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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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ストーンピクシーはハチミツ野菜食べてレンガパンの山に挑戦する

【あらすじ】魔法学校の図書館視聴覚室で映写機モンスターに襲われ、理事長の圧倒的な力で難を逃れた。夏至の前夜祭が始まるようだが……。さて、今回からまた詩をはさんでいきます。

夜の散歩はちょっと怖い

それでもじっとはしてられない


短い夜にサンダルはいて

こっそり夜に歩き出す


みんなの心が空に消え

夜空に輝く星になる


月の光に照らされて

星の輝き消えていく


窓の中には暖かな光

笑顔と空気が見えるけど

きっと一生縁がない


足音だけが世界に残り

足跡なんて消えていく


闇に溶けても世界は残る


きっとみんな気が付かない


自分が人間のふりをしているだけなんて、絶対に絶対に気が付かない。


***

映写機との戦闘を終えて、日が沈んだころ、俺たちは食堂に集まっていた。理事長は調べたいことがあると部屋に戻っていったが、校長はスコリィと食事したいと食堂に残った。


ルルドナはまたポケットで眠りだして、イゴラくんの姿は見えない。


今日から夏至祭の前夜祭らしい。

ゆでられたり揚げられたりした春野菜が大量にテーブルの上に並んでいる。


ここの夏至祭は一つの収穫祭でもあるらしい。


とはいっても、学生らしく準備の合間に食事をとってビールを飲んでいるだけだが。


「もう、大変だったのよぉ。スコリィちゃんもいてくれたらよかったのにぃ」

女性校長のテフラが姪っ子のスコリィに言う。


「そんな化け物なんてアタシの手には負えないっす」野菜にハチミツをドロドロとかけてスコリィが興味なさそうに返事をする。……お前それ全部食えよ。


「スコリィちゃんは優秀だから大丈夫よぉ。あ、ていうかさすがね、流行の食べ方知ってるわね。マナ力ハニーの野菜和え。魔力が回復するのよねぇ」

テフラ校長も負けじと野菜にハチミツをかける。

……流行ってたんかいっ!


「そんなことないっす。世の中バケモノばかりっす」

珍しく謙虚なスコリィ。まだ明るみの残る西の空を目を細めて見つめる。


まあ、確かにあの店とその周囲は強さがインフレしている。神様まできたしな……。

デメテル様とペルセポネーちゃん元気かなかぁ。


「謙虚になるのはいいけど、修業は続けるのよぉ」校長がたしなめる。……この異世界って修業とかする感じの価値観だったんだ。


「最近は朝練してるっす! イゴラくんと!」

親戚に絡まれて気まずそうだったのに、自分の頑張りを言う時だけ満面の笑みになるスコリィ。子どもか。


「あら、二人がまた仲良く行動しているなんてうれしいわぁ。てんちょーさんのおかげかしら?」校長がニコニコと人の好さそうな笑顔で俺を見つめる。黄緑色の独特の色の髪が揺れる。


「え?」

見事な模様のお皿を眺めていた俺は、きょとんとする。


「きっかけはそうかもしれないっす。店に借金あるけど気にしないっす」


「あらぁ、借金するなんて大人の階段上っちゃったわね」校長がのんきに答える。


「いや、下ったんでは……」

俺が控えめにツッコミをいれると、スコリィははちみつでべとべとになったキャベツを食べて言う。


「……アタシ、この年で借金なんて、てんちょーにけがされたっす……!」


〈バリバリバリバリバリバリ〉

スコリィの口いっぱいに詰め込まれたキャベツの音が響く。歯ごたえあるな。


「セリフと態度があってねーよ! ていうか誤解されるような言い方するんじゃねー!」


そのとき、イゴラくんが慌てた様子で走ってきた。


「み、みなさん! 大変です!」

広い食堂の中、イゴラくんが息を切らす。


その様子を見た俺は、イゴラくんが何か言う前に、食べ物を口に詰め込んだ。トラブルが起こったら夕食抜きになりかねないから。


***

「こ、これは……!」

イゴラくんにつれられて東の食品部活棟の前に来た俺たち。

驚きおののいた。駆けつけたのは、スコリィと俺、校長先生だ。……校長って、意外と暇なの……?


ともかく問題の物質を見て俺は思わずつぶやく。

「パンのピラミッド……!」

よく見慣れたレンガパンだけど、それがピラミッドの山のように積まれていた。その高さ、もはや3階建ての建物ほどもある。

「ピラミッド……?」不思議そうな顔でイゴラくんが見つめる。


(そうか、こちらの世界にはピラミッドはないのか)


「積み重なった山のことをピラミッドって言うんだよ」俺は簡単に説明する。


その直後、周囲からはじけるようにポンッと音がしたかと思うと、パンの山が増えた。


「おお、増えたっす!」スコリィがうれしそうに驚く。食べ物が増えて喜ぶのはいいけど、物事には限度がある。


「あのぅ、どうしてこんなことに?」おっとりした女校長、テフラさんが質問する。

「後輩たちがどんどん増える魔法の粉をかけてしまったみたいで」


「すみません~。夏至祭でぼろい商売をしようとかんがえてましたー」

……正直な後輩たちだな。

にしても食べ物系の部活は人気があるのか、パン研究会は多様な種族で構成されていた。ゴーレムにピクシーにリザード系の種族に、スライムっぽいのもいる。


にしても、この量は異常だ。

「このままだとこの世界がパンクするんじゃない?」ポケットに入ったルルドナが言う。


「いや、下のパンが重さでつぶされていくから心配ないよ」俺はどや顔で言う。パンなんかやわらかいものが大量に積み重なることはできない。我ながら名推理だ。


「ボクもそう考えていたんですけど、予想が外れてしまって」

イゴラくんが下の段のレンガパンをたたく。


〈コンコンッ〉


小気味よい硬質な音がする。


「「いやもうそれレンガじゃん! 建材だよ建材!」思わずツッコミをする。

「まさにそんな感じです。下のほうから石のように固くなっているから、きっといくら増えても立派に支え続けると思いますよ」冷静に答えるイゴラくん。


「俺の推理が外れるなんて……!」

「そんなたいそうな考えでもないでしょ!」

大げさに驚くと、ルルドナに胸ポケットから肩をたたかれる。最短ツッコミ……!


「とにかく、このまま放っておいたら学園中がパンだらけになります! 教室も廊下も埋まっちゃいます!」

イゴラくんの声が珍しく切迫している。


「まあ、魔法の粉にも限界があるでしょうし……」テフラ校長がおっとりと感想を言う。


「テフラ叔母さん、見込みが甘いっす。アタシが見る限り、このまま放置してたらあと一日は増え続けるっす」


そういったスコリィは、意外な行動に出たのだった。

「仕方ないっす、アタシが全部食べるっす!」

――いやいや、無理だろ!

さあ、スコリィはレンガパンのピラミッドを食べきることができるのか!?(笑)


感想・コメントお待ちしています!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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