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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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魔法学校の長い廊下の先には、おやつとビールが待っている

【あらすじ】魔法学校の夏至祭に招かれた雑貨屋一同。モンスターに襲われたが、ミントンが倒してくれた。で、念のため見回りに。

「ではネコさん寮のアタシたちは北のエリアの見回りっすね」

スコリィが腕まくりして言う。

ていうかいつのまにネコさん寮に配属されたんだ……。


「え、僕たちも行くの?」


てっきりここで待機するとばかり思っていた僕は彼女の言葉に驚く。

「そりゃミントン先輩にばかりいい格好させられないっす」

……そんな理由? 僕があきれているとイゴラ君が続ける。

「それに、ボクたちは成績優秀者で呼ばれたんです。こういうときに活躍しないと」

「それもそうだな。それなら納得、だな」

深くうなづいて答えると、スコリィが不満そうに言う。

「アタシだけ扱いが悪いっす……。ていうか、てんちょーは役立たずだから残ってていいっすよ」


「いやほら、ハニワ人形が役に立つかもしれないし……」

ポケットに入れた小型ハニワを見せる。

スコリィどころかイゴラくんも露骨にいやそうな顔をする。


「おお、それが、創作魔法で作ったアーティファクトじゃな」理事長が近寄ってきて大げさに驚く。


「アーティファクトは大袈裟ですけど、まあ、そうですね」僕が謙遜して言う。ていうかハニワをアーティファクトというのは気が引けるぞ……。


「では、ワシも行こうかの。歩きながら日本の陶器魔法について話を聞こう。もし侵入者がいるのなら一か所にとどまっておくほうが危険かもしれん」


「じゃあ私は留守番ですね」とミントンさんはあっさり言う。


「ああ、頼むよ」

白いひげを撫でつけながら、理事長は率先して、見回りのため重い木の扉を開いた。


***

「で、クタニくんのハニワという焼き物は特殊な力があるのかね」


厚い石で敷き詰められた渡り廊下が、重厚なアーチの連なる石柱の列に沿ってまっすぐ続いている。

かつて神殿だったのではと思わせるほどの荘厳な柱と柱のあいだから、明るい新緑萌える中庭が垣間見える。

中庭に並ぶ古い石の彫刻。石材の一部は黒ずみ、刻まれた紋章の隙間には苔が入り込んでいた。


……その奥には、どう見ても場違いな、タケノコモンスターの生け花がでんと鎮座しているけど。


僕はそれらを横目に、理事長に答える。

「発動条件がわからないんですよね。魔王モールの結界破壊や、タナトスの無力化はできたんですけど、概念の怪物には効いていないようでした」


「おお、魔王モールの結界にタナトスまで! それは強力だ! 何か邪悪な力に反応するようじゃな! ほかの力は何かあるのかね?」

理事長が息まいて尋ねてくる。そんなにすごい感じではなかったんだけど……。


「えっと、……焼き物が一瞬で出来上がるスキルはあるようです」


「そ、それは……!」理事長が思わせぶりに驚く。


彼の続きの言葉を待たずに思わず尋ねる。


「もしかして、それもすごいスキルで、戦闘に応用できるとか……!?」

「……」


理事長のアダムンは考え込むように黙りこむ。


僕たちはごくりと唾をのむ。しばしの沈黙。皆の廊下を歩く音が厳かに響く。

「……さっぱりわからん!」


「わかないんかい!」

反射的にツッコミをしてしまう。


「てんちょー、理事長に失礼っす」失礼の塊のスコリィに注意される。

「さすがに今のはちょっと失礼ですよ」イゴラくんまで。


「いいの! 今のは大人の間ではツッコミまちなの!」僕は開き直って答える。


「ほっほっほ。クタニどのは面白いのう。ワシの若いころみたいじゃ」

理事長はニコニコしながら機嫌よさそうに言う。


「若いころ?」


「そうじゃ。昔はワシもおっちょこちょいでのう。あまり考えずに日常を過ごしておって、料理をこぼしたり偉い人に失言をしたりいろいろあったんじゃ」


「理事長の若いころ、アタシも知らないっす! ききたいっす!」


「ボクも知りたいです!」イゴラくんまで食いつく。


「これこれ。今はクタニどのの話じゃ……。まあわしのせいで話が脱線したんじゃが。ワシの話は夕食のときにでも話そう」


「やったー!」スコリィが元気に言う。いや、イゴラくんも嬉しそうに腕を上げている。

うーん、慕われているなあ。

二人を見ていたら理事長が話を続ける。

「話を脱線させてすまなんだの。では日本の陶器魔法について知ってることを教えてくれんか」


ずっと向こうに長い廊下の終わりが見えてきた。


「日本の陶器魔法なんて僕もさっぱりです。瀬戸焼の瀬戸さんが光魔法っぽいのを使って相手の魔法陣をなくしたり、備前さんが巨大な陶器で相手の攻撃防いだり封印したり、めちゃくちゃでしたよ。常滑さんは、平和になってコーヒー魔法ばかり熱中していたから反省して急須魔法を修行しなおすとか言ってましたけど」


