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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第5章 団子屋と看板破壊編
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人の看板に傷をつけるやつは万死に値する

【あらすじ】店の方から助けを呼ぶ声。次はいったい何!? 

【登場キャラ】

・クタニ(主人公):転生者。若返り転生おっさん。中身はスローライフを目指すハニワオタク。空き家と山を買って借金生活。雑貨屋店長。

・ルルドナ:クタニの作ったハニワから生まれた少女。紅赤の髪に和風メイド服。強気だがやや抜けている。昼に強制的に寝てしまう夜勤担当。

・イゴラ:ミニゴーレム少年。最初の客。130センチくらい。

・スコリィ:ストーンピクシー。高身長スレンダー女子。180センチくらい。


「て、テンチョー!」


 しみじみ色んな角度から看板を眺めていると店の中から困っている声が聞こえた。


 いつのまに入ったのか、昨日のクレームおばさんがサングラスのフレームを上げ下げしていた。

「あら〜、あらあらあら、意外としっかりしているじゃない!」


 大きな看板はあまり効果がなかったようである。


「あの、……おはようございます」


「おはよう。看板もつけて、許可証もちゃんともらっているみたいねえ! 感心感心。……それで、肝心の食品がほとんど無いみたいだけど」


 総菜用の棚は早朝から業者さんが買っていたので、ほとんどカラになっていた。

「い、今から作りますので」


「だめよぉ、計画してなきゃあ。今から山仕事に行く人とか山を越えて隣村に行く人とかが買っていくんでしょ? 今から作っても間に合わないわ」


「そんなのやってみないとわからないでしょ」

 ルルドナがずいっと前に出る。


「そうかしらあ。ほら、下からお客さんたちが上ってきてるわよぉ」


 見れば、軽登山に行こうとしていル感じの老人団体が見えた。そのさらに後ろのほうには本格的に山仕事に行こうとしている人たちも見える。絶対に食品目当てだ。

 ガクリと膝をつく。

「ダメだ……、おしまいだ。この店は朝から食品も売り切れにしてしまうダメなコンビニとして後世語り継がれるんだ……」

 ネガティブモードに入る。


「てんちょー! かむばーっく」

 面白半分でスコリィが声をかけてくる。

 ……朝のコンビニの食品コーナーが空であることの失策の重大さを理解してない小娘め。


「落ち着きなさい! ていうかここ、コンビニじゃなくて雑貨屋でしょ!」

 

 ルルドナの声に、何とか立ち上がり。棚の奥へ向かう。

「……ひとまず、空いた棚のところに、小型ハニワを並べる」

「それはやめなさい」とルルドナ。

「やめたがいいっす」スコリィもすぐに言う。

 こういうときは息が合う。


「人形じゃなくてハニワ型のコップとか容器だよ。もしかしたら容器をほしいだけの人たちかもしれないし」


「そうかもだけど……」


「ともかく、食品はほぼ売り切れましたって説明するから」


「ほっほっほ、お困りのようね。私が力を貸してあげてもいいけど」

 そういって、彼女がバッグから取り出したのは、大量の団子だった。


「え?」


***

「ありがとうございましたー」

 なんとか、朝からの客たちに食べ物を売ることができた。

 団子はあんこっぽいものから、ゴマ団子、みたらし団子、ヨモギ団子とお年寄りの好みをしっかりと抑えていた。


「まさか、卸売業の人だったなんて」

 謎の婦人は、クレーマーではなく、卸売業者だった。もちろん、衛生管理許可証はもっていた。

 受け取った名刺には『瀬戸・ウェッジウッド』と書かれていた。


「正確には、仲卸業者ですけどね。おほほほほ」


「クレーマーじゃなかったんだ」

「んまあ! 失礼なっ」


「いやあしかし助かりました。これはほんのお礼です」

 俺は自慢のハニワを渡したが、微妙な顔をされた。


「ともかく、この団子をこれからはも置いてくれますかしら? 毎朝100個ほど、届けますわよ」

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」


「同じ転生者ですもの。もっとも私は、王子様と結婚してつつましく団子作りしながら幸せに暮らしてますけどね」


「え」

「王子……?」


「三十年ほど前に転生してね。悪役令嬢だったんだけど、紆余曲折あって王子様と駆け落ちして、お団子が美味しいお茶屋さんをやってたのよ。でもねえ、この歳でしょ? だんだん接客がきつくなっちゃったのよ。それで今は卸業をしてるのよ」


「悪役令嬢……」

 縁のないジャンルは勘弁してもらいたい。

「情報が多すぎるわね……」

 ルルドナは珍しくも口を半開きにし腕をだらりと下げ、呆れている。


「駆け落ち……! 推せるかもっす……!」

 何気なく言葉が漏れたスコリィ。しかしそれは失敗だった。急に表情を変えた瀬戸さんが怒声を上げる。


「あんたぁ! 私の王子様に手を出したらただじゃ置かないわよ!」


 スコリィが石のように固まる。というか石になった。

「ストーンピクシーの特性が……びっくりすると石化するのよね」

 ルルドナが「無理もないわ」と呆れた様子で石になったスコリィをコンコンとたたく。


「……まあともかく、団子の件は明日からお願いします。100個は売りさばく自信がないので60個でお願いします」


「おっほっほ、いいでしょう。こちらこそよろしくお願いしますよ」


***

 クレーマーおばさん、もとい瀬戸さんが帰ってから、一時間ほど過ぎた。

 ルルドナは寝てしまい、スコリィは石化からとけてビラ配りとパンの仕入れへ向かった。


 俺は店の外に出て看板を一人で眺めていた。

 『雑貨屋ルナクラフィ』

 看板を掲げると、なんだかむずがゆく感じてしまう。

 ただ、不安も大きい。

 ここで店をやるぞ! と宣言したようなものだ。

 だんだん不安が大きくなる。いろんなことがいつもより心配になる。


「……さ、粘土でもこねよう」

 こういうときは、粘土をこねるに限る。

 

 今日は少し森の奥に行って、質の違う粘土を取ってみよう、と俺は大きな袋とスコップを持って森の奥へと向かった。


 それが、大きな失敗であるとも知らず。


***

 裏山で黙々と粘土を取っていると、――爆発音が響いた。


〈ドッガ―ン!〉


 店の上方あたりだ。

 まるで大型の花火が近くで爆発したような音だった。


「なんだ?」


 店に戻ると、屋根の一部がえぐれ

 ――看板が、木っ端微塵になっていた。

「は?」


(何が起った? どういうことだ? 魔法攻撃? それともモンスター? それとも自然現象?)

 次々と疑問が浮かぶ。

 ぐるりと視線を巡らせても、辺りには何もいない。


――そこで、重大なことに思い至る。 

 

 家の中にはルルドナが――!


「ルルドナ!」


 崩れかけているにもかかわらず、奥へと駆け込む。

「ルルドナ! どこだ!?」


 しかし奥のソファにいるはずのルルドナはいなかった。建物をくまなくさがすも、見つけることはできなかった。

 そのとき――。


「すみませぇ―ん! 店長さんはぁ、いますかぁ〜?」


 外から、最悪レベルのクレーマーの声が響き渡る。


 そもそもクレーマーでなくとも語尾に「ぁ〜?」を付ける奴はろくでもない。

さてようやく異世界らしくなってきました。どこにいっても嫌な奴が多いのは異世界でも同じようです。


2025.2.19 誤字脱字説明不足など加筆修正しました。

2025.8.13 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

2025.10.16 微修正しました。

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