表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
121/132

魔法学校の夏至祭に呼ばれても不安しかない

【あらすじ】魔法学校の招待状が届いたが……。

飛び去る灰色フクロウは、明らかに魔法学校からの使者だった。

運ばれてきた手紙は次のように書かれていた。(※文字は自動翻訳)


『雑貨屋さまへ。貴殿を創作魔法の使い手として夏至祭へ招待いたします。赤い少女と、アーティファクトも同様に。

わが校の優秀なるOB、スコリィとイゴラも招待済みである。魔法学校グラスゴウン理事長、アダムン・スミス』


手紙を読んでフクロウが消えていった空を見つめる。

「ついに、魔法学校か……」

夕暮れ。きれいな橙色に染まる空は、これから不吉な出来事が起こるなんて微塵も感じさせないように、隠し事をしているようだった。


***

「えっと、こんなの送られてきたんだけど」

カウンターでウトウトしていたスコリィが手紙を見た瞬間飛びのいて驚く。

「うおっ! 魔法学校の夏至祭っすか!?」


「そんなに驚くようなことなの?」


「夏至祭とか言いながらハードな総合運動文化祭っす! 成績優秀だった卒業生に、たまに手紙を送っているみたいっす!」


「運動会と文化祭をいっぺんにやろうとしているんだね……」


「そんな生ぬるい感じじゃないっす! とにかくドカーンと暴れてさらに美しさも求められるっす!」


「全然わかんないんだけど」

僕が首をひねると、イゴラくんが台所から出てきた。


「基本的には先生方の召喚した魔物と競ったり戦ったりして、勝てばいいんですよ。優秀だった卒業生は特別ゲストとしてよく呼ばれます」


「なるほど。スコリィもイゴラくんも優秀だったって本当だったんだね」


「失礼っす! 魔法実技は私はトップだったっす!」


「そうですよ。スコリィさんすごかったんですよ。まあ、僕は実技はいまいちで勉強ばかりでしたけど……」


「二人は同学年なの?」


「うーん、同学年は同学年なんすけど、魔法学校グラスゴウンは完全単位制だから、好きな時期に入って単位がそろったら卒業って感じです」


「てんちょーのいた世界の学校とはちょっと違うっす。種族によって寿命や時間の感覚が違うから、時間もまちまちっす。種族によっては100年くらい通っている生徒もいるっす」

いくら異世界でも100年って……。もはや先生になるのでは……。


「だけどそれじゃ、僕が呼ばれる理由がわからないんだけど」


「たぶん、ルルドナさんを召喚獣か何かだと勘違いしているっす」


「ああ、それで……」


「私が、なんだって?」


買い出しから戻ってきたルルドナが、店の前で雑談していた僕たちに話しかけてきた。

「魔法学校から、ルルドナって召喚獣だと思われているみたいだよ」

僕は手に持った手紙をヒラヒラと揺らしてルルドナに見せる。彼女は片眉をピクリと動かして、手紙の文字を読む。

「魔法学校?」


「そうっす! ここから南西にずっといったところにある巨大な学校っす!」


「強い召喚」


「なんで私たちのこと知っているの?」


確かにそうだ。いくら強くても、こんな田舎の強さまでわかっているのはおかしい。

イゴラ君が考え出す。

「うーん、それが謎なんですよね」

……まさか、スパイが!?


あたりをキョロキョロ見渡すが何も見えない。


……まさか、仲間に内通者が?


「あ、アタシが学校に通っている友達に手紙出しちゃったっす! 素敵で、しかもめちゃくちゃ強い赤い少女がいるって」


……お前かよ!


考えすぎていた僕がこっそり胸をなでおろすと、ルルドナは言った。

「素敵ってところ、もっと強調して友達に手紙を送りなさい! 素敵でかわいくて美しくて強すぎる私が夏至祭で大暴れしてやるって!」


乗り気なルルドナに僕は驚く。

「え、行くの?」


てっきり店のことをやったほうがマシと言うと思っていたから。ルルドナは店の看板を指さして言う。

「当たり前でしょ! 活躍してこの雑貨屋『クラフルナティ』の名前を売るのよ。ついでに、売れ残りも高級品ってことにして売りつけるのよ!」


「……こういうときは本当にしっかりしているなあ」

商売やっているから見習わないと……。


かくして、僕たちの魔法学校夏至祭への参加が決まったのだった。


***

魔法学校出陣メンバーは、僕、ルルドナ、スコリィ、イゴラになった。

ペッカとスラコロウは大勢で騒ぐところに行きたいくないとのことで、見送った。


ガディは大きな学校にあこがれていたようだが、四代元素精霊の一族が来たら大騒ぎになるとスコリィに止められた。


準備に何をすればいいかわからない僕たちは、店の売れ残り……、もとい芸術作品をもって出かけた。


ガディが竹筒の水筒を僕に渡す。

「店長さん、この水筒を」


「これは?」


「水の精霊である私の入った水です」


「え、何? このタイミングでこんな変化球で……愛の告白?」


ガディが表情でツッコミをしてくる。

「どうしてそうなるんですか!?」

「いやぁ、残り湯ってそういうことじゃん」

「絶対違うっす! 変態っす!」

スコリィがすかさずツッコミをしてくる。そういや、ルルドナの残り湯どうしたっけ? ケイロンが欲しがっていたけど。まあいっか。

僕が右上のほうへ意味もなく視線を向けていると、ガディが説明をしだす。


「……私は、一度入った水なら移動できます。もし、万が一何か危険なことがあったら、その蓋を開けてください。すぐに助けに行きます」

僕は笑って答える。

「魔法学校のお祭りだから、心配しなくて大丈夫だよ」

こちらの楽観的な返事にもガディは暗い顔だ。


「……だと、いいんですが……。あの概念の怪物がまた出てくるかもしれないと思うと……。私も伝承で地上の負のエネルギーが集まって怪物になると聞いたことがあるだけで詳しくはわからないのですが……」


「なるほどね。大丈夫だよ。きっと白髭の校長先生が何でもやっつけてくれるよ」


「とにかく、ピンチのときに開けてくださいね。怪物のこと、シフトの合間に調べておきますから」

ガディのシフトめちゃくちゃ多いんだよね。水に入ると体力がほぼ回復するからつい一日に二回も三回もシフトを入れてしまう……。また時給を上げてやろう。


にしても、……これはフラグになるな、と思いながら、僕は水筒をリュックに詰め込む。


ルルドナは僕が水筒を詰め込んだのを確認すると先頭に立って歩きだす。

「じゃ、行ってくるわ!」


「無茶はするなよ」ペッカが僕を睨むように見る。

「土産話、よろしくな」スラコロウは、表情はわからない。


乗り気なルルドナとは違って、スコリィはちょっとだけ複雑な表情だ。イゴラくんはよくわからない。


僕は特に何も考えずに、淡々と歩く。


(今回は地味なわき役で過ごせそうだ)


……だけど、僕はそこで自分の重大な秘密を知ることになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