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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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魔法学校が調子に乗って最新機材を導入すると、だいたいろくなことにならない

【あらすじ】魔法学校の夏至祭に招待された雑貨屋メンバー。スコリィとイゴラは部活の後輩にあいさつしに行くといって別行動。クタニは校長のテフラと理事長のアダムンと一緒に概念の怪物についての記録を見るために図書館へ向かう。

「ここがグラスゴウン大学の図書館じゃ」

校長との話は、僕が調べ物をしたいと言ったせいで、ここで行われることになった。

校長テフラと理事長アダムン。学校の権力トップ2と行動するなんて……堅苦しいの苦手なのに。


(ルルドナ、起きてくれ……)

チラッとポケットのルルドナを見ると、彼女は一瞬だけ目を開け、また目を閉じる。

……狸寝入りかよ。


「視聴覚室、『記憶の泉』を使わせてもらいたいのですが」

校長が受付に言うと、受付の女性は笑顔で答える。

「はい! ちょうど最新の機材が入って、高画質な映像が見れるようになったんですよ」


「そりゃいい。タイミングが良かったのう。クタニくん」


洗練された雰囲気の図書館。内部のつくりは意外にもモダンで、何より空気が澄んでいる。

本を大切にしているのがよくわかる。


三人で視聴覚室に入る。

円形劇場みたいな座席。その中心には水面。


「じゃあ、つけますね」


係の人が操作すると、水面から映像が浮かび上がる。

「魔力で立体映像を出すんです。魔液晶って言うんですよ」

……もう、転生前の世界よりハイテクじゃん。


「すばらしいわぁ。お気に入りの映画もこれで見れるかしら」校長がほのぼのとつぶやくと、係の人は困った様子で答える。


「校長といえども私物化はちょっと……」


「えぇ~」

校長が子どものように残念がる。ていうか、映画あるの……?


「で、これで僕が調べたいことがわかるんですか?」僕は話を戻す。


「そうじゃ。『知識の泉』で、この図書館にある概念の怪物の記録を映像化できる。……引き込まれんようにな」


校長がそういうと、水面の映像が大きく広がって、視界いっぱいに広がった。まるで自分自身が転移したような錯覚に陥った。


***

〈ピチャン〉

遠くで水の音がしたかと思うと、周囲は別の場所、の映像になっていた。


まるで世界が雲の中に沈んでしまったかのような曇天。


その重さを認識した瞬間、上空で闇が集まる。


目の前には、重々しい装備をした3人の人物。


ナレーションが入る。

――それは最初の英雄たち。


(ん? 声が近いぞ……?)

顔を上げると、係の人が台本を読み上げていた。


「ナレーションは人力かい!」

「予算がなかったもので……」申し訳なさそうにする係の人。


その間にも映像は続く。

闇の塊はだんだんと大きくなり、天と地を結ぶオオカミのような姿になった。


――英雄たちは剣や魔法で立ち向かった。


炎を放つ。光を浴びせる。風を叩きつける。

だが、闇は炎を飲み込み、光を散らし、風をすり抜けた。


闇の塊は、その奥にいくつもの不気味な目を持ち、攻撃をじっと見、やがて、英雄たちに襲い掛かる。


――英雄たちはなすすべなく吹き飛ばされ、逃げ去った。


***

その次の英雄たちも、混沌の闇に飲み込まれ。

その次も、闇を前に逃げ去り。

そして……。


――向かい合う者は、誰もいなくなった。


人々はいつしか、自然現象のようにその怪物のことを恐れるようになった。


いや、恐れつつ、直視せず、その存在そのものが……忘れ去られた。


数百年、あるいは数千年おきにその謎の存在は世界を襲い、混乱をもたらし、文明を衰退、崩壊させてきた。

我々がいるのは、何度目の世界か、わかっていない。


***

映像が終わり、部屋が明るくなる。


「こんなに……?」


あまりに趣味の悪い、歴史映像。


唖然とする。こんなに牧歌的な異世界が、何度も崩壊してきた?


理事長アダムンは重い口調で言う。


「混沌の闇、闇の獣……錬金の怪物。時代によって様々な名で呼ばれた存在じゃ。魔女ヒルデはたしか、概念の怪物と呼んでおったな」


理事長の重い声に、僕は師匠の背中を思い出す。


「師匠は、この怪物を倒すために何百年も一人で研究を……?」


理事長が重くうなずいて言う。


「そうじゃ。一人でやるなんて正気の沙汰ではない。概念の怪物の姿は、時代によって千差万別じゃ。謎多き存在。はっきりしているのは、どの世界にも表れ、一度も倒せたことない」


「僕らが見たのは、単なる闇の煙のような存在で、自分のことをカケラだと」


「そうか……。やはり復活は近いじゃろう……。あと百年以上は先だと計算しておったのだが……。いかんせん、まだわしらの魔法体系では……」


絞り出すように悔しい声を出す理事長。


「……」


重い沈黙を破ったのは、ルルドナ。狸寝入りをやめて、発言する。


「カケラの残留物にだけど、私たちは勝つことができたわ。月の魔力で」


リュックのサイドポケットに入った小さなサイズのままルルドナ。


「ルルドナ!」僕は声を出す。

僕に軽く視線を向けた後、ルルドナは続ける。


「魔力節約のために小さいサイズでしゃべらせてもらうけど、あの残留物は物質的だったわ」


「おおこれはこれは、赤いお嬢さん。初めまして。理事長のアダムン・スミスです」

理事長はにこりと笑って小さなルルドナに話しかける。


「わあ、かわいい~! 校長のテフラですぅ」

校長の目が輝き、口からよだれが垂れる。その表情、最初のスコリィと重なる。

……やっぱり血縁者だ。


「初めまして。ルルドナよ。あの残留物だけなら、倒した記録があるんじゃないの?」

理事長が白いひげをなでながら言う。


「そうじゃが、映像にするほどのものは残っておらん。エルフ族や精霊族の記録になら、もしくは……。どちらにしろ、復活が近い理由をつきとめ、復活を遅らせるヒントを見つけねば……」


校長がおっとりしたまま核心をついたことを言う。


「もしかして、魔王モールのせいかもしれませんねぇ。ほらあ、どんどん新しいもの作って、時代を進めてるって若い子に人気じゃないですかあ。ここの機材だって魔王モールから仕入れたものだしぃ」


全員が目を丸くする。


理事長が、震えながらも力強く言う。

「……そ、それかもしれん!」


こんな感じで世界の核心に近づいていいの……?


「ということは、魔王モールの発展を止めさせれば、復活を遅らせることができる……?」


我ながら気の利いたまとめをできたと思ったら、予期せぬところから声がした。


『無駄だ。時代の流れは変わらんよ』

――は?


誰の声だ?

見回すと、部屋の隅に並ぶ映写機が、静かに赤い光を点滅させていた。

さあ、機材はどう戦うのか? 意外と強敵です笑


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!


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