ。


僕はスコリィの行動に納得したようにつぶやく。

「みんなで登っても危なかったから、一人で登ったのか。ていうか上五段だけって、けっこうあるだろ。何個だよ」


「1+4+9+16+25で55個ね」ルルドナがポケットから面倒そうに答える。55個ってすげーなおい。


「やはり、そのタイプの魔法パウダーでしたか」ライムチャートちゃんも納得した顔で言う。


「その名も上五段活用パウダーっす」

……おまえそれ国語の先生に怒られるやつだぞ。


とっさに思いついたパウダー名ですが、国語の先生、叱らないでください。


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