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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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魔法学校の先輩が理事長の秘書になっていることはよくある

【あらすじ】魔法学校の夏至祭に呼ばれた主人公たち。理事長に招かれ、理事長室で話をすることになったが……。

グラスゴウン魔法学校、理事長室。荘厳な木の扉がゆっくりと開く。

そこにいたのは若草色のショートヘアに、銀縁眼鏡、真っ黒なスーツを着込んだ女の子だった。


若草色のショートヘアには金色のメビウスの輪のようなヘアピンがつけられていた。

その瞳は淡い桜色で、まるで春の野原に咲いた可憐な花。


「理事長、おかえりなさいませ、書類整理終わりました……ってスコリィ!?」

可憐な花の表情が崩れる。


「あ、ミントン先輩、ちーっす!」

露骨に嫌な顔をされたスコリィはまったく気にせず、片手をあげ挨拶する。

理事長室の荘厳な雰囲気を台無しにしているが気にする様子はない。


「ミントンくん、彼女とは?」理事長がミントンに尋ねる。


「えっと、彼女とは同じ部活をしておりまして……」ミントンは目を泳がせながら返事をする。


「ほお! それもまた運命かのう。スコリィくんたちは今回の夏至祭のゲストじゃ。みなさん、こちらは秘書のミントンくん。とにかくお掛けなさい」

小さな白髭の理事長アダムン・スミスが僕たちに高級ソファを勧める。


「あ、どうも」僕は見慣れない上質なソファにおずおずと腰掛ける。

「失礼しまーす!」スコリィが勢いよく座る。

「失礼します」イゴラくんは相変わらず礼儀正しい。


「こうして優秀な生徒と話せるのが何よりの楽しみで」


「いやあ優秀なんて、……事実なんすけどね!」

「おいスコリィ! さすがにこういう場では控えろよ」


「いや、いいんじゃいいんじゃ。そういうところも含めて優秀なんじゃ」

「はぁ……」

優秀ねえ、と僕がジトリと真ん中に座ったスコリィを見る。

その視線に気が付いたスコリィはソファにふんぞり返って僕に言う。


「てんちょーわかってないっす! ドラゴンとか水の精霊とかいるから感覚がおかしくなってるっす!」


そういって頬を膨らませて足を組み直す。

……こいつマジで足長いな。隣に座らなきゃよかった。


イゴラくんもスコリィを擁護する。

「そうですよ、クタニさん。スコリィさんの使う合成魔法って高難易度なんですよ。ここの卒業生でも数えるほどしか使えません」


「へえそうなんだ」

僕が棒読みで相槌を打つと、理事長が続ける。


「そうですぞ。この子は一人でよく努力していたんですぞ。よくここにも相談に来ておってのう」

その言葉にスコリィが両手を広げてふりながら理事長に言う。


「ちょ、理事長! それは言わない約束っす……!」


「ほっほっほ。このメンバーならかまわないじゃろう」


理事長の言葉にスコリィはじっとこちらを見る。


「……いや、何かてんちょーには知られたくなかったっす」


僕はにやにやしてスコリィに声をかける。


「いいじゃないか、一人ぼっちの頑張り屋さん」

「ぎゃー! こういう感じになるからイヤだったっす!」


スコリィが頭を抱えて足をバタバタする。

イゴラくんが僕をたしなめる。

「からかっちゃだめですよ、クタニさん」


「すまない、イゴラくん……。このネタはいざというときのためにとっておくよ」

満足した感じで僕は何度もうなづく。


「いやーっ! てんちょーこういうネタの扱いがうまそうっすー!」

スコリィは両手を頭に当てて大げさに振っている。


その様子にニコニコしながら理事長がいう。

「クタニどのは、ずいぶん慕われておるようじゃ」


「いえ、そんなことは……。ところでお招きいただいたのはうれしいのですが、なぜ僕までを……?」


理事長はその白いひげを撫でつけて、少し申し訳なさそうに告げる。


「夏至祭を楽しんでもらうため、というのは建前で……」


少しだけ申し訳なさそうにこちらに向き直って、声を落として言う。


「直接、聞きたいことがあるんじゃ。三つほど、な。古代樹のこと、魔女ヒルデガルドと概念の怪物のこと、そして最後に陶器魔法についてじゃ……」

……陶器魔法について?