「なるほどなるほど。やはり天性前の世界の陶器と関係あるようじゃな」


「六古窯は前回の勇者なんですよね? 記録とかないんですか?」僕が逆に尋ねる。


「うむ。そうじゃが、あっという間に表れて、あっという間に魔王を懲らしめてしまったからよくわからないんじゃ。世界を平和にしたら全員スローライフしたいからといって消えるし」


「ははは……」

やはり勇者の中でも六古窯は特別なんだ。


「でも、ミントンさんも特別な陶器魔法なんですよね?」


「そうじゃ。しかし、強力なのは確かじゃが、どうにも日本の陶器魔法だけ特別なようでの……」

理事長が言葉を切り、振り返る。


荘厳な廊下の終わり。僕たちは歩いてきた長い廊下を振り返る。

……意外と長い、石柱の並ぶ廊下。


「とにかく、ここは異常なしのようじゃな」


「あ、ボクが報告フクロウ飛ばしますよ」イゴラくんが言う。

彼の視線を追って天井を見ると、フクロウが何匹か眠っていた。

ちょっと不気味だけど、伝書バトみたいなものなのかな……。


「おお頼む」理事長が言うとイゴラくんは腕を上げてフクロウを呼ぶ。

フクロウはスーッとイゴラくんの腕に飛び乗る。灰色の小さなフクロウだ。


「異常なしです。報告をお願いします」

フクロウは表情を変えずにうなずくと、さっと飛び去った。

その向こう先の空には、いつの間にかうっすらと雲がかかっていた。


***

『えー放送部です。みなさん見回りご苦労様でした。すべてのエリアで異常はなかったようです。念のため警戒しつつ、夏至祭の準備に戻ってください』

やっぱり緊張感のない放送部の声。だけどひとまず異常がなかったようなのでホッとする。


安心した僕たちが廊下の角を曲がってピロティに出ると、声を掛けられる。

「では、異常はなかったようですので、おやつにしましょう」


そこには食堂の若女将がいた。テーブルに白いクロスをかぶせて、『臨時食堂売店』の旗をたて、お皿にコロッケなどの惣菜を並べている。魔法で温められているのか、湯気が立っている。


「おお、うまそうじゃな。一つもらおうかの」理事長がすぐに注文する。順応早いな。


「いや、おやつ多くないですか?」さっき食べたばかりなので思わず言ってしまう。


女将は笑顔で答える。その笑顔は屈託がなく、まるで少女の心のまま美しく年を重ねた食堂の女神。


「何言っているんですか。見回り大変だった先生方や生徒のために、残り物……じゃなくて、おいしいおやつを売ってあげるんですよ! アツアツのコロッケはいかがですかー」


……意外と商売上手だな。でもちょっと甘い。


僕は少し商売の先輩っぽく言葉を発する。

「おいしいからいいですけど、見回りで歩きまくったあとに熱いコロッケかあ」


ちょっと偉そうにぼやくと、目を光らせた若女将がテーブルの下からジョッキをとりだす。


「冷えたビールもありますよ。ここに並んでいるコロッケや総菜と相性ばっちりです」

めっちゃ商売上手だった!


「ください!」

即座に注文する。


「アタシもほしいっす!」続いてスコリィ。

「ボクも!」イゴラくんまで。


蒸し暑い日のビールは人を引き付ける魔力を持っているな……。


その後、あとからあとから生徒が集まってビールを注文する。

(※この世界のお酒は弱いものなら全年齢飲んでいい。ビールは弱いほう)


……この臨時売店で雑貨屋の一日の売り上げを抜かれそうだな……。


見回りをした一同で遠巻きに売店を見ながらビールとコロッケを楽しんでいると、後ろから声をかけられた。


「これはこれは理事長、ごきげんよう」


声をかけてきたのは茶色の髪をきれいに後ろに丸くまとめた、黒いメガネの似合う妙齢の女性だった。

ていうか、めっちゃ美人だな。耳がとがっているからエルフ族かもしれない。

気品ある態度に誰もが自然と姿勢を正した。


「おお、校長先生」理事長だけは自然体で答える。


そう、それはまさかの、若くして抜擢された女性校長先生だったのだ。

伝統ある魔法学校では異例の女性の校長。しかも、めちゃくちゃ美人。


ここ、食堂の女将から秘書から校長まで美人すぎない……? うれしいからいいけど。

校長は癒しキャラにするつもりです。


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