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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
123/129

グラスゴウン魔法学校理事長のアダムン・スミスはコロッケが好き

【あらすじ】魔法学校の夏至祭に呼ばれたクタニとルルドナ(リュックのポケットの中で寝てる)、スコリィ、イゴラ。転移魔法の先が魔法学校の食堂だったので、三時のおやつを取ることに……。


【登場キャラ】クタニ:主人公。転生者。戦闘力ほぼゼロ。粘土をこねて作品を作ると焼きあがる特殊スキルがある。たまに創作物が特殊な力を持つ。焼き物作り担当。


ルルドナ:クタニの涙入りのハニワ土器から生まれた少女。赤茶色の髪に喫茶風の和服。元AI彼女。強気だが感情に乏しい。重力魔法が使える。雑貨屋メンバーでは最強? 会計担当。


スコリィ:高身長のストーンピクシー。雑貨屋に借金があり、バイトして返そうとしている。魔法は石と風の合成魔法。「~っす」が口癖。仕入れ担当。


イゴラ:背の低いゴーレム少年。ふもとの村のパン屋にいたが今は雑貨屋の専属のパン職人。防御魔法が得意。最近はパン魔法も使えるようになってきた。レンガパンが得意。


魔法学校に転移してきたのはいいけど、なぜかいきなり食堂でおやつタイムになってしまった。

「ところでさ、異世界って祭りばっかりやってるイメージない?」


スコリィはハチミツ練乳金時のかき氷、イゴラくんはブロック状のところてん、僕はなぜかコロッケ。暑いのに。


人影まばらな食堂。種族も分からない異世界人たちが、互いに干渉せず黙々と食事をしている。


昔を思い出しているのか、目の前の二人は少し心ここにあらずだが、イゴラくんは返事をくれた。

「祭り、多いですか?」


ていうか、イゴラくんのところてん、ブロック状のままなんだけど……。まるで透明なレンガじゃん。

見なかったことにして、僕は言葉を続ける。


「魔王モールの新月祭に、ワルプルギスの夜の宴に、夏至祭に、……祭りばっかりじゃん」


祭りばかりで悪いわけじゃないんだけど。

ところてんを器用にかみ切ってイゴラくんが答える。


「そうですかね……? ワルプルギスの夜の祭りをいまだにやっているところなんて滅多にないですよ。まあでも多い、のかもしれませんね」


スコリィがスプーンに山盛りにしたかき氷を口に入れてから行儀悪くしゃべる。

「そもそも、祭りは異世界人が持ち込んだ文化っす。異世界の文化と混じっているかもしれないっすけど、名前は残っているっす」


「そういうことか……」

僕は納得して返事をし、一口サイズの丸いコロッケを口に運ぶ。

「……!」

暑い日にコロッケを頼んでしまったけど、……これめっちゃうまいぞ。食べやすいし。


「てんちょー、コロッケ一個ほしいっす」

「子どもみたいなこと言うなよ……。別にいいけど。イゴラくんもいる?」

「いえ、ボクは丸いものはちょっと……」

え、イゴラくん、形で好物を選んでたの……? そういえばレンガパンって四角だな……。


僕はスコリィのほうにコロッケの乗った皿を差し出す。

「いただきまーす」

スプーンで器用にコロッケをすくい取ってスコリィが口を大きく開けて行儀悪く食べる。

「その明るさがうらやましいよ……」

にしてもこのコロッケの皿、真っ白でいい皿使っているな……。名門の皿なのかな?

僕が皿を見つめているとイゴラくんが説明をしてくれる。

「とにかく、世界には祭りってなかったんですよ。収穫祭みたいなことはしていたみたいですけど、単にお酒飲んでいただけみたいですし。名前とか儀式とか持ち込んだのは異世界人ですよ。ずっと昔の話ですけど」


その説明に僕はなんとなく言葉をつなげる。

「だから祭りの名前がかぶっているのか。まぁ、転生前の世界では祭りなんて声がでかいやつが騒ぐだけの場になっているし、こっちで生き残るほうが祭りも幸せなのかもなぁ」


僕が誰にともなくつぶやいた言葉に、いつの間にか隣に座っていた人物が感心した声を出す。


「祭りにとって幸せ、ですか。興味深い考えをしますな」


突然隣からの声。

「うわ!」


驚いて椅子から転げ落ちる僕。その視線の先、隣には白ヒゲをたくわえ、立派なとんがり帽子をかぶった――幼児ほどの背丈の小さなおじいさんが座っていた。妙なオーラが漂っている。


彼の目の前のテーブルにはコロッケの皿が乗っている。


「ほっほっほ。こんにちは、クタニどの。いいこけっぷりですな」


「日ごろから元気のいい店員たちに囲まれて鍛えてますので……。ってなぜ僕の名前を? ていうかどちら様で?」


「これは申し遅れました。私はこのグラスゴウン魔法学校の理事長、アダムン・スミスです。クタニどののことは手紙で存じ上げていますよ」


スコリィが身を乗り出して言う。

「理事長、お久しぶりっす! 手紙読んでくれてうれしいっす!」


……またお前か。


理事長はニコニコして返事をする。

「ほっほっほ。おひさしぶりです。スコリィさん。相変わらず元気ですばらしいですね」


イゴラくんも礼儀正しくお辞儀をする。

「お久しぶりです、アダムン先生」


少しだけ眉を上げ、やはりニコニコとした表情に戻って理事長がイゴラくんに声をかける。

「おひさしぶりです。イゴラくん。……あなたは特殊な魔力を身に着けたみたいですね。まあ、込み入った話はあとから話すことにします」


一瞬で彼の変化に気が付いた理事長。きっと妹のライムチャートちゃんの魔力のことだろう。

イゴラくんは感極まったように返事をする。


「……! はい!」

僕は床からゆっくりと椅子に戻りながら彼らのやり取りを眺める。


……ああ、何かとても言葉では表しきれない信頼関係を感じる。二人が全幅の信頼をしているのがわかる。……僕はまだまだだなあ。


そう心の中でひっそりと反省していると、理事長がこちらに笑顔を向ける。


「お二人がこんなに元気に過ごせているのは、ひとえにクタニどののおかげですな。卒業生が元気にしていることは本当にこの上ない幸せです。ありがとう、クタニどの」


理事長に改まってお礼を言われる。

偉大な人物の予想外の行動にどぎまぎする。

「い、いえ、そんな……。僕は何も……」


困惑する僕をよそに、理事長は続ける。


「この魔法学校は極めて強力な魔法を教えます。卒業して力に溺れる者も少なくありません。この二人ほどの優秀な生徒がこんなに素直に過ごしているのはあなたのおかげというよりほかないでしょう」


……スコリィが推し活してること知ったら倒れるんじゃないだろうか。

僕がちらりとスコリィの顔をちらっと見ると、下手くそなウィンクをしていた。


わかったよ、と心の中でうなづいた僕は理事長に言う。

「ともかく、今回はお招きありがとうございます。だけど、どうして僕なんかを?」


「その話をするには、見せたいものもありますし、理事長室に来てもらいましょうか。よろしいですか?」


理事長は小さなコロッケを一つ口に運ぶと、紅茶を飲み干し、静かに席を立った。

魔法学校のモデルはグラスゴー大学です。理事長のモデルはアダム・スミスです。ほとんど想像ですが。メッセージは込めたいと思います!それでは魔法学校編続きをお楽しみください!


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