理事長の言葉が終わるのと同時に、ミントンさんがお茶を運んできてくれた。

香ばしいお茶のかおりが部屋に広がる。


「粗茶ですが」


と言われて運ばれてきたのは紅茶だ。

いかにも西洋風の白いティーカップに、新緑をあしらった模様が描かれている。

僕らはお礼を言って、受け取る。


「まずは、古代樹のことじゃが、なくなってしまったのは本当かな?」


僕は見上げるように返事をする。

「ええ。最後に花見をしましたよ」


「それはうらやましい……。まあ西の古代樹のことはわかっていたことじゃ。では、イゴラくんに特別な変化もあったのかね。例えば、身近な存在が生きていたとか……」

イゴラくんは顔を上げて返事をする。

「……! はい!」


「そうか。それはよかった……。少しだけ事情は知っておったのだが……、理事長として、何もできずにすまんのう」

イゴラくんはゆっくりと首を振る。

「僕もやっぱり何もできませんでした。妹が生きているだけで十分です」

にっこりと笑顔を作った理事長が言う。


「そうか、そうじゃな。……その謙虚さと優しさが君の持っている一番の宝だよ。大事にしなさい」


「……はい!」


イゴラくんの返事に満面の笑みを宇影、白髭を撫でつけた理事長は、改めて僕に向き合う。

「それで、概念の怪物のことじゃが。魔女ヒルデガルドが命と引き換えに追い払ったというが?」

僕は思わず姿勢を正す。


「……! どうしてそれを?」


「いや、魔女たちが教えてくれたんじゃ。本来、魔法学校と魔女たちは相容れないのじゃが……、今回は伝説の魔女の死と概念の怪物の復活の兆し。特別に、報告だけ受け取ったんじゃ」


「そうでしたか……。魔女ヒルデは、いつもはコスプレばかりしてふざけていた感じでしたが、最期は、命の時間と引き換えに、時空魔法を使って……」


「……! なるほど、時空魔法を! それならば一時的には概念の怪物をも退けられる。しかしあの魔女ですら命の時間と引き換えにしなければならないのは」


「時空魔法ってそんなにすごいんですか?」


「原則的に時間魔法や空間魔法は禁忌。それを二つ同時に扱うのが時空魔法じゃ。しかも相手はあの概念の怪物。たった一人で追い払ったのだ。神レベルの魔力を使い、命を燃やし尽くしたのじゃろう……」


「概念の怪物は、本体が復活したらまた会おうと言ってました」


「やはり、復活が近いのか……。早い、あまりに早すぎる……!」

理事長はこぶしを握り締める。


助手のミントンさんがそっと声をかける。

「理事長、落ち着いてください。ここで焦っても仕方ありません」

「おお、そうじゃな」


理事長が、ミントンに優しい視線を向けた、そのとき。


〈ブオーンブオーン! ブオーンブオーン!〉


学校中の建物から警報音が鳴り響いているようだった。

続けて声の放送。

『侵入者です! 侵入者です! 攻撃魔法の使える上級生は北の広場に集まってください!』


放送を聞いたスコリィがソファから飛び上がり窓へ駆け寄る。

「北の広場!? ここの目の前っす! って、やばいのがいるっす!」

皆で駆け寄る。


四階の理事長室から見下ろした先には、まるでタケノコに大量の目玉をくっつけたようなモンスターが、……次々と地面からぐにょぐにょと生えていた。

出てきたのはタケノコとチンアナゴが合体して目玉をつけたようなモンスターです。


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