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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
122/198

旅立ち前のコーヒーと魔法学校食堂の若女将

【あらすじ】雑貨屋に魔法学校から夏至祭の招待状が届いたので、向かっています。メンバーは、クタニ、ルルドナ、スコリィ、イゴラくんです。雑貨屋に居残りは、ペッカ、ガディ、スラコロウです。

丘を下り、俺らは徒歩で移動していた。


田舎人にとってはすぐの、徒歩4時間の最寄りの都市、ミッドライフシティ。


「てんちょー、まさかぜんぶ徒歩で移動じゃないっすよね?」


面倒そうに腕を伸ばしたスコリィの声に俺は質問を返す。


「ミッドライフシティから馬車を使うつもりだけど……。ていうか魔法学校からの招待なんだから、転移魔法とかで招待してくれないの?」


スコリィがあきれたように返事をする。

「世の中そんなに甘くないっす」


続いてイゴラくん。

「転移魔法って、ものすごく魔力を使うんですよ。準備しても失敗することもあるし」


「へぇ。……え、じゃあペッカってすごいことしてたの? 森の木材を加工して召喚してたけど」


俺の質問に、スコリィが大げさに答える。

「めちゃすごいっす!」


またイゴラくんが説明を加えてくれる。

「しかもあれ、召喚している間はずっと魔力が垂れ流し状態だから、相当な魔力がいりますよ」


「ペッカってそんなすごいやつだったんだ。さすがドラゴン……」

自分の弱さを気にしていた小さなドラゴンに感心していると俺のリュックのサイドポケットから声がした。


小さくなって入り込んだルルドナだ。

「魔法だろうが何だろうが、きちんと移動しててね。じゃあ、私は寝てるから……よろしくね……」


すっかりサイズを小さくすることに慣れたルルドナは、手のひらサイズになって眠ってしまった。


歩いているとイゴラくんが、思いついたように俺に提案する。

「ちょっと手紙見せてもらえます?」


「もちろん」

ポケットから手紙を取り出して渡す。


隅々まで目を通す彼はうなづいて顔を上げる。

「あ、やっぱり、これ持ってたら、ミッドライフシティから転移できますよ」

彼の示したところ、手紙の隅に魔法陣が描かれていた。


嘘から出たまことって本当にあるから、言ってみるものだ。


俺とスコリィは顔を見合わせて喜ぶ。


俺は馬車代が浮いたことを喜び、スコリィは別の意味で喜んでいるようだった。


空は青く澄みわたり、太陽は真上を射すように照りつけている。

妙な熱気が俺たちの体を覆っていた。


***

昼過ぎに着いたミッドライフシティ。

3人でランチをとり、食後に常滑さんの喫茶店に行くことにした。


「へえ、グラスゴウン魔法学校に行くんですか」


細身でスキンヘッドの黒いベストを決めた常滑さんは、相変わらず最高のコーヒーを出してくれた。

店には俺たちのほかに誰もいない。

しんとした店内は、外界から隔絶された静けさを保っていた。


「夏至祭っていうのに呼ばれて……。何か知ってます?」


「ああ、魔法学校の夏至祭ですか。聞いたことはありますが、……よくは知りません。私はほとんどここから動いてませんし。お客から聞いた話では、毎年ハイレベルな召喚対戦をしているみたいですよ」


ハイレベルという単語にちょっと不安になる。

「祭りなんだから危険はないですよね?」


「私はそこまでは……」


常滑さんが視線を向けると、はちみつを入れまくったコーヒーを堪能していたスコリィが八重歯を見せつけていじわるそうに答える。


「いや、毎年趣向が違って、たまにけが人出たりしてるっす。てんちょーはたぶん大けがっす!」


「スコリィさん、脅しちゃだめですよ。けが人というより、魔力を使い果たして過労で倒れる生徒が何人かいるだけです。ちゃんと保健室もありますし、大丈夫ですよ。死人も俺が知る限りでは出たことありませんし」


イゴラ君がフォローしてくれるが、不安が大きくなっただけだった。

「急に心配になってきたんだけど……」


今からでも断ろうかと迷っていると、常滑さんが笑顔で俺にいう。

「大丈夫ですよ。帰りもぜひうちの喫茶店に寄ってください。次はおいしい緑茶も出しますよ。現役の勘を取り戻した緑茶魔法なら魔王の呪いだって浄化できます」


「ははは」

笑って返事をするけど、そのレベルの呪いがかかる可能性があるの?

コーヒーを飲み干してからになった陶器を見つめた俺はあの恐ろしい存在を思い出す。

「……あの怪物は、また出ると思います?」


常滑さんは俺の不安を取り除くようにやわらかい声を出す。

「さすがに、本体の一部が出ることありませんよ。残留物はあるかもですが、魔法学校なら大丈夫でしょう。……それより、魔法学校にはどうも魔王モールの機材営業部門がうまく入り込んでいるみたいですので気を付けてください」


聞いた瞬間、すぐ理解する。

ああ、学校に安物の機材を売りつけて利益を得ているタイプか……。


「ええ、そいつらにかわってハニワを売りつけてやりますよ」

親指を立て、無理にほほ笑んだが、……絶対に何か事件が起こると思わずにはいられなかった。


**

転移魔法で移動した俺たちは、魔法学校に無事についた。

……だけどなんと、最初から――食堂にいた。


「あら、スコリィちゃん、イゴラくん、いつものおやつ?」


午後2時過ぎ、人影がまばらになった食堂。その席数はざっと100を超える。

皿洗いをしていた女性は元気に微笑んでこちらに声をかける。


たすき掛けをした割烹着に、黒髪を結い上げ、凛とした姿は若々しく、まるで妖精の女王みたいだった。

見とれていると、スコリィが手を挙げて笑顔で言う。


「あ、おばちゃん! 久しぶりっす! いつものハチミツ練乳金時くださいっす」

続いてイゴラくんもお辞儀をして注文する。

「お久しぶりです。俺もいつものところてんください」


久しぶりって言った後に、いつもの、って異世界人の時間感覚、どうなっているんだよ。


「はい、少々お待ちください」

はじけるような笑顔。とても食堂のおばちゃんとは思えない礼儀正しいまっすぐな癒し。


もはや料亭の若女将じゃん。おばちゃんとか言うなスコリィ。


「そちらの素敵な殿方は?」

黒い瞳がこちらを見る。まるで射抜くようなまっすぐな視線。


「じゃあ、俺もいつもの、……って何言ってるんですかね、はははは」


つい、俺はいつもの、って言ってしまった。

いやでも、ここは何かとても懐かしい感じがする。

ほとんど覚えていないけど大学のころの食堂によく似ている。食堂効果だろうか?


キョロキョロと視線を動かしている俺の動揺を察してか、食堂のおばちゃん、いや若女将は、満面の笑顔で俺に言う。


「では、いつもの、コロッケでいいですか? ちょうど取れたてのジャガイモがたくさん入ったんですよ」

花が咲くような笑顔。俺はコクリと頷く。


決めた、俺はここの常連になる。


――この食堂の若女将に会いに。

いきなり食堂でおやつ食べることになった。次回、重大な何かが起こります。



2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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