焼き鳥投げる女性校長は、スコリィの叔母さん
【あらすじ】魔法学校の夏至祭にきた雑貨屋メンバーは、北の広場に侵入したモンスターのほかにモンスターが侵入していないか見て回っていた。異常なしとの報告が出て、臨時売店でおつまみとビールを飲んでいたが、校長がやってきて……。
「ごきげんよう、校長先生。まさかこんなタイミングでモンスターが侵入してくるとは思いませんでしたな」
理事長は落ち着いた様子で校長に言う。
背が高く、緑と黄色のグラデーションが美しい髪の、凛とした女性だった。
きっと、仕事をバリバリこなす生真面目なタイプか――そう思った瞬間。
「そういうこともありますよぉ~。ミントンちゃん、強いですねぇ~」
いや、おっとりしてるじゃん!
「ほっほっほ。おほめにあずかり光栄ですじゃ」
校長もリラックスして話しているし、悪い人ではないようだ。
「それで……、どうして逃げるのかしら~、スコリィちゃん」
校長が目を光らせて意外な人物に注意する。
「いやあ、逃げてるわけじゃないっす! お、おかわりっす! 焼き鳥追加で買ってくるっす!」
指摘されて焦りまくっているスコリィ。皿を持って食堂へ向かおうとしている。
……なんだ? 昔何かやらかしたのか?
「焼き鳥なら、ここにあるわよ!」
校長が言うと、その周囲から風が巻き上がり、焼き鳥がどこからともなくふわりと浮き上がり、スコリィにめがけて飛んでいく。
まるでそれは――弓矢の嵐。
「あぶない!」
俺が叫ぶと、スコリィは意外にも真剣な顔で俺を制する。
「てんちょー! 手出し無用っす!」
そういうと、飛んできた焼き鳥をすべて皿でいなしながら受け止める。
〈シュバ、シュバ、シュババッ!〉
見事に一本残らず皿で受け止める。
……いや、曲芸師かよ。
さすがピクシー、目がいいってだけじゃないな。
動きはやっ。
そういえば、魔王モールでの戦いでも飛んでくる矢を素手でつかんでいたような……。
周囲の生徒から拍手が巻き起こる。
〈パチパチパチパチ!〉
その後、周囲の人だかりから声が上がる。
「あれは、卒業生のスコリィ先輩よ!」
「実技歴代トップと言われるスコリィ先輩!?」
「素敵―! サインほしいー!」
周囲がスコリィを取り囲む。
……おい、人気者って聞いてないぞ。
「腕は落ちてないようね、スコリィちゃん」
生徒を掻き分けてスコリィの前に進み出た校長が満足げな声で言う。
「テフラ叔母さんも元気そうで何よりっす」
焼き鳥を一本かじりながらスコリィは答える。
「……って、叔母さん? え、親戚?」
俺のつぶやきを耳にしたスコリィが俺のほうに寄ってきて言う。
「そうっす。単なるハチミツの管理人だったピクシーの叔母さんが最近、校長デビューしたっす」
校長デビューって言葉、存在するの!?
「だからときどき、顔を曇らせていたのか……」
俺が最近のスコリィの表情に納得して言うと、ショックを受けたような顔で校長が言う。
「ええ、私と会うの、そんなにいやだったのぉ?」
「こんなことしてくるからっす!」
子どものように腕を振り上げてスコリィが言う。
その様子に全く動じずに校長が返す。
「だって、面白いからぁ。うふふ」
夢見がちな少女のような笑顔でスコリィを見る校長。
「それにしてもぉ~、一本くらい落とすと思ったのにぃ~、やっぱりスコリィちゃんは動きも素晴らしいわぁ」
「ものを粗末にしてはいけないって、いつもてんちょーに言われてるっす」
おいこちらに話の矛先を向けるな。
「あら、あなたが今のスコリィちゃんの言ってた雑貨屋の店長さん? こんにちは。初めまして。スコリィの叔母のテフラです。お会いできて光栄ですわ」
礼儀正しくお辞儀をする校長。
「こちらこそ光栄です。スコリィさんのバイト先の店長をさせてもらっているクタニです」
礼儀正しくお辞儀をし返す。
「うちのスコリィがご迷惑をかけていません?」校長は手を頬に当てて俺に言う。
「叔母さん! そういう話はしなくていいっす!」スコリィが焼き鳥を三本も口に運びながら話を止めようとする。落ち着けよ。
「いえ、彼女にはいつも助けてもらっておりまして……。仕入れとかしてもらっているんですよ。夜勤も文句言わずに入ってくれるし、愛嬌もあるから近所の方に評判で」
俺はできるだけほめておく。
しかしそれを聞いた校長は感極まった声を出す。
「そうですかぁ。なんだかうれしいですわ……!」
「ええ、もう、ほんとに……スコリィさんには助けられています」
いや、なにこれ。三者面談みたいになってきたんだけど。
この流れを断ち切ってくれたのは、他ならぬスコリィだった。
「はいはい! そんな湿っぽい話はいいっす! アタシ、部活の後輩に挨拶してくるっす! 夕食の時間には戻るっす! はい、てんちょー、残りの焼き鳥あげるっす!」
別に湿っぽくはないが、話を切ってくれたのはありがたい。こういう話、苦手なんだよね。
俺に残りの焼き鳥を押し付けて走り去るスコリィを一同が見送る。
「じゃあ、ボクもいいですか? パン作り研究会なんですけど」
予想通りの所属……!
「ああ。それじゃあ夕食の時に」
俺が返事をするとイゴラくんも元気に走り去った。
その元気な二人の影を満足げに見ながら、校長は俺に言う。
手にはビールジョッキ。
「じゃあ、夕食までお話ししましょうか、クタニさん」
……話の流れ、切れてなかった。
女性校長先生がおっとり癒し系だったらいいなあと思います。
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




